伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

文字の大きさ
13 / 25

婚約者の座は(レナーテ) 1

しおりを挟む
 けして仲の良い姉妹ではない。昔からどちらが上かと競い合っている。

 アレッタは先に生まれてきた分だけ有利だと思っている。だから余計に負けたくない。

 しかも似たもの同士だから何をするのか解ってしまう。刺繍のできは同じなのだから仕掛けてくるだろうということも。

 同じことをしていたら決着がつかない。アレッタはうまくいくと思っているようだがレナーテはそれを利用した。

 レナーテの専用侍女であるレアを報酬目当てで仲間にした、本人はそのつもりになっている。それはレナーテがそうするように命じていたのだ。

 レアによってすり替えられた刺繍は、さらにレアによってすり替えられた。ヴェルネルの刺繍を交換したというかたちでだ。

 提出する前に念のために確認するのは当日だろう。彼女は自分の計画がうまくいったと思い込んでいるから。

 当日にどういう動きをするか、侍女に見張りをさせておいた。すると王宮に向かった後にアレッタがいつも側に置いている侍女が急いでどこかへ向かった。

 きっと箱の中を見たのだろう。すり替えた刺繍を屋敷に取りに向かったのだ。

 あとは侍女が刺繍を持って王宮に戻ったときにレナーテが騒ぎを起こすだけだ。持ってきたはずの刺繍がないということを。


 計画通りに事が運ぶ。

 セルジュに持ってきたはずの刺繍が盗まれてしまったと訴え出た。そしてアレッタの刺繍は無事なのかを確認するために部屋に向かったのだ。

 だが本当は刺繍を二枚持つアレッタを犯人にするためにだった。

「どうなされましたの」

 なぜ、ここにきたのか気が付いたのだろう。侍女が刺繍を隠そうとしているがそうはさせない。

「あら、その箱が二つ、もしかして刺繍が入っているのでは?」
「え、な、何を」

 表情が硬く、うまく隠せていない。動揺しすぎだ。笑いそうになるのをこらえて侍女の箱を指さした。

「あちらとこちらの侍女が持っている箱ですわ」
「中を見せてはくれないか」

 侍女はどうするべきかとアレッタに視線を向けるが、セルジュに言われては従うしかない。

 おずおずと箱をテーブルに置いて箱を開けた。中には同じ図案の刺繍がある。

 一枚は美しい縫い目、もう一枚はそこそこうまく繍えているが比べてしまうと縫い目が荒く感じる。

「どうして君の侍女が同じ図案の刺繍を二枚持っているんだ」
「それは、間違えて失敗したものを持ってきてしまったので、上手にできた方をとりに行かせていましたの」

 言い訳を思いついていたようだが、レナーテはもう一つ手をうっておいたのだ。

 アレッタが何を言ってもうまくいかないように。

「お姉さま、刺繍を確認させてくださいませんか。実は私の刺繍がなくなってしまいましたの」
「まさか、私を疑っているのですか!」
「いいえ。ここに二枚刺繍があるということは一枚は私のものかもしれませんし」

 良いでしょう、と手を合わせて首をコテンと傾ける。相手が男性なら簡単に落ちるのだが、アレッタの眉間にしわが寄る。

「確認をするだけだ。見せてやれ」

 セルジュにはしっかりと効いたようだ。レナーテは唇に笑みを浮かべる。

「わかりました」

 刺繍を手に取り撫でる。そして裏面にしてある箇所を確認する。

「もうよいでしょう、返しなさい」

 アレッタが手を差し出すがそれに応えない。

「まさか、本当は自分の繍ったものがうまくいかなかったからと、私の繍ったものを自分のだというのではないでしょうね」

 先手必勝のつもりか。だが彼女には証拠がないのだ。もう無理だ。くすくすと笑い声がもれてしまった。

「何笑っているのよ」
「実は私、自分が繍ったものにサインをしておきましたの」

 自分の方がまだ有利だと思っているのか、レナーテから刺繍を奪い調べ始める。

「そんなものはありませんわよ」
「裏をごらんくださいませ」

 強気な表情が次第に弱気なものになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

氷の薔薇は砕け散る

ファンタジー
『氷の薔薇』と呼ばれる公爵令嬢シルビア・メイソン。 彼女の人生は順風満帆といえた。 しかしルキシュ王立学園最終年最終学期に王宮に呼び出され……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い

buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され…… 視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役(っぽい)令嬢、婚約破棄され(そうにな)る

ひぽたま
ファンタジー
悪役(っぽい)巻き毛の公爵令嬢、マルガリータはある日突然、婚約者たる王子に告げられた。 「マルガリータ令嬢、そなたとの婚約を破棄する!」 聞けば王子は病に侵された際、心を込めて看病してくれた平民出身の令嬢にほだされたのだという。 それはそれでいたしかたないが、マルガリータには質さなければならない事情があってーー。 (pixivに先に掲載したものです)

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...