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第九章 不穏な予感
愛しき息子の為ならば
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――分かりました、アキさんに掛け合ってみます。
アイリスの熱意に思わずそう言ってしまったものの。
アキがアイリスと会ってくれるかどうかは分からなかった為、難しいかもしれないことは伝えておいたのだが。
(アイリスさんの、あの必死な感じ……出来れば会わせてあげられたらいいんだけど)
そう思いながら家路を急ぎ、自宅の区画に足を踏み入れると。
「おお、ミリアちゃん。仕事お疲れ様じゃの」
元剣士団団長で、ミリアのお向かいさんであるエイベル老が、そう言ってミリアを労った。
「あ、エイベルさん。おはようございます!」
そう言って、あいさつしたミリアの視線の片隅に、エイベル以外の影を捕え、ミリアは、ふとその影を見つめた。
「こんにちは、お嬢さん。剣士団選抜試合以来かな?」
[武術大会]で会った壮年の男性が、エイベルの家の屋根の下に置かれた鉄製の椅子に腰かけ、ミリアにひらひらと片手を振った。
「あ……!」
ミリアは思わずそう声を上げる。
(あの人は、確か……それにしても、何で国王陛下がここに?)
「なんじゃ、ヒイト。お主、ミリアちゃんを知っておるのか」
そう言って、つまらなそうに口をへの字に曲げるエイベルに。
ヒイトと呼ばれた壮年の白髪交じりの男は、鉄製のテーブルに置かれたティーカップの紅茶を口元に運ぶと、それを一口啜ってこう言った。
「うん。この間の[武術大会]の時にね。あの時、堅物エダンが止めに来なければ、もう少し大会を楽しめたかもしれないのに……」
そう言って、恨みがましくそう言うヒイトに。
エイベルは、苦笑気味にこう言った。
「あやつとて、好きでお主を追い回している訳ではあるまい。出来るなら、自由にさせてやりたいと思っておるじゃろうて。お主を命を懸けて守るのが奴の務め。そう邪険にしてくれるな」
そう言って、かつての部下を庇うエイベルに。
ヒイトはため息交じりにこう言った。
「分かってはいてもねぇ。うざいよー」
そう言って、カップをソーサーの上に置くと、ヒイトは片手をこめかみに添えて唸った。
そんなヒイトを困ったように見遣ると、エイベルは宥める様にこう言う。
「まあ、お主ほどの腕があれば、そう思うのも仕方のない事なんじゃろうが。まぁ、ここは腹を括って、『それも仕事の内』と割り切るんじゃな。ほれ、お主の可愛い息子の為でもあるんじゃろうし」
そう言って、にやにやと笑うエイベルに。
ヒイトはまんざらでもなさそうにこう言った。
「それを言われるとねぇー。でもほんと、『息子の為』って思うだけで、どんな苦労にも耐えられちゃうから不思議だよー」
そう言って、顔をだらしなく綻ばせるヒイトに。
エイベルは、うんうんと頷くとこう言った。
「わしにとってもユートは可愛い孫のようなもんじゃ。あの子の窮地とあらば、この老体に鞭打ってでも助けに行くわい」
「だよねぇー」
そう言って、王太子のことで異様な盛り上がりを見せる、壮年と中年の男たち。
それを唖然と見つめていたミリアの存在を、改めて思い出したヒイトは、ミリアに声を掛けてこう言った。
「そう言えば、お嬢さん。大会で騎士になったグレック・ワイズナー君は元気にしているかな?」
