正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

文字の大きさ
23 / 127
第一章 呪われし者

狂った未来

しおりを挟む
「それにしても大学の時以来じゃない? エフェルと酒飲むなんてさ」

 注文が一息ついたところで、ギルは当時を懐かしむようにそう言った。

「そういえば、ねえさんと二人で住むようになってから、『姉貴あねきが夕食を用意して待ってるから』って、家に帰ること多くなったもんな。それが今日はここにいるなんて。お前まさか、ほんとにデートだとか言わないよな?」

 ディーンが疑いの眼差まなざしでエフェルローンを見る。
 エフェルローンは眉間に立皺たてじわを刻むと、不機嫌そうにこう言った。

「歓迎会だよ。新人のね」

 その言葉に、ギルが即座に反応する。

「おっ、君。新人なの? 可愛いね~、いくつ?」

 そう言って、ルイーズにズイズイと押し迫るギル。
 彼は、憲兵庁の中でも無類の女好きで有名であった。

「あ、ありがとうございます。い、一応今年で二十一歳です……」

 後ろにずり下がりながら、困ったような顔でそう答えるルイーズ。
 栗色の瞳がおろおろと、左右を行ったり来たりしている。

(ったく、いわんこっちゃない……)

 先に運ばれてきた葡萄酒ワインをちびちびやりながら、エフェルローンは冷めた目でじりじりとルイーズに迫るギルを見る。

「なんだ、気になるのか?」

 耳元で、ディーンがからかうようにそう言う。

「まさか」
「だろうな、どうせお前の頭ん中はクローディアの事で一杯なんだろうし……だろ?」

 そう言って、ディーンは同じく食事より先に運ばれてきた麦酒エールあおる。

クローディア――かつて将来を誓い合った、元婚約者。そして、今は――。

「しらねーよ、馬鹿」

 ディーンに心を読まれたことにイラっとしながら、エフェルローンも赤葡萄酒ワインあおる。
 
 と、そのとき。

「あのお、伯爵。質問です」

 ギルの質問攻めで壁際に追い詰められていたはずのルイーズが、胸元で小さく手を上げた。

「はいルイーズさん、質問どうぞ~」

 ギルがノリも良くそう言って質問を促す。

「クローディアって、誰デスか?」

 ルイーズの、その質問に。
 
「お?」
「おお~?」

 ディーンとギルの目がパッと輝く。
 そして、二人同時にエフェルローンを見た。

 目の前に座っているルイーズはというと、なぜか酷く落ち着かない様子でエフェルローンを見ている。

(なんなんだ、一体……)

 訳が分からず、エフェルローンは取り敢えず葡萄酒を一口飲み下す。
 そして、きっぱりとこう言い放った。

「ノーコメント」

 その答えに、ギルが鼻を鳴らした。

「なーにが、『ノーコメント』だよ。色々と未練たらしい男だなぁ、まったくもう」

 茶化しながらそう言うギル。

「元彼女で婚約者だよ、こいつがまだ大きかった頃のね。今じゃ父親の強い意向で彼女はキースリー伯爵夫人だ。本人の意志ってのもあるだろうに、全く……むごい話さ」

 そう言って麦酒エールを流しのみ、口元を手の甲で拭うディーン。
 その目は若干の哀愁を帯びる。

「元婚約者、ですか」

 ルイーズは複雑そうな面持ちでそう言うと、水を一口ひとくち口に含む。
 両手で水のグラスを持ち、伏目がちに下を向くルイーズの瞳の奥には、安堵の中にも不安が同居しているようにも見えた。

 と、そんなルイーズを気の毒そうに眺め遣ると。
 ディーンは椅子の背もたれに深くもたれ掛かりながら、しみじみとこう言った。

「もし、あのときさ。任務が上手くいっていたら、エフェルの人生も変っていたのかもな」

 腕を組み、そう過去を惜しみながら、ディーンは酒をあおる。
 それに続くように、ギルも手元の酒杯ゴブレットの中身を見つめながら、何かに当て付けるかのようにこう言った。

「それに、ダニーの人生もね。彼ってば、今、王立図書館で司書やってるって。かつては未来の憲兵庁長官か、なーんて期待されてたのに。どこで何がどう狂っちゃったんだろうねぇ……」

 皮肉めいた口調でそう言うと、ギルは言葉に言い表せない不満や鬱憤を、手元の酒と共に飲み下すのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...