【完結】あなたは僕のお父さんですか?

ちょー子

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 不安を抱えたままさらに2日間が過ぎ、夕方になって父春彦が帰宅した。父の帰還は急遽、決定したものだった。春彦に連絡を入れるとは、あらかじめ来栖から断りが入っていた。自分たちのこれからのことについて話し合いたいと。その結果もたらされるであろう大人たちの決断を思うと、気が重かった。来栖に会えなくなったらどうしよう。父親にまで反対されたら、もう立つ瀬はないだろう。
 久しぶりに見る父はなんだかやたらワイルドになっていて、見た目に男を上げていた。
「パパ、お帰りなさい!!」
 抱きついてきた紗夜を父は軽々と抱き上げた。
「ただいま、紗夜。うわぁ、ますます可愛くなったなぁ。長いこと留守にしてごめんよ」
「うん、寂しかったよ。ねぇ、パパ、遊んで!お土産は?!」
「よし、ちょっと待ってな。母さんは?」
「ママはちょっとお風邪気味なの」
 父親はちらりとこちらに目配せしてから、そうか、それは心配だね。と娘の頭を撫でた。言い争って以来、母親はふさぎ気味になっていた。普段から不安定な部分があって、気分が落ちると生活に支障をきたすこともしばしばあるが、今回のは相当根が深いらしく。
 彼女の引きこもった自室のドアはまさに天岩戸だ。
「ごめん、父さん。僕が強く言ったから」
 気にするな。と父親は首を振る。
「ちょっと見ない間にずいぶん、背が伸びたな」
 それからいくぶん、声を落とした。
「来栖さんから連絡があった。驚いたよ。後でゆっくり話そう。けどその前に母さんだ」
 身を硬くする春馬の髪を父はめちゃくちゃにかき回した。
「俺の留守中、よく家を守ってくれた。お前がいるから父さん、好きなことが出来る。ありがとうな。お前が頑張ってるのはよくわかってる。母さんのことも。どれだけお前が大切に思ってるかもちゃんとわかってるから、後は心配するな」
 麻衣には俺がついているからと。
 さすが親父は違うと心強さに思わず春馬は目を潤ませた。こんな短期間で家族を慰めて、安心感までもたらしてくれる。
 父親は寝室へと消えていった。

 自室に引き上げたものの、階下の様子が気になって眠れなかった。
 両親はまだ話し合いの最中なのだろうか。
 興奮気味な頭を落ち着かせたくて何か温かいものでも飲もうかと思った。一階へ降り、両親の寝室の前を通りキッチンへと向かおうとして―――、ふと気になり、寝室の前で立ち止まり、聞こえてくるくぐもった声に耳を澄ませた。
「偶然のわけないわよ。どうにかして探し出したに決まってる」
「それは偶然だって本人が言ってた」
 立ち聞きなんて悪趣味だと思いつつも春馬は立ち去れないでいた。
「とにかく、あの人はお前から春馬を奪ったりしない」
「わかんないわよ、あの人、何しでかすかわからないところあるから。きっと自分の子だって知ったら奪いに来るわ」 
 ―――自分の子
「春馬はお前のことを大切に思っている。俺たち家族を裏切るようなことはしない。だから春馬を信じよう。どちらの子であっても大切に育てるって約束しただろう?」
 ―――どちらの子であっても。
 そろりとドアノブに手をかける。開けるな。質してしまえば、
 もう後戻りは出来なくなる。
 広がる不安感とは裏腹に妙な高揚感で胸が張り詰める。真相を知りたくないのに今すぐに両親を問い詰めたい。ちぐはぐな心境。自分の子?どちらの子であっても?どちら、てなに。誰と誰の。
 ていうか、お父さんがお父さんじゃないの、普通。
 話の主語も内容も文章としてなんとなく予測はつくが、一般常識が邪魔をして理解できない。なんとかして都合のいい解釈を探しているうちにドアは開ききっていた。両親が驚いた顔でこちらを振り返った。
「春馬、あんた―――」
「今の話、どういうこと?」
 母親の言葉を無視して春馬は問いかけた。
「誰の話してるの」
「・・・春馬、聞いてくれ」
 答えたのは父だった。
「僕のお父さんはお父さんじゃないの」
 目に見えて取り乱す母親に対して、父親は腹をくくったように落ち着き払った声音で言った。
「来栖さんの可能性もあるんだ」
 なんだそれ。
 意味がわからない。この日本に、一般家庭において自分の親が誰かわからないなんていう状況の子供がいったいどれほどいるというのだろう。しかもただわからないだけじゃない。どちらか分からないなんて。
「そんな。自分の息子の人生、当たり外れつきみたいな言い方しないでよ」
 疑いもなく信じていたものが崩れ去っていく。足元に穿たれた真っ黒な穴に吸い込まれそうで春馬はその場でへたり込んだ。だって親なんて己の源じゃないか。それの片方がわからないなんて。自分が何者であるかわからないと言ってるようなものじゃないか。
「僅差だったんだよ。俺と麻衣が愛しあったのは」
「やめてよ、そんな話、聞きたくもない!母さんは短期間の間に違う人としたってことでしょ?何でそんなことができるの?!両方とも手に入れたかったの?欲張りだよ。それで僕にはだめだって言うわけ!?」
 愕然として震えだす母親を父親が抱きしめる。母親は嗚咽を漏らしている。けれどもう、そんなことはかまっていられなかった。
「今さらそんなこと言われても。どうするの、どうしたらいいの。僕、来栖さんのこと、好きになっちゃったよ!?」
 今さら来栖のことを父親なんて絶対に呼べない。絶対に思えない。
「ひどいよ、どうしてそんな大切なことを隠してたの」
 サイアクだよ。と両親を詰った。小さな足音が二階からして妹が渾身の力でぶつかってきた。
「お兄ちゃん!」
 騒ぎを聞きつけて起きだしてきたらしい。わけがわからないながらも泣きじゃくるその顔が兄を責めている。
「お兄ちゃんのばか!!どうしてママをいじめるの!?お兄ちゃんなんか大嫌い!!」
 相手にぶつけた罵声がそっくり自分に返ってきた気分だった。
(なんだもう、これ、ぐちゃぐちゃだ・・・)
 みんな泣いてて。心がバラバラで。
 それって母親を責めた僕のせい?
 春馬はふらりと立ち上がった。
「ごめんなさい。母さん」
「春馬、待ちなさい!」
「来るな」
 背中ではねつけると春馬は部屋を出て行った。
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