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王都
シリル ②
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王都に戻ってからというもの、ファブリス以外に部屋を訪ねてくることはない。ランベールすら顔を見せてはくれない。
しかも、唯一の話し相手もこの頃は忙しいようで部屋に来れない時間が増えた。
暇をつぶすために本でも読もうかと思い、尻尾と耳が隠れる服を着て図書室へと向かうことにした。
護衛を一人連れて行けば使用を許可すると兄に言われていたので、部屋の前の護衛と共に向かう。
そこで出会ったのが、この図書館の司書であるレジスだ。
自分よりも高い位置にある本が気になり、背伸びをするがあと一歩届かない。
「おとりしましょうか」
と背後から声を掛けられてそちらの方へと顔を向ければ、随分と身体の細い雄であったが、美しい毛並の持ち主であった。
「あぁ。頼む」
欲しい本を取ってもらい、それを受け取る。
「申し付けて下さればご用意いたします」
と丁寧にお辞儀をする。
自分に声を掛けてきた司書は彼だけだ。他の者は挨拶はするものの、それ以外は話しかけてくることさえない。
それからというもの、シリルが図書館へとくるといつも彼が声を掛けてくれる。
「僕の相手をするのは嫌だろう?」
と聞いてみれば、目立たぬ所に連れて行かれ、隠れていて見えない尻尾をシリルに見せてくれた。
彼の尻尾はとても短く、これは生まれ持ってのものではない。明らかに誰かの手により切られたものだ。
「なんと」
言葉が出てこない。そんなシリルに、大丈夫ですよという。
「私は、とある貴族に飼われていました」
実に彼のような生き方をする雄もいる。
皆が身体格が良く生まれるわけではない。しかも裕福な家庭でなければ成長期にまともな食事を摂れずに細くて小さな身体になることもあるのだ。
毛並が良ければ、自身を綺麗に着飾り、金持ちや貴族に雌のように扱われながら飼われるのだ。
生きる為にしていることだ。シリルはそれについては何も言わない。
「本当はこんな暮らしは好きではありませんでした。ですが、私の家は貧しくてお金がどうしても欲しかった」
尻尾を切られたのは、他の男が自分に恋をしたためだ。彼から自分を買う為に交渉までした。
男には何人も相手がいたのに、他人が興味を持ったことに腹を立て、そして尻尾を切り落としたのだと言う。
「切られた時は流石にショックでしたが、それのお蔭でこの仕事に就くことができたのです」
獣人の尻尾と耳を切る行いは罪が重い。口を噤むための代償なのだろうか。
「……事件をもみ消すかわり、なのか?」
微笑みを浮かべるだけで答えないのは、肯定しているからなのか。
「そのお蔭でなんとか食べていけます」
「そうか」
家の為に辛いことも全て飲み込んでここで働いている。シリルが口を出せることではない。彼が納得しているのだから。
「お前、名は?」
「レジスと申します」
「そうか。よし、これからは僕の為にお勧めの一冊を選んで待っていろ」
「畏まりました」
レジスと別れて部屋へ戻る。
夕食のことを考えると憂鬱だなと思いながら部屋の扉を開けば、そこにはソファーで足を組んで座るランベールの姿がある。
「ランベールっ! 呼んでくれたらすぐに戻ってきたのに」
「本を読んでいたのだろう? 邪魔をしてはいけないと思ってね」
今日は良い出会いがあった。そのことを告げると、良かったねと頭を撫でてくれる。
「楽しみが一つできた」
「いいことだね」
おいでと手を差し伸べられ、それを掴んで彼の膝の上へと座らされる。
「ランベール」
そのまま抱きしめれば、温かくて安らぐ。
「シリル」
と唇が触れた。
「んっ、らんべーるっ」
息が上がる。
なんだろう、いつもするキスとは違う。
身体中が熱くなり、下半身がもぞもぞとしてしまう。
きっとランベールに対して恋心を持っていることに気が付いたから、身体が喜んでいるのだろう。
「はぁ、私の、かわいいこ」
腰に触れる手に、ビクッと身体が震える。
「や、ランベール、身体がおかしい」
自分の変化が怖く、目が潤みだす。ぎゅっと服を掴んで彼を見上げた。
