甘える君は可愛い

希紫瑠音

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ワンコな部下と冷たい上司

6・杉浦

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 今までプライベートな部分を自ら誰かに話聞かせようとしたことはなかった。

 松尾といると調子が狂う。

 これ以上は食事会を続けていると、余計な事を話してしまいそうで怖い。

 だからもう最後にしようと決めた。



 昔はデパートの屋上に遊ぶ場所があり、母親が買い物をしている間、そこで待っていた。

 百円を入れると動物が動きハンドルで方向をきめられる。それが楽しくて弟とよく笑っていた。

 ゴーカートに乗ると父は下手で、よく壁に当たっていた。

 すっかり疲れてベンチに座る父に母がお疲れ様と飲み物を差し出す。

 自分と弟はソフトクリームを食べながら、次は何で遊ぼうかと相談していた。

 そんな楽しい時間は、彼が中学に上がった時に突如終わった。

 休日に部活があるからと一緒に出掛けられず、家族はその帰りに事故にあったのだ。

 それからは母親方の祖母に引きとられて育った。

 働きながら大学まで出してくれた。就職が決まり、これからは自分が孝行する番だと仕事も頑張った。

 だが、たくさんの愛情を注いでくれた祖母も、自分の元から去ってしまった。

 葬式の日、本当に一人になってしまった杉浦に、八潮はずっと傍に居てくれた。

 ただ放っておけなくて優しくしてくれただけ。なのに杉浦はそれを勝手に勘違いし、八潮に特別な想いを抱いてしまったのだ。

 それだけに、結婚すると聞いたときは何も考えられなかった。愛しい人は自分の前から去っていく。

 もう、何も期待しない。心を開かなければ、こんなに辛い思いはしなくて済むのだから。

 そう考えるようになってからは何も感じることもなく、仕事と家に帰る日々を過ごしていたのだが、他の部署から移動してきた松尾が現れ、それからおかしくなった。

 彼は杉浦のテリトリー内に入り込んでかき乱していく。

「待って下さい、杉浦課長」

 腕を掴まれて細い路地へと連れ込まれる。

「これ以上、俺をかき乱すな」
「課長」
「お前みたいな奴は嫌いなんだ。いい加減に解れよ」
「本当のあなたを見せているのは俺だからですよね?」

 ぐっと喉が詰まる。

「調子に乗るな。そんな訳が……」
「貴方のことをもっと知りたいです」

 真っ直ぐに見つめる目に囚われて動けなくなる。

「知られたくない、お前にだけは」

 あの時のように、胸が痛んで苦しむようなことにはなりたくない。

 痛みにたえるように胸の所で拳を強く握りしめる。

「杉浦課長、そんな顔をしないで」

 唇に何かが触れる。

 それがキスだと気が付いたときには、唇を割り舌が入り込んでいた。

「ん、ふ」

 欲を含んだキス。このまま、受け入れてしまったら、蕩けさせられ溺れてしまう。

「やめろ!」

 抵抗して、彼を突き飛ばす。

「あっ」

 よろける松尾を睨みつけ、

「俺に二度と近寄るな」

 彼の元から逃げるように立ち去る。

 だめだ。

 この感情に気がついてはいけない。いつか彼も自分の傍から離れていってしまうのだから。
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