伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

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婚約者の座は(レナーテ) 2

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 裏にはしっかりと証拠があるのだ。レティーナの名前が繍われていた。

「うそよ、こんなものはなかったわ」
「ですが、実際にありますわよ」

 といって名前をトンと指した。

「違います、私は盗んでおりません。きっと誰かが私を陥れようと」
「見苦しいですわ。正直にお認めになってくださいませ」

 チェックメイト。レナーテは勝ちを確信しセルジュの腕に縋りついた。

「嘘ではありません。信じてください」

 もうどうにもならないということが解らないのだろうか。

 刺繍をすり替えるというところまでしか思いつかなかったアレッタが悪いのだ。

「セルジュ様、私は自分の刺繍が戻ればそれで良いのです。お姉さまとはきちんと勝負をしたいのです」
「そうか。アレッタ、レナーテの優しさに感謝するのだな」
「そんな、私はっ」
「もうおやめになってお姉さま」

 憐れむようにアレッタの手をつかむ。

「レナーテ、貴方の企みねっ! セルジュ様、あれはあの子が刺繍をしたのではなく別の者が刺繍をしたものです」

 婚約者の座が遠のいたことに、今度はレナーテも道連れにしようとしている。

 だがそうはさせない。

「私は許すと申しましたのに。嘘を言って私を陥れようとするなんて酷いです」

 目に涙を浮かべてセルジュに縋りつく。きっと自分を守ってくれるだろう。

 だが、

「うむ、それならどうだろう。課題で渡した図案を俺の目の前で刺繍してもらうというのは」

 と都合の悪い流れとなっていく。

「そんな、セルジュ様」

 タズリー家の姉妹は刺繍をするのが大嫌いだ。先生もついたことがあったが、苦笑いをされてしまうほどの腕前だった。

 どうしてもうまく刺繍することができなくて途中で投げ出してしまったのだ。

 母親もどうやら刺繍をするのがすきではないらしく、別の物にやらせればいいのよと言ってくれたのだ。

 どの貴族でも刺繍が上手な侍女だったり職人だったりに繍わせるものだそうだ。

「ずっと刺繍をしていたから手が痛むのです」
「私もですわ」

 目の前で刺繍なんてしたら終わりだ。どうにかやらなくてよい方向へ持っていかなければならない。

「そうか、わかった」

 レナーテとは新たに婚約を結ぶのだから無理はさせられないと思ってくれたのだろう。

 ホッとした。だがそれも束の間のことだった。

「それでは婚約の話しは白紙としようか」
「え?」

 どうしてそうなるのだ。

「セルジュ様、うそですよね」

 婚約者とするからわかってくれたのではないのか。

「ふふ、あははは。残念だったわねレナーテ」

 もうすでに諦めてしまったのだろう。アレッタが声を上げて笑う。それが耳障りでレナーテは睨みつける。

「こわいお顔ですこと」

 冗談ではない。レナーテはまだ諦めてはいなかった。

「セルジュ様、私は嘘をついておりました。実は刺繍が苦手で他の者にさせておりました。これはヴェルネルというものが刺繍したものです」

 と。そして言葉を続ける。

「その者を連れて行きますから、私を婚約者に……」

 あれだけの腕の持ち主だ。セルジュもそれなら婚約者として迎え入れてくれる、そう思ったのに。

「うむ、それは彼のことかな」

 そういうと、静かに控えていたフレットが部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。

 ここにいるはずがない者を引き連れて。
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