「ん? どうやらやりすぎてしまったようだね」
抱きしめて背中を一定のリズムで叩く。
小さな頃、眠れない夜に抱きしめてこうやって叩いてくれたなと、懐かしく思い出す。
「温かいな」
「シリルはこうすると良く眠るからね」
「あぁ、そうだった、な」
うとうととし、意識が遠のく。
「……だよ」
何かささやく声が聞こえたが、シリルはそれを聞くことなく眠りへと落ちていた。
この頃は図書室で過ごす時間が増えてきた。
そこへ行けばレジスがいる。シリルの為にお勧めの一冊を選んで待っていてくれるのだ。
「シリル様、お待ちしておりました」
そう言って、笑顔で自分を迎えてくれるのは彼だけだ。
「レジス、今日のお勧めは?」
「はい。今日は星の本です」
それは綺麗な絵と共に星座の説明する本だった。
「王宮に星座を観察している部署があるのは知っておりますか?」
知っている。一度、いってみたいと思っていた場所だ。
「あぁ。レジスは行ったことがあるのか?」
「はい。実はそこに知り合いがおりまして」
なんと羨ましいことか。
「そうか。どんな場所なんだ?」
話だけでも聞きたいと尋ねれば、
「あの、興味がおありでしたら、行ってみませんか」
と誘われるが自分がいけるのはこの図書室までだろう。到底許可など下りぬだろうから無理だろうと答える。
「それなら、こっそりと抜け出すというのはどうでしょうか?」
大人しそうな顔をして、意外なことを言う。
「無理だな。護衛がいる」
護衛という見張りがシリルについているのだから。
「それならばこういう手はどうでしょうか。何冊か本を借りて部屋に戻ってください。そして明日、わざと本を忘れてきてください。護衛の方にどうしてもそれが読みたいのだと言い、取りにいってもらうのです。その間に私たちは抜け出す、と」
正直、わくわくした。
王宮は自分が生まれ育ったところなのに、行けない場所、知らない場所が多い。
少しくらいなら探検をしてみてもいいのではないだろうかとそう思った。
それに護衛はやる気がなさそうな雄なので、疑うことなく簡単に騙せそうだ。
「やろう」
「では、明日、作戦の決行ということで」
「あぁ」
久しぶりに胸がおどる。
何冊か本を借りて部屋を出てた。
しかも、唯一の話し相手もこの頃は忙しいようで部屋に来れない時間が増えた。
暇をつぶすために本でも読もうかと思い、尻尾と耳が隠れる服を着て図書室へと向かうことにした。
護衛を一人連れて行けば使用を許可すると兄に言われていたので、部屋の前の護衛と共に向かう。
そこで出会ったのが、この図書館の司書であるレジスだ。
自分よりも高い位置にある本が気になり、背伸びをするがあと一歩届かない。
「おとりしましょうか」
と背後から声を掛けられてそちらの方へと顔を向ければ、随分と身体の細い雄であったが、美しい毛並の持ち主であった。
「あぁ。頼む」
欲しい本を取ってもらい、それを受け取る。
「申し付けて下さればご用意いたします」
と丁寧にお辞儀をする。
自分に声を掛けてきた司書は彼だけだ。他の者は挨拶はするものの、それ以外は話しかけてくることさえない。
それからというもの、シリルが図書館へとくるといつも彼が声を掛けてくれる。
「僕の相手をするのは嫌だろう?」
と聞いてみれば、目立たぬ所に連れて行かれ、隠れていて見えない尻尾をシリルに見せてくれた。
彼の尻尾はとても短く、これは生まれ持ってのものではない。明らかに誰かの手により切られたものだ。
「なんと」
言葉が出てこない。そんなシリルに、大丈夫ですよという。
「私は、とある貴族に飼われていました」
実に彼のような生き方をする雄もいる。
皆が身体格が良く生まれるわけではない。しかも裕福な家庭でなければ成長期にまともな食事を摂れずに細くて小さな身体になることもあるのだ。
毛並が良ければ、自身を綺麗に着飾り、金持ちや貴族に雌のように扱われながら飼われるのだ。
生きる為にしていることだ。シリルはそれについては何も言わない。
「本当はこんな暮らしは好きではありませんでした。ですが、私の家は貧しくてお金がどうしても欲しかった」
尻尾を切られたのは、他の男が自分に恋をしたためだ。彼から自分を買う為に交渉までした。