「え? あ、はい。たぶん、元気にしていると思います」
(そうは言ったものの、マークさんと酷い別れ方しちゃって以来、グレックさんには会ってないんだよね……近々、謝りにいかないと)
そんなことを、頭の中で考えながら、ヒイトをぼんやりと見つめるミリアに。
ヒイトはにやりと笑うと、意味ありげにこう言った。
「春は、大熊の出没も多い。君も外に出る時は十分気を付けるといい。特に、森にはね」
「……はい」
そう言って、顔を赤らめ下を向くミリア。
と、そんなミリアにため息交じりで微笑むと。
ヒイトは、徐にエイベルに向き直り、至極真面目な顔でこう言った。
「昨夜、騎士に二人、犠牲者が出たらしくてね」
「やっぱり、奴かの?」
「だろうねー。私が出ていければいいんだろうけど、立場上、そういう訳にはいかないからねぇー」
そう言って、口惜しそうに紅茶を一口啜るヒイトに。
エイベルは、深いため息を吐きながらこう言った。
「難儀な立場よのう」
そう言って、エイベルも、テーブルの上のティーカップから紅茶を啜る。
と、その時――。
「あの……エイベル・ヘインズ元剣士団長殿とお見受けしますが、少しお話……よろしいでしょうか」
清潔感のある服をすっきりと着こなし、緩くウェーブの掛かった紅茶色の髪を後ろ手にきっちり結わいた青年が、エイベルの前にスッと姿を現した。
エイベルは、ゆるゆると視線を上げると、その若者に向かってこう尋ねる。
「うん? 何じゃ、お主は……」
ミリアは、その人物の変わりように、思わず声を裏返してこう言った。
「え……あ、アキさん?」
「なんじゃ、ミリアちゃんの知り合いか?」
エイベルは、そう言って、ミリアの顔を見つめる。
そんなエイベルに、アキは深々と頭を下げるとこう言った。
「申し遅れました。私は、アキ・リーフウッド。故ガイ・リーフウッドの弟です。今日は、ヘインズ元剣士団長殿にお願いがあって参りました」
そう言って頭を下げ続けるアキを、ヒイトが何故か緊張した面持ちで見つめる。
と、そんなヒイトを冷静な表情でちらりと見遣ると。
エイベルは、徐にアキに向き直りながら、とぼけた口調でこう言った。
「はて、なんじゃろうの」
「私を、あなたの弟子にしてください」
頭を下げたまま、微動だにせずそう言うアキに。
エイベルは眉間に眉を顰めると、アキの心中を探るように無言でアキを見つめる。
ミリアはというと。
そんなアキの、余りに不可解な行動に、ただただ唖然とするのであった。
アイリスの熱意に思わずそう言ってしまったものの。
アキがアイリスと会ってくれるかどうかは分からなかった為、難しいかもしれないことは伝えておいたのだが。
(アイリスさんの、あの必死な感じ……出来れば会わせてあげられたらいいんだけど)
そう思いながら家路を急ぎ、自宅の区画に足を踏み入れると。
「おお、ミリアちゃん。仕事お疲れ様じゃの」
元剣士団団長で、ミリアのお向かいさんであるエイベル老が、そう言ってミリアを労った。
「あ、エイベルさん。おはようございます!」
そう言って、あいさつしたミリアの視線の片隅に、エイベル以外の影を捕え、ミリアは、ふとその影を見つめた。
「こんにちは、お嬢さん。剣士団選抜試合以来かな?」
[武術大会]で会った壮年の男性が、エイベルの家の屋根の下に置かれた鉄製の椅子に腰かけ、ミリアにひらひらと片手を振った。
「あ……!」
ミリアは思わずそう声を上げる。
(あの人は、確か……それにしても、何で国王陛下がここに?)
