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序章
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スヴァルツ王国にとって刺繍は重要な役割を果たしているFF。貴族や王族の衣装や小物などに用いられ地位を象徴するものであった。
16歳で成人を迎えて婚姻が許され、社交界デビューを果たすこととなる。
パーティに身に着けるものに刺繍をするのは自分の腕を見せるため。
同性婚(男のみ)が許されているこの国で、良い嫁ぎ先を見つけるために女性は刺繡を習い、男性は領地や事業などの運営に必要なことを学ぶ。
タズリー伯爵家の姉妹も同じであった。
姉のアレッタは美しきバラと呼ばれている。金色の髪を緩やかに巻きつけ、色気のある目元をした気遣いのできる優しい令嬢である。
妹のレナーテは可愛い小鳥と呼ばれている。銀色のサラサラとしたストレート髪とぱっちりとした瞳をもつ。ふわふわと甘いお菓子のようなかわいらしさがあり、保護欲をかきたてられる。
パーティに出れば彼女らの周りには人が集まってくる。美しいだけでなく刺繍の腕も素晴らしいからだ。
「まぁ、流石、タズリー伯爵家のご令嬢ね。濃い色のドレスに髪の色と同じ糸を使った刺繍が素敵ね」
「ありがとうございます。皆様に追いつきたくて懸命にやってきただけですわ」
「また、謙虚なことを」
姉妹はパーティの華であり話題に上がる人物なのだ。だからパーティに行くのはやめられない。
今日もいい気分で家に帰る、そうなるはずであった。
だが機嫌が良いのはアレッタだけ。レナーテは早々に部屋へ戻ってしまった。
パーティの会場であるできごとが起きた。
ふたりを射止める殿方は誰だろうと噂をされていたが、第三王子の婚約者候補の一人としてアレッタが選ばれたのだ。
一度は夢見る相手だが選ばれるのは後ろ盾として、もしくは申し分ない身分、優れた容姿、刺繍の腕……すべて彼女は持っているからだ。
機嫌よくアレッタは自室へ戻る前にある場所へと向かう。
そこは日当たりのよくない、角にある狭い部屋である。中に入りたくはないのだが必要なモノがここにあるから仕方がない。
ノックもせずにドアを開くと古い椅子に腰を下ろしてボロボロなテーブルの上で作業をする、黒髪の細い体をしたみすぼらしい男がいる。
ゆっくりと視線が向けられる。同じ青色の目がアレッタをイラつかせる。
「視線は下に向けなさい。もしくは髪で隠しなさい」
「はい、申し訳ありません」
前髪は長く、作業をするときは刺繍糸で縛っていた。それをほどいて前髪で目元を隠した。
「ヴェルネル、明後日までにプレゼント用のハンカチに刺繍をしておきなさい」
懇意にしている公爵家の令嬢からお茶会の誘いを受けており、その時にハンカチを贈るつもりであった。
上等なシルクの布と糸。男が刺繍をとはじめのころは嫌悪していたが、彼の腕前は本当に素晴らしいのだ。利用価値がある。
ただ、許せないことがある。父親が庶民との間に作った子供、ヴェルネルは私生児であった。
刺繍の腕前がなければこの家には来ることはなかっただろうと父親が言っていた。
そうでなければ兄と姉妹もこの家に一歩たりとも入れることはなかっただろう。
彼はただの使用人。アレッタのために利用されればいい。
「わかりました」
とても小さくて不気味な声。姿だけでなく声までこうなのだから刺繍の腕がなかったらこの家にいることを許さなかっただろう。
用事が済んだので狭くて汚い部屋から出る。
後は家族と今日のことを語り合おう。家族は喜びたくさん褒めてくれるだろう。それにレナーテの悔しがる顔も見たい。
「あぁ、楽しみね」
想像すると口元が緩んできて、それを手で覆い家族の待つ部屋へと向かった。
16歳で成人を迎えて婚姻が許され、社交界デビューを果たすこととなる。
パーティに身に着けるものに刺繍をするのは自分の腕を見せるため。
同性婚(男のみ)が許されているこの国で、良い嫁ぎ先を見つけるために女性は刺繡を習い、男性は領地や事業などの運営に必要なことを学ぶ。
タズリー伯爵家の姉妹も同じであった。
姉のアレッタは美しきバラと呼ばれている。金色の髪を緩やかに巻きつけ、色気のある目元をした気遣いのできる優しい令嬢である。
妹のレナーテは可愛い小鳥と呼ばれている。銀色のサラサラとしたストレート髪とぱっちりとした瞳をもつ。ふわふわと甘いお菓子のようなかわいらしさがあり、保護欲をかきたてられる。
パーティに出れば彼女らの周りには人が集まってくる。美しいだけでなく刺繍の腕も素晴らしいからだ。
「まぁ、流石、タズリー伯爵家のご令嬢ね。濃い色のドレスに髪の色と同じ糸を使った刺繍が素敵ね」
「ありがとうございます。皆様に追いつきたくて懸命にやってきただけですわ」
「また、謙虚なことを」
姉妹はパーティの華であり話題に上がる人物なのだ。だからパーティに行くのはやめられない。
今日もいい気分で家に帰る、そうなるはずであった。
だが機嫌が良いのはアレッタだけ。レナーテは早々に部屋へ戻ってしまった。
パーティの会場であるできごとが起きた。
ふたりを射止める殿方は誰だろうと噂をされていたが、第三王子の婚約者候補の一人としてアレッタが選ばれたのだ。
一度は夢見る相手だが選ばれるのは後ろ盾として、もしくは申し分ない身分、優れた容姿、刺繍の腕……すべて彼女は持っているからだ。
機嫌よくアレッタは自室へ戻る前にある場所へと向かう。
そこは日当たりのよくない、角にある狭い部屋である。中に入りたくはないのだが必要なモノがここにあるから仕方がない。
ノックもせずにドアを開くと古い椅子に腰を下ろしてボロボロなテーブルの上で作業をする、黒髪の細い体をしたみすぼらしい男がいる。
ゆっくりと視線が向けられる。同じ青色の目がアレッタをイラつかせる。
「視線は下に向けなさい。もしくは髪で隠しなさい」
「はい、申し訳ありません」
前髪は長く、作業をするときは刺繍糸で縛っていた。それをほどいて前髪で目元を隠した。
「ヴェルネル、明後日までにプレゼント用のハンカチに刺繍をしておきなさい」
懇意にしている公爵家の令嬢からお茶会の誘いを受けており、その時にハンカチを贈るつもりであった。
上等なシルクの布と糸。男が刺繍をとはじめのころは嫌悪していたが、彼の腕前は本当に素晴らしいのだ。利用価値がある。
ただ、許せないことがある。父親が庶民との間に作った子供、ヴェルネルは私生児であった。
刺繍の腕前がなければこの家には来ることはなかっただろうと父親が言っていた。
そうでなければ兄と姉妹もこの家に一歩たりとも入れることはなかっただろう。
彼はただの使用人。アレッタのために利用されればいい。
「わかりました」
とても小さくて不気味な声。姿だけでなく声までこうなのだから刺繍の腕がなかったらこの家にいることを許さなかっただろう。
用事が済んだので狭くて汚い部屋から出る。
後は家族と今日のことを語り合おう。家族は喜びたくさん褒めてくれるだろう。それにレナーテの悔しがる顔も見たい。
「あぁ、楽しみね」
想像すると口元が緩んできて、それを手で覆い家族の待つ部屋へと向かった。
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