男には何人も相手がいたのに、他人が興味を持ったことに腹を立て、そして尻尾を切り落としたのだと言う。
「切られた時は流石にショックでしたが、それのお蔭でこの仕事に就くことができたのです」
獣人の尻尾と耳を切る行いは罪が重い。口を噤むための代償なのだろうか。
「……事件をもみ消すかわり、なのか?」
微笑みを浮かべるだけで答えないのは、肯定しているからなのか。
「そのお蔭でなんとか食べていけます」
「そうか」
家の為に辛いことも全て飲み込んでここで働いている。シリルが口を出せることではない。彼が納得しているのだから。
「お前、名は?」
「レジスと申します」
「そうか。よし、これからは僕の為にお勧めの一冊を選んで待っていろ」
「畏まりました」
レジスと別れて部屋へ戻る。
夕食のことを考えると憂鬱だなと思いながら部屋の扉を開けば、そこにはソファーで足を組んで座るランベールの姿がある。
「ランベールっ! 呼んでくれたらすぐに戻ってきたのに」
「本を読んでいたのだろう? 邪魔をしてはいけないと思ってね」
今日は良い出会いがあった。そのことを告げると、良かったねと頭を撫でてくれる。
「楽しみが一つできた」
「いいことだね」
おいでと手を差し伸べられ、それを掴んで彼の膝の上へと座らされる。
「ランベール」
そのまま抱きしめれば、温かくて安らぐ。
「シリル」
と唇が触れた。
「んっ、らんべーるっ」
息が上がる。
なんだろう、いつもするキスとは違う。
身体中が熱くなり、下半身がもぞもぞとしてしまう。
きっとランベールに対して恋心を持っていることに気が付いたから、身体が喜んでいるのだろう。
「はぁ、私の、かわいいこ」
腰に触れる手に、ビクッと身体が震える。
「や、ランベール、身体がおかしい」
自分の変化が怖く、目が潤みだす。ぎゅっと服を掴んで彼を見上げた。
「ん? どうやらやりすぎてしまったようだね」
抱きしめて背中を一定のリズムで叩く。
小さな頃、眠れない夜に抱きしめてこうやって叩いてくれたなと、懐かしく思い出す。
「温かいな」
「シリルはこうすると良く眠るからね」
「あぁ、そうだった、な」
うとうととし、意識が遠のく。
「……だよ」
何かささやく声が聞こえたが、シリルはそれを聞くことなく眠りへと落ちていた。
この頃は図書室で過ごす時間が増えてきた。
そこへ行けばレジスがいる。シリルの為にお勧めの一冊を選んで待っていてくれるのだ。
「シリル様、お待ちしておりました」
そう言って、笑顔で自分を迎えてくれるのは彼だけだ。
「レジス、今日のお勧めは?」
「はい。今日は星の本です」
それは綺麗な絵と共に星座の説明する本だった。
「王宮に星座を観察している部署があるのは知っておりますか?」
知っている。一度、いってみたいと思っていた場所だ。
「あぁ。レジスは行ったことがあるのか?」
「はい。実はそこに知り合いがおりまして」
なんと羨ましいことか。
「そうか。どんな場所なんだ?」
話だけでも聞きたいと尋ねれば、
「あの、興味がおありでしたら、行ってみませんか」
と誘われるが自分がいけるのはこの図書室までだろう。到底許可など下りぬだろうから無理だろうと答える。
「それなら、こっそりと抜け出すというのはどうでしょうか?」
大人しそうな顔をして、意外なことを言う。
「無理だな。護衛がいる」
護衛という見張りがシリルについているのだから。
「それならばこういう手はどうでしょうか。何冊か本を借りて部屋に戻ってください。そして明日、わざと本を忘れてきてください。護衛の方にどうしてもそれが読みたいのだと言い、取りにいってもらうのです。その間に私たちは抜け出す、と」
正直、わくわくした。
王宮は自分が生まれ育ったところなのに、行けない場所、知らない場所が多い。
少しくらいなら探検をしてみてもいいのではないだろうかとそう思った。
それに護衛はやる気がなさそうな雄なので、疑うことなく簡単に騙せそうだ。
「やろう」
「では、明日、作戦の決行ということで」
「あぁ」
久しぶりに胸がおどる。
何冊か本を借りて部屋を出てた。
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