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GMG-013「備えは楽しくやるといい」
しおりを挟む昼間はようやく温かいと感じるようになったころ、私は元気だった。
さすがにサラ姉がお嫁にいってしまった翌日なんかは、少しぼんやりしていたけれど……。
「土の中にあるように考えて……えいっ!」
教会近くの畑に来ていた私は、地面に手をついて魔法を使っている。
ちょうど拳3つ分ぐらい下の方に、風を産んだのだ。
と言ってもみっちり土の中、というわけでボコっと音を立てて少し地面が膨らむぐらい。
(でもこれで耕すのが楽なのよね)
「よいしょ、よいしょ」
そう、一度こうしてやれば、幼い弟たちでもなんとか作業出来るぐらいには土も柔らかくなる。
カンツ兄さんは働きに出ているし、アンリ兄さんも怪物退治や狩りに出ることが増えた。
というわけで、私たちの出番なのだ。
もっとも、この畑は教会だけで管理しているわけじゃない。
「おはようございますっ」
「ああ、おはよう」
妹のハンナが挨拶を元気よくした先には、畑を一緒に管理している近くの農家さん。
むしろ、元々はこの人の家の土地だった畑を、教会に貸してくれているのだ。
おかげで、今日も明日も新鮮な野菜が食べられる。
(少しぐらいは恩を返さないとね)
「おじさん、次はどのあたりに植えるの?」
「そうだなあ……もう春だから……」
話を聞いて、必要な場所の地面を魔法で掘り返していく。
お婆ちゃんの記憶にあるものを、どうにか呼び起こしながらの作業だ。
映画?ってやつで見たような不思議な光景。
頭の中で想像する。地面が半透明になって見える光景を。
その中に、ポツンポツンと自分の魔法を発動させることを強く考えるのだ。
いくつも頭の中で、魔法を発動させるための目印が地中に浮かぶさまが想像できた。
「春の遠吠えよ、響け」
それらしい言葉を合図に、魔素を放出して力とする。
連続した音を立てて、地面が少しずつ膨らんだ。
うん、成功だ。満足した気分を胸に、微笑んでいるとおじさんの視線を感じた。
「器用なもんだなあ。やっぱり潮騒の聖女ってのは本当だな」
「実は最近、病気は治せないか?とか聞かれるんですよ」
聖女、という言葉が独り歩きを始めていた。
というか……サラ姉の結婚式で、ちょっと魔法で遊んだのがまずかったかもしれない。
結婚式と言えば祝いの席だ。
そんな場所は、にぎやかにしなくちゃいけない……そう考えた私。
こっそりと、鍛冶職人さんからもらっていた金属の粉を使ったマジックショーみたいなものをやったのだ。
あれね、燃やすと色が色々違うってやつ。
仕込んだ布を、おまじないの布だって嘘をついて、2人の相性がぴったりなら、炎の色がどれそれになりますってやったわけ。
そうしたら受けたこと受けたこと。
(ノリで、聖女の魔法を見せてあげるなんて言ったのは失敗だったかなあ)
実際、それ以来頼まれごとも増えた気がする。
ほとんどは、誰かに仲介するだけでいいことばかりなんだけど……。
知り合いが増えて、お話が色々聞けるようになったのはいいことだけど、厄介事も増えそう。
無心に土いじりをしながら、そんな未来の心配をしてしまうのだった。
そのまま、弟たちが疲れて音をあげるまで畑仕事を続け、3人で野菜を籠に入れて持ち帰る。
全部はすぐに使えないし、そのままではそのうち痛んでしまう。
「というわけでお漬物をつくりまーす」
「「つくりまーす」」
最近改築に成功した厨房で、ちゃんと手とかを洗った弟たちに宣言する。
ちなみに、石鹸はまだ作れていない。というか、天然石鹸なむくろじ?ってのに似たのが元々あったのだ。
しっかり採取し、使うようにしている。病気は怖いもんね。
どう見てもキャベツだったり、白菜だったりに似ている野菜がこの土地にはある。
まだ野生種に近いのか、形は良くなかったり、食べられる部分は少なかったりするけど……。
(それでも、日持ちするのはすごい大事)
冷蔵庫なんてないこの世界、保存には一苦労だ。
それに、これから温かくなってくるからますます必要なことだ。
食べる分だけを畑から得られればいいけど、そうもいかない場合だってある。
「適当に刻んで―、魔法で少し乾かすからならべてくださーい」
「「はーい」」
本当は風通しのいい場所で干すんだろうけど、時間を短縮だ。
ざるに並べた野菜へ向け、適当に調整した風を産む。
こういうところ、魔法は便利だ。
後はお婆ちゃんの記憶だよりに壺へと塩やそのほかの材料を入れつつ、蓋。
明日から、水気が出てきたらの作業をしていけば完成だ。
「僕、漬物だったら食べられるよ」
「私も! おいしいよねー」
弟たちには、生野菜より漬物が人気だ。
本当は塩分を考えると、漬物ばかりというのは問題なのだけど……他で調整したらいいかな?
それに、アンリ兄さんのように外に出る人には便利な食べ物だと思うのだ。
今度、持って行ってもらおうかななんて考えている。
「ほら、作るのは他にもあるからどんどんいくよ」
お金に余裕の出て来た私は、お婆ちゃんの記憶にあるものと、この世界にある物の比較を始めていた。
まずは食べ物であり、市場に出ている物を少しずつ買っては試している。
記憶そのままの野菜があったり、見たことの無い物があったり、色々だ。
残念ながら、栄養を調べる手段が無いのでそれらの詳細はわからない。
(けど、病気は防げるはず)
出来る限りバランスの良い食事をとってもらうことで、みんな元気なままでいてほしいと思っている。
特に、サラ姉には元気でいてもらわないといけない。
思い出すのは、結婚式後に初めて嫁ぎ先へと尋ねた時のことだ。
受付に立っていた姉さんは、妊娠していた。
お腹に、姉さんとは違う魔素の反応を感じたから間違いない。
こっそりと、そのことを告げた時の姉さんの喜びようはすごかった。
姉さんのためにも、色々と考えよう……そう思う。
「まずは聞きこみかなあ……」
迷信もあるだろうけど、妊婦さんはこういうのを食べるように言われている、とかはどの土地にもある。
さすがにはちみつは駄目だろうけど、ってこれは赤ちゃん用か。
他にも話を聞いておきたい……となれば!
家のことを終えた私は、手土産を持ってとある場所へと向かう。
その目的地は……町のおばちゃんたちの集まる場所。
漁で痛んだ網なんかを直すために、みんなで共同して作業している小屋だ。
気の早い事だ、なんてからかわれながら私は色々な話を聞いていった。
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