甘える君は可愛い

希紫瑠音

文字の大きさ
42 / 59
上司と部下の「恋」模様

11・八潮

しおりを挟む
 リビングで三木本が入れてくれた珈琲を飲む。

 ソファーに座る彼は黙ったまま、こちらから話しかけるのを待っている。

 あの日以来、少し距離をおいていた。三木本自身も気が付いていて辛そうに八潮を見ていた。

 だが、それでも距離をおいていたというのに、好きでいることを諦めてくれようとはしない。

 自分にはそんな価値はない。

 結婚に二度失敗したし自己管理もろくにできない、どうしようもない男なのだから。

「ねぇ、君はどれだけ僕に尽くそうとするんだろうね」

 その言葉の意味が解らない様でキョトンとした顔をする彼だが、頬を撫でれば見る見るうちに顔を赤く染め、するりと指を動かして唇に触れれば、ビクッと肩が揺れて身を硬くする。

「僕はね、酷い男だ。だから君に愛されるのは勿体ないよ」
「それは八潮課長の気持ちであって、俺はそれでもあなたが好きです。なので、勿体ないとか言わないでください」

 切ない声で言われ、ぎゅっと胸がしめつけられる。

「三木本君」
「俺は、貴方とつながりあえたこともキスしたこともすごく嬉しかったんです。手料理だって、課長に食べて貰えることが純粋に嬉しくて、なのに」

 そんな風に思う自分が可愛そうだと、三木本が胸へ縋りつく。

「ごめん、その通りだよ」

 腕を回し抱こうとしたが、腕を摩るだけで留める。

「好きなんです。だから、抱きしめて欲しい、です」

 泣きそうな目をして、想いを言葉に乗せてくる。

 その眼には非常に弱い。

「外れくじを引いちゃったね」

 強く抱きしめれば、目を見開いてすっと涙が零れ落ちた。

「かちょう」

 その涙を指ですくい、

「それでも、僕のことを貰ってくれる?」
「俺にとっての課長は当たりくじですから!」

 誰にも渡しませんからね、と、顔を胸へと埋めた。

「君くらいだよ、そう言ってくれるのは」

 嬉しいよと言って口元に笑みを浮かべ、三木本の耳朶を意味ありげに撫でる。

「このまま泊まっても良いかな?」

 すると、埋めていた顔を上げ、潤んだ目を向けて頬を赤く染める。

「気持ちいいこと、してくれるのですか?」
「うん。良いかな」
「はい」

 その前にお風呂ですねと、腕の中から出ようとする三木本を逃がさないとばかりに強く抱きしめる。

「良いよ。この前もそのままだったじゃない」
「で、ですが」
「あ、もしかして僕から加齢臭でも……」
「しません! 課長はいつもいい匂いですから」

 そういう三木本の方がいい匂いがする。清潔感のある爽やかな香り。

「なら良かった」

 頬を撫で額に頬にと口づけをおとし、唇へと触れる。

「ふっ」

 嬉しいと、その眼は八潮を見る。

 そんな風に見られたら、気持ちが高ぶって抑えきれない。

 今まで色々な人と夜を共にしてきたが、こんなになるのは初めてかもしれない。

「あぁ、もう、キスだけじゃ足りないみたい。三木本君、ベッドに行こうか」
「よかった。八潮課長にそう言って貰えて」

 やっぱりやめようと言われたらと思ってましたと、そんな風に思わせてしまっていることに八潮は自分を責める。

「やめないよ、僕は。あ、そうか、三木本君、八潮課長なんて呼び合っているから悪いんだ。よし、今から僕は君を蓮と呼ぶから、君も僕を名前で呼んでよ」

 どうかな、と、その提案に戸惑いを見せる。

「え、俺、課長のことを名前で呼んでも良いのですか……?」
「もちろん」

 そうこたえれば、嬉しそうにはにかむ三木本が可愛くてぎゅっと抱き寄せる。

「呼んでみて、蓮」
「……雄一郎さん」
「やばいね、これってもえるねぇ」

 はやく君が欲しいよと、手を引いて寝室へと向かう。

 服を適当に脱ぎ去れば、三木本がしわになると片付けようとする。

「そんなモンはどうでもいいよ。蓮、はやく邪魔なモンを脱いでしまいなさいな」
「貴方は考えなさすぎです」

 そう小言を言う三木本だが、スーツを床に脱ぎ捨ててベッドへとのる。

「蓮、この前以上にエロくて可愛い姿を僕に見せてね」

 ぐいと腰を掴んで引き寄せれば、照れた表情を浮かべて頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...