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庭での出会い 1
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ヴェルネルは黒い髪と茶色い目を持つ。栄養が足りていない体は背はそこそこ高いがやせ細っていて、肌は荒れ着ている服も継ぎはぎだらけでボロボロであった。そのせいでまるで枯れた枝のようだと笑われる。
母親は庶民であり、下賤な血が混じった私生児だからと冷遇されていた。家族だと認められず使用人と同じように呼ぶように言われている。
血のつながりのことを知っているのはタズリー家の者と執事、そして侍女長だけだ。他の使用人達からは刺繍の腕を買われた庶民だと思われていて、自分たちよりも扱いが悪いこともあって下に見ているのだ。
部屋は使用人用に建てられた場所にあり日当たりが悪く狭い。
与えられる食事は二回。廃棄寸前の硬いパン、食べ残った具のないスープのみだ。腐ってカビが生えていないだけましではあるが。
庶民は男でも刺繍をするものがいる。金になるからだ。だが貴族は違うようで女がするものだとバカにされた。
それでも、刺繍は母親との楽しい思い出の一つ。ヴェルネルにとって大切なものであるし、自分がこの家で生きる価値はそれしかないのだ。
どんなに辛い目にあっても耐え抜いているのは母との約束があったから。つらくとも生きてほしい、その願いは必ず守りたい。
ヴェルネルに許されるのは部屋で刺繍をする、たまに夜の数分だけ散歩をすること、それだけだ。
今日は庭に出られる。嬉しくてスケッチブックと鉛筆をもっていく。
今の時期だとバラが咲いているだろう。
花を見ながら図案を考えるのだが、夢中になると周りが見えなくなる。だからすぐそばに誰かがいることに気が付けなかった。
「ほう、うまいものだな」
声を掛けられて心臓が飛び出るくらいに驚いた。持っていたスケッチブックと鉛筆が地面に落ちた。
誰かが来た時は隠れるか部屋に戻ること。義母からきつく言いつけられていたことだ。
荷物を拾おうとするが先に相手にとられてしまった。
「君は?」
どうしたらいいのか混乱して何も言えずに俯いた。
「どうした話せないのか」
「あ……」
怖い。見つかったら仕置きをされるだろう。背中や足を鞭で打たれて、痛くて刺繍をするのがしんどくなる。
逃げなければいけないのに足が動かず、血の気を失い体が震えだす。
「寒いのか」
震えているなと言われ体に何かを掛けられ、ヴェルネルは顔を上げた。
目の前にいるのは整った容姿を持つ身なりの良い男だった。
そして肩にかかっているのは彼が着ていただろう上着である。
「え、あっ」
慌てて脱ごうとするが彼の手がそれを止めた。
「そんなに薄着でいては風邪をひく。着ているといい」
そういうと彼は立ち去った。
目の前で起きたことは夢ではないだろうか。この家に連れてこられてからといもの優しくされたことがなく、ポーっと彼のの後姿を眺めていると、すぐに現実に引き戻されることとなる。
侍女が上等な上着を肩に掛けたヴェルネルを見つけたからだ。
「どうしてお前がそれを着ているの!」
「え?」
「よこしなさい」
上着を奪われてしまい、呆然としている間に侍女は屋敷へと行ってしまった。きっと先ほどのことを報告しに行くのだろう。これは仕置き決定だ。
母親は庶民であり、下賤な血が混じった私生児だからと冷遇されていた。家族だと認められず使用人と同じように呼ぶように言われている。
血のつながりのことを知っているのはタズリー家の者と執事、そして侍女長だけだ。他の使用人達からは刺繍の腕を買われた庶民だと思われていて、自分たちよりも扱いが悪いこともあって下に見ているのだ。
部屋は使用人用に建てられた場所にあり日当たりが悪く狭い。
与えられる食事は二回。廃棄寸前の硬いパン、食べ残った具のないスープのみだ。腐ってカビが生えていないだけましではあるが。
庶民は男でも刺繍をするものがいる。金になるからだ。だが貴族は違うようで女がするものだとバカにされた。
それでも、刺繍は母親との楽しい思い出の一つ。ヴェルネルにとって大切なものであるし、自分がこの家で生きる価値はそれしかないのだ。
どんなに辛い目にあっても耐え抜いているのは母との約束があったから。つらくとも生きてほしい、その願いは必ず守りたい。
ヴェルネルに許されるのは部屋で刺繍をする、たまに夜の数分だけ散歩をすること、それだけだ。
今日は庭に出られる。嬉しくてスケッチブックと鉛筆をもっていく。
今の時期だとバラが咲いているだろう。
花を見ながら図案を考えるのだが、夢中になると周りが見えなくなる。だからすぐそばに誰かがいることに気が付けなかった。
「ほう、うまいものだな」
声を掛けられて心臓が飛び出るくらいに驚いた。持っていたスケッチブックと鉛筆が地面に落ちた。
誰かが来た時は隠れるか部屋に戻ること。義母からきつく言いつけられていたことだ。
荷物を拾おうとするが先に相手にとられてしまった。
「君は?」
どうしたらいいのか混乱して何も言えずに俯いた。
「どうした話せないのか」
「あ……」
怖い。見つかったら仕置きをされるだろう。背中や足を鞭で打たれて、痛くて刺繍をするのがしんどくなる。
逃げなければいけないのに足が動かず、血の気を失い体が震えだす。
「寒いのか」
震えているなと言われ体に何かを掛けられ、ヴェルネルは顔を上げた。
目の前にいるのは整った容姿を持つ身なりの良い男だった。
そして肩にかかっているのは彼が着ていただろう上着である。
「え、あっ」
慌てて脱ごうとするが彼の手がそれを止めた。
「そんなに薄着でいては風邪をひく。着ているといい」
そういうと彼は立ち去った。
目の前で起きたことは夢ではないだろうか。この家に連れてこられてからといもの優しくされたことがなく、ポーっと彼のの後姿を眺めていると、すぐに現実に引き戻されることとなる。
侍女が上等な上着を肩に掛けたヴェルネルを見つけたからだ。
「どうしてお前がそれを着ているの!」
「え?」
「よこしなさい」
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