伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

文字の大きさ
3 / 25

庭での出会い 1

しおりを挟む
 ヴェルネルは黒い髪と茶色い目を持つ。栄養が足りていない体は背はそこそこ高いがやせ細っていて、肌は荒れ着ている服も継ぎはぎだらけでボロボロであった。そのせいでまるで枯れた枝のようだと笑われる。

 母親は庶民であり、下賤な血が混じった私生児だからと冷遇されていた。家族だと認められず使用人と同じように呼ぶように言われている。

 血のつながりのことを知っているのはタズリー家の者と執事、そして侍女長だけだ。他の使用人達からは刺繍の腕を買われた庶民だと思われていて、自分たちよりも扱いが悪いこともあって下に見ているのだ。

 部屋は使用人用に建てられた場所にあり日当たりが悪く狭い。

 与えられる食事は二回。廃棄寸前の硬いパン、食べ残った具のないスープのみだ。腐ってカビが生えていないだけましではあるが。

 庶民は男でも刺繍をするものがいる。金になるからだ。だが貴族は違うようで女がするものだとバカにされた。

 それでも、刺繍は母親との楽しい思い出の一つ。ヴェルネルにとって大切なものであるし、自分がこの家で生きる価値はそれしかないのだ。

 どんなに辛い目にあっても耐え抜いているのは母との約束があったから。つらくとも生きてほしい、その願いは必ず守りたい。




 ヴェルネルに許されるのは部屋で刺繍をする、たまに夜の数分だけ散歩をすること、それだけだ。

 今日は庭に出られる。嬉しくてスケッチブックと鉛筆をもっていく。

 今の時期だとバラが咲いているだろう。

 花を見ながら図案を考えるのだが、夢中になると周りが見えなくなる。だからすぐそばに誰かがいることに気が付けなかった。

「ほう、うまいものだな」

 声を掛けられて心臓が飛び出るくらいに驚いた。持っていたスケッチブックと鉛筆が地面に落ちた。

 誰かが来た時は隠れるか部屋に戻ること。義母からきつく言いつけられていたことだ。

 荷物を拾おうとするが先に相手にとられてしまった。

「君は?」

 どうしたらいいのか混乱して何も言えずに俯いた。

「どうした話せないのか」
「あ……」

 怖い。見つかったら仕置きをされるだろう。背中や足を鞭で打たれて、痛くて刺繍をするのがしんどくなる。

 逃げなければいけないのに足が動かず、血の気を失い体が震えだす。

「寒いのか」

 震えているなと言われ体に何かを掛けられ、ヴェルネルは顔を上げた。

 目の前にいるのは整った容姿を持つ身なりの良い男だった。

 そして肩にかかっているのは彼が着ていただろう上着である。

「え、あっ」

 慌てて脱ごうとするが彼の手がそれを止めた。

「そんなに薄着でいては風邪をひく。着ているといい」

 そういうと彼は立ち去った。

 目の前で起きたことは夢ではないだろうか。この家に連れてこられてからといもの優しくされたことがなく、ポーっと彼のの後姿を眺めていると、すぐに現実に引き戻されることとなる。

 侍女が上等な上着を肩に掛けたヴェルネルを見つけたからだ。

「どうしてお前がそれを着ているの!」
「え?」
「よこしなさい」

 上着を奪われてしまい、呆然としている間に侍女は屋敷へと行ってしまった。きっと先ほどのことを報告しに行くのだろう。これは仕置き決定だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

氷の薔薇は砕け散る

ファンタジー
『氷の薔薇』と呼ばれる公爵令嬢シルビア・メイソン。 彼女の人生は順風満帆といえた。 しかしルキシュ王立学園最終年最終学期に王宮に呼び出され……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役(っぽい)令嬢、婚約破棄され(そうにな)る

ひぽたま
ファンタジー
悪役(っぽい)巻き毛の公爵令嬢、マルガリータはある日突然、婚約者たる王子に告げられた。 「マルガリータ令嬢、そなたとの婚約を破棄する!」 聞けば王子は病に侵された際、心を込めて看病してくれた平民出身の令嬢にほだされたのだという。 それはそれでいたしかたないが、マルガリータには質さなければならない事情があってーー。 (pixivに先に掲載したものです)

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...