甘える君は可愛い

希紫瑠音

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年下ワンコはご主人様が好き

4・波多

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 隣でパンツ姿の久世が眠る。

 しかも、面倒だとそのまま寝てしまった筈なのに、久世のTシャツをきていた。

 大き目のそれは尻まですっぽりと隠れていて、可愛い子がこれをしたら色っぽく見えるだろうが、三十路のオヤジがこの格好をするのは見た目にもキツイ。せめて下にパンツくらいはと思い、拾い上げて身に着ける。

 時計を見ればまだ起きるには早い。

 久世の胸に額をつけるように抱きついて目を閉じる。人の体温は気持ちの良い暖かさだ。

 すぐに波多は眠りにおち、次に起きたのはタイマーの鳴る音でだった。

 今だ抱きついていた事に気が付いて慌てて離れ、ベッドから身を起こす。

 寝起きは特に悪くない久世も、その音で目を覚まして目をこすりながら、

「おはようございます、はたさん……」

 と挨拶をする。

「おはよう。飯を作るから、その間に準備しておけ」
「ふぁい」

 あくびまじりに返事をし、久世がのそりと起ちあがる。

 そしてすぐにアッと大きな声を上げて、その声に波多はビクッとする。

「いきなりなんだよ!」
「一緒に寝てたのに怒らないなって思って」

 そこはスルーしていてくれたらよかったものを。
 チッと舌打ちをし、何も答えずにキッチンへと向かう。

「波多さん?」

 返事がない事にパンツ一丁のまま後をついてくる久世へと軽めの裏手パンチを顔に食らわす。

「おぅ……」

 それは鼻へと当たり、痛そうに擦っている。

「シャワーを浴びてこい」
「はい」

 簡単な食事を用意し、風呂から出てきた久世に声を掛ける。

「俺は一旦帰るから。ちゃんと飯を食って。濡れた髪も乾かせよ」

 エプロンを背もたれに掛けて玄関へと向かう。

「波多さん」
「なんだ?」

 ちゅっと音を立てて軽く口づけられて、目を見開いてかたまる。

「朝、一緒にあのベッドで起きれて嬉しかったです。朝食も作ってくれてありがとうございました。愛してます」
「……バカ犬め」

 こんな些細な事で喜ぶ久世が愛おしくて胸がきゅっとなる。

「飯を食って、出かける準備ができたら迎えに来い。良いな?」
「はい、お迎えに上がりますね」

 濡れた髪をわしゃっと撫でて部屋を後にする。

 久世はすぐに迎えにくるだろうから、急いで帰りシャワーを浴びて準備をせねばならない。

 すっかり久世のペースに合わせている。それにぶつぶつと文句を言いつつも、仕方ないと思う自分がいた。
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