「なんじゃ、ヒイト。お主、ミリアちゃんを知っておるのか」
そう言って、つまらなそうに口をへの字に曲げるエイベルに。
ヒイトと呼ばれた壮年の白髪交じりの男は、鉄製のテーブルに置かれたティーカップの紅茶を口元に運ぶと、それを一口啜ってこう言った。
「うん。この間の[武術大会]の時にね。あの時、堅物エダンが止めに来なければ、もう少し大会を楽しめたかもしれないのに……」
そう言って、恨みがましくそう言うヒイトに。
エイベルは、苦笑気味にこう言った。
「あやつとて、好きでお主を追い回している訳ではあるまい。出来るなら、自由にさせてやりたいと思っておるじゃろうて。お主を命を懸けて守るのが奴の務め。そう邪険にしてくれるな」
そう言って、かつての部下を庇うエイベルに。
ヒイトはため息交じりにこう言った。
「分かってはいてもねぇ。うざいよー」
そう言って、カップをソーサーの上に置くと、ヒイトは片手をこめかみに添えて唸った。
そんなヒイトを困ったように見遣ると、エイベルは宥める様にこう言う。
「まあ、お主ほどの腕があれば、そう思うのも仕方のない事なんじゃろうが。まぁ、ここは腹を括って、『それも仕事の内』と割り切るんじゃな。ほれ、お主の可愛い息子の為でもあるんじゃろうし」
そう言って、にやにやと笑うエイベルに。
ヒイトはまんざらでもなさそうにこう言った。
「それを言われるとねぇー。でもほんと、『息子の為』って思うだけで、どんな苦労にも耐えられちゃうから不思議だよー」
そう言って、顔をだらしなく綻ばせるヒイトに。
エイベルは、うんうんと頷くとこう言った。
「わしにとってもユートは可愛い孫のようなもんじゃ。あの子の窮地とあらば、この老体に鞭打ってでも助けに行くわい」
「だよねぇー」
そう言って、王太子のことで異様な盛り上がりを見せる、壮年と中年の男たち。
それを唖然と見つめていたミリアの存在を、改めて思い出したヒイトは、ミリアに声を掛けてこう言った。
「そう言えば、お嬢さん。大会で騎士になったグレック・ワイズナー君は元気にしているかな?」
「え? あ、はい。たぶん、元気にしていると思います」
(そうは言ったものの、マークさんと酷い別れ方しちゃって以来、グレックさんには会ってないんだよね……近々、謝りにいかないと)
そんなことを、頭の中で考えながら、ヒイトをぼんやりと見つめるミリアに。
ヒイトはにやりと笑うと、意味ありげにこう言った。
「春は、大熊の出没も多い。君も外に出る時は十分気を付けるといい。特に、森にはね」
「……はい」
そう言って、顔を赤らめ下を向くミリア。
と、そんなミリアにため息交じりで微笑むと。
ヒイトは、徐にエイベルに向き直り、至極真面目な顔でこう言った。
「昨夜、騎士に二人、犠牲者が出たらしくてね」
「やっぱり、奴かの?」
「だろうねー。私が出ていければいいんだろうけど、立場上、そういう訳にはいかないからねぇー」
そう言って、口惜しそうに紅茶を一口啜るヒイトに。
エイベルは、深いため息を吐きながらこう言った。
「難儀な立場よのう」
そう言って、エイベルも、テーブルの上のティーカップから紅茶を啜る。
と、その時――。
「あの……エイベル・ヘインズ元剣士団長殿とお見受けしますが、少しお話……よろしいでしょうか」
清潔感のある服をすっきりと着こなし、緩くウェーブの掛かった紅茶色の髪を後ろ手にきっちり結わいた青年が、エイベルの前にスッと姿を現した。
エイベルは、ゆるゆると視線を上げると、その若者に向かってこう尋ねる。
「うん? 何じゃ、お主は……」
ミリアは、その人物の変わりように、思わず声を裏返してこう言った。
「え……あ、アキさん?」
「なんじゃ、ミリアちゃんの知り合いか?」
エイベルは、そう言って、ミリアの顔を見つめる。
そんなエイベルに、アキは深々と頭を下げるとこう言った。
「申し遅れました。私は、アキ・リーフウッド。故ガイ・リーフウッドの弟です。今日は、ヘインズ元剣士団長殿にお願いがあって参りました」
そう言って頭を下げ続けるアキを、ヒイトが何故か緊張した面持ちで見つめる。
と、そんなヒイトを冷静な表情でちらりと見遣ると。
エイベルは、徐にアキに向き直りながら、とぼけた口調でこう言った。
「はて、なんじゃろうの」
「私を、あなたの弟子にしてください」
頭を下げたまま、微動だにせずそう言うアキに。
エイベルは眉間に眉を顰めると、アキの心中を探るように無言でアキを見つめる。
ミリアはというと。
そんなアキの、余りに不可解な行動に、ただただ唖然とするのであった。
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