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第一章 遠く故郷に別れを告げて
君の瞳に見えるのは
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「あ……」
船のはるか後方に消えたロケットを、唖然と見つめるミリアに。
紅茶色の髪の青年は、困ったように苦笑すると、ロケットが滑り落ちたはずの片掌をミリアの前でパッと広げた。
「あ、ロケット!」
(今度こそ、本当に落とされてたまるもんですか!)
手品のように湧いて出たロケットに、サッと手を伸ばすミリア。
だが、青年はそれよりも早く掌を閉じ、ロケットをどこかに隠してしまう。
そんな青年の悪戯じみた嫌がらせに。
ミリアは堪らず、こう怒鳴った。
「もう、何でこんな酷いことするんですか!」
そう言って、甲板でドンと足を踏みならすミリアに。
青年は、ムッとした表情でこう言い放った。
「さっき、君……船から落ちそうになっていたのに、手すりを掴むどころか叫び声ひとつ上げなかったじゃない?」
「そ、それは突然のことにびっくりしてしまって、声が出なかっただけで――」
「ふーん、ほんとかなぁー?」
そう言って、疑いの眼差しでミリアを見下ろす紅茶色の髪の青年。
まあ、確かに。
少し悲しい気持ちになって、「このまま何処かへ飛んでいけたらなぁ」とか、思ったりもした。
でも、だからと言って、このまま海に飛び込もうとか、消えてしまいたいとか、そんな考えは、考えは――。
(あった、よね……)
そう思い至り、深いため息と共に肩を落とすミリアに。
青年も、ため息をひとつ吐くと、恨みがましくこう言った。
「酷いのはどっちだよ、ほんとに……」
そう言って頭をかく青年の顔は、少し青ざめて見えなくもない。
なんだかすごく申し訳なく思い、ミリアはもごもごと、小さな声でこう言う。
「そ、その……ごめんなさい」
「もういいよ。ただ、ひとつ聞きたいんだけど」
青年はそう前置きすると、ミリアの青い瞳をじっと見つめながら真面目な顔で尋ねて言った。
「君さ、何のためにロケット見てるの?」
(なんの、ため?)
ミリアの思考が一瞬止まる。
そんなミリアに追い打ちをかけるように、青年は続けざまにこう言う。
「それを見て、元気でるの? 力が湧いてくる?」
そう問われ、ミリアは思わず硬直する。
屈託なく笑うエリックに、幸せそうに寄り添うクレア。
一か月前まで、クレアのいるその席は……ミリアのものではなかったか。
ロケットを見る度に感じるのは、懐かしさでも、愛おしさでもなく、怒りや悲しみ、そしてクレアを羨むどす黒い嫉妬の炎――。
「それ、は……」
そう言って口ごもるミリアに。
青年は、一呼吸置くと、ミリアの顔をじっと見つめながら率直にこう言った。
「俺には、これを開いて眺める君の瞳に、涙しか見えない」
「あ……」
――エリックとクレアはいずれ結婚する。
その現実を、改めて突き付けられたミリアの瞳から、ポロリと涙が零れ落ちる。
そんなミリアの様子に、青年は口をへの字に曲げるとこう言った。
「ほら、やっぱり……」
「やっぱり、分かっちゃいますよね……」
そう言うと、ミリアは軽く頭を横に振り、困ったような笑みを青年に向けるとこう言った。
「私は……ミリアと言います。故郷で恋人と親友……二人を同時に失った、不運で惨めで……間抜けな女です」
そう言って、またも無理やり笑顔を作るミリアに、青年は、至極真面目な顔でこう言った。
「そうか……」
ため息と共にそう言うと、青年は後頭部を片手でかきかき、上目遣いにこう言った。
「あー、もし良かったら、そのこと……俺に話してみない? 独りで抱え込むより、少しは気持ちが軽くなるかもよ? どう? 話してみる気、ある?」
エリックとクレアの婚約を知ってからの、故郷で過ごした最後の一ヶ月を思い出す。
――家族には絶対に迷惑をかけたくない。
その強い思いから、このショッキングな出来事を一人胸に秘め、耐え続けたミリアの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。
疑念や嫉妬で、ぐちゃぐちゃになった感情をどこにも吐き出すことが出来ず、ただ大きくなるその想いに耐え切れず、壊れそうになっていたミリア。
そんなミリアの話を、この青年は奇特にも聞いてくれるというのである。
もしかしたら、色々と騙されているのかもしれない。
でも今は、自分がどうにかなってしまう前に、この負の感情を吐き出してしまいたかった。
ミリアは、流れる涙を手の甲で無造作に拭うと、自分を冷静に見つめながらこう言った。
「……聞いて、くれますか? 全然、面白くもなんともない話ですけど」
そう言って、甲板にふと視線を落とすミリアに。
青年は安心させるように、やんわりと微笑みかけるとこう言った。
「大丈夫だよ。俺は、君のことを笑ったり、蔑んだりなんてしない。それに、君から聞いた話を言いふらしたりもしない。だから、安心して話してみてよ。あ、その前に……」
そう言うと、青年は着ている服の襟元を手早く正してこう言った。
「初めましてお嬢さん。俺はアキ。アキ・リーフウッド。ヨッパ島からの王都移住者だよ」
船のはるか後方に消えたロケットを、唖然と見つめるミリアに。
紅茶色の髪の青年は、困ったように苦笑すると、ロケットが滑り落ちたはずの片掌をミリアの前でパッと広げた。
「あ、ロケット!」
(今度こそ、本当に落とされてたまるもんですか!)
