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30.打ち上げ花火
しおりを挟む「…………花火っって………………
打ち上げ花火かよっっ?!?!?!」
「当たり前じゃん?花火といえば打ち上げ花火しかないでしょ~?まこは逆になんだと思ってたの?」
えぇぇぇぇ~~~?!
「え?打ち上げ花火の他に花火があるのか???」
上尾は本気でわからない顔をしている。
上尾家の財力舐めてたわ……。
てかっ、打ち上げ花火なんか買う金あったらなんかうまいもん食わせろっての!!!
「はぁ…………ツッコミ追いつかねぇ~」
まぁ、ここは漫才じゃなくて、
純粋に楽しむかぁ。
夏の空に開いたあの大きな花を、
俺たちは静かに見ていた。
いや、実際には静かではなかったかもしれない。
ただ、その迫力に、美しさに呑まれるようで、自分がこんなにもちっぽけだと言うことを不意に突きつけられたみたいで……
なんだかとても情けない気持ちになった。
「……………………………………っ…くそっ」
「…………まこ?」
「…………ちょっと、散歩いってくる。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
波の音はすごく落ち着く。
花火の音を聞いた後だからなおさらか。
「……いっ……た…………。」
ふと、足の親指と人差し指の間にいきなり
ピリピリとした痛みを感じた。
下駄の鼻緒で靴擦れしたのか…………。
だから、浴衣なんか着なくてもいいって言ったのに。
全くろくなことがない。
少女漫画とかだったらここでイケメンが
来るんだろうが、生憎そのイケメンとは
ケンカ中だ。
大体、花火なんて重大イベントだろうに、
俺は抜け出してきてしまって良かったんだろうか。
………………まぁ、武尊…シナリオではゆうは結局花火に来なかったから同罪か。
にしても、この潮風と靴擦れの相性は本当に最悪だな。
こんなのいいリラックススポットなのにもったいない。
もう一度この靴を履いて戻るのには気が引けるな……もう少しだけ、ここにいても……
「………………まこ?」
この…………声。
「…………た……………………ゆう。」
気まずいからって、明らかに一線を引いてしまった。
武尊が驚いたような顔から眉間を少し寄せる。
「……こんなとこで何やってる。」
はぁ?まずは昨日俺を襲ったことを謝るのが先だろうが!!
「………………夏でも夜は冷える。」
ふわっ、と肩に乗せられたカーディガンに
自分の体が硬直したのが分かった。
「…………………………。」
「…………昨日は、悪かった。」
……本当は、謝って欲しくなんてない。
「……………………もう、いいよ。」
……本当は…………許るしてない。
この空気に耐えられなくなった俺は、
素早くこの空間から逃げようとする。
「まこっ…………待てよ。」
まるで野良猫でも摘むように、
武尊は俺の浴衣の襟を掴んだ。
「うぐっ?!…………っちょっ……
何すんだよ!!!」
「あ…………すまん。」
首絞め殺されるかと思った……
「…………………………なんだよっ。」
「……………………?!お前っ…………なんだこれ!!」
今度は本当におれの胸ぐらを掴んでくる。
正直、めっちゃこわい。
「…………はぁ??何ってなんだよ!!
訳わかんねぇ!!ふざけんのも大概にっ……」
「……………………か……」
なんて言ったのかは分からなかったが、
…………武尊のこの顔は……本気で怒っている顔だ。
「……………………上尾がやったのかっ」
「…………?上尾??………おい、本当になんのこ………………んんっっ?!?!」
武尊がいきなり俺の首に顔を近づける。
そうして、小さな声で俺の名前を、
俺の前世の名前を呼んだ。
なんで…………今なんだよ。
吐息が首にかかり、そのまま俺の首に吸血鬼か何かのように吸いついた。
「…………んぁっ……………なにっ……し」
ドクン。
と、心臓が大きく脈打つのがわかると、
首から痺れがひろがって、
体中に熱い血液が流れる。
なんかっ…………なおにもこんなことされたようなっ。
………………でも、なんか…………違う…変…。
「…………んっ…………わぁっ!!…………」
膝に力が入らなくなり、腰が抜けてしまった。
ただでさえ発情期なのにぃぃぃっ……
「…………やっぱり、さっきの謝罪は取り下げさせてもらう。」
「─────────お前が好きだ。」
…………………………………………え
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