手品のように湧いて出たロケットに、サッと手を伸ばすミリア。
だが、青年はそれよりも早く掌を閉じ、ロケットをどこかに隠してしまう。
そんな青年の悪戯じみた嫌がらせに。
ミリアは堪らず、こう怒鳴った。
「もう、何でこんな酷いことするんですか!」
そう言って、甲板でドンと足を踏みならすミリアに。
青年は、ムッとした表情でこう言い放った。
「さっき、君……船から落ちそうになっていたのに、手すりを掴むどころか叫び声ひとつ上げなかったじゃない?」
「そ、それは突然のことにびっくりしてしまって、声が出なかっただけで――」
「ふーん、ほんとかなぁー?」
そう言って、疑いの眼差しでミリアを見下ろす紅茶色の髪の青年。
まあ、確かに。
少し悲しい気持ちになって、「このまま何処かへ飛んでいけたらなぁ」とか、思ったりもした。
でも、だからと言って、このまま海に飛び込もうとか、消えてしまいたいとか、そんな考えは、考えは――。
(あった、よね……)
そう思い至り、深いため息と共に肩を落とすミリアに。
青年も、ため息をひとつ吐くと、恨みがましくこう言った。
「酷いのはどっちだよ、ほんとに……」
そう言って頭をかく青年の顔は、少し青ざめて見えなくもない。
なんだかすごく申し訳なく思い、ミリアはもごもごと、小さな声でこう言う。
「そ、その……ごめんなさい」
「もういいよ。ただ、ひとつ聞きたいんだけど」
青年はそう前置きすると、ミリアの青い瞳をじっと見つめながら真面目な顔で尋ねて言った。
「君さ、何のためにロケット見てるの?」
(なんの、ため?)
ミリアの思考が一瞬止まる。
そんなミリアに追い打ちをかけるように、青年は続けざまにこう言う。
「それを見て、元気でるの? 力が湧いてくる?」
そう問われ、ミリアは思わず硬直する。
屈託なく笑うエリックに、幸せそうに寄り添うクレア。
一か月前まで、クレアのいるその席は……ミリアのものではなかったか。
ロケットを見る度に感じるのは、懐かしさでも、愛おしさでもなく、怒りや悲しみ、そしてクレアを羨むどす黒い嫉妬の炎――。
「それ、は……」
そう言って口ごもるミリアに。
青年は、一呼吸置くと、ミリアの顔をじっと見つめながら率直にこう言った。
「俺には、これを開いて眺める君の瞳に、涙しか見えない」
「あ……」
――エリックとクレアはいずれ結婚する。
その現実を、改めて突き付けられたミリアの瞳から、ポロリと涙が零れ落ちる。
そんなミリアの様子に、青年は口をへの字に曲げるとこう言った。
「ほら、やっぱり……」
「やっぱり、分かっちゃいますよね……」
そう言うと、ミリアは軽く頭を横に振り、困ったような笑みを青年に向けるとこう言った。
「私は……ミリアと言います。故郷で恋人と親友……二人を同時に失った、不運で惨めで……間抜けな女です」
そう言って、またも無理やり笑顔を作るミリアに、青年は、至極真面目な顔でこう言った。
「そうか……」
ため息と共にそう言うと、青年は後頭部を片手でかきかき、上目遣いにこう言った。
「あー、もし良かったら、そのこと……俺に話してみない? 独りで抱え込むより、少しは気持ちが軽くなるかもよ? どう? 話してみる気、ある?」
エリックとクレアの婚約を知ってからの、故郷で過ごした最後の一ヶ月を思い出す。
――家族には絶対に迷惑をかけたくない。
その強い思いから、このショッキングな出来事を一人胸に秘め、耐え続けたミリアの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。
疑念や嫉妬で、ぐちゃぐちゃになった感情をどこにも吐き出すことが出来ず、ただ大きくなるその想いに耐え切れず、壊れそうになっていたミリア。
そんなミリアの話を、この青年は奇特にも聞いてくれるというのである。
もしかしたら、色々と騙されているのかもしれない。
でも今は、自分がどうにかなってしまう前に、この負の感情を吐き出してしまいたかった。
ミリアは、流れる涙を手の甲で無造作に拭うと、自分を冷静に見つめながらこう言った。
「……聞いて、くれますか? 全然、面白くもなんともない話ですけど」
そう言って、甲板にふと視線を落とすミリアに。
青年は安心させるように、やんわりと微笑みかけるとこう言った。
「大丈夫だよ。俺は、君のことを笑ったり、蔑んだりなんてしない。それに、君から聞いた話を言いふらしたりもしない。だから、安心して話してみてよ。あ、その前に……」
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