52 / 64
GMG-054「治療の現実」
しおりを挟む「はい、終わりです。無理はしないでくださいね」
「ありがたい! これでまた訓練に参加できる」
ちょっと!?と止める間もなく、兵士な男の人は外に駆け出して行ってしまった。
来た時と同じく、ドタバタと走る音が遠ざかっていくのをため息をつきながら聞くことになった。
「気にしないでくださいね。みんな、ああなんですよ」
「体力が回復したわけじゃ、ないんですけどね……」
前に出されたカップには、湯気の立つお茶。
王城の中にある医務室、救護室とでも呼べそうな場所。
そこで私は、常駐しているお医者さん(女医さんだ)と一緒にいた。
ちなみに、エリナさんの同期らしい。
「水薬も、使い方を守ってほしいのですけど……たくさん飲めば早く治るのか!?なんて飲んだり」
「うーん、一度痛い目にあったほうが納得するんじゃないですかね、それ」
思わずそう言ってしまうほどには、ひどい状況だった。
気になって、在庫とかどうしてるのかなんて聞いて……抱き付いてしまった。
これはひどい、と一言で言えばそんな感じ。
ほぼ赤字というか、女医さんの持ち出しがあるじゃないか!
(これは見過ごせませんよ、ええ。エリナさんはこの辺は知ってるのか知らないのか……)
なんとなく、知らないんだと思う。結構ぶつかるのを怖がらない人だからなあ。
こんな状況、知ったら突撃するに違いない。
「でもいい人ばかりなんですよ? 国民のためにって外に討伐にもよく行ってますし」
「それとこれとは別です! マリウスさーん!」
本当は、癒しの魔法の実験台と言えば聞こえが悪いけど、けが人には事欠かさないだろうとここに来た。
でも、それよりも先にどうにかすべき状況が目の前にあったのだ。
「ターニャ様、どうしました?」
「城下町でいいんで、私のお金で薬草と水薬をちょっと買うように手配お願いします。後、生きたままのネズミを10匹ぐらい確保してほしいです」
マリウスさんとしては、無茶振りだったかもしれない。
けれど、彼は嫌な顔1つせず、承諾してくれた。
あまり、甘えないようにしないとな……後でちゃんとお話しよう。
「あの……?」
「さすがに兵士たち本人でやるのはアレですけど、わかりやすく授業しましょう!」
苦労しているのか、随分と細身に感じる女医さんの手を掴み、私は断言した。
半日もたたないうちに、木箱に入った薬草と水薬、そして縛られたネズミがやってきた。
そして私は、ここに来る頻度が高い兵士さんたちを選び出し、呼ぶことにした。
一応、私はそれが出来るだけの立場にいるらしいから遠慮なく、だ。
「あのー、俺たちに用があるって」
なぜ呼ばれたか、が不安らしい兵士達に、簡単に説明していく。
薬草や水薬を使い過ぎであること、使えば使うほど治るってわけじゃないこと。
むしろ、効果が減る場合もあること、等。
何より、女医さんの言うことは聞かないとだめだ、ということを。
(あんまり納得してなさそう……まあ、そうかなあ)
私は子供だし、何より自分たちが戦っているという自負があるんだと思う。
というわけで、ネズミの出番だ。
同じ体格のネズミ2匹を、同時にナイフで切り……お互いに水薬を飲ませた。
ただし、片方にはたくさんだ。倍以上だと思う。
結果は……兵士達のどよめきが示している。
「見ての通り、本来必要な量より飲んだりすると、こうやって動きが鈍くなったり、最悪の場合倒れます。これは、治ろうとする体の力を、さらに増やそうとして栄養が使われるからです。たくさん飲んだ後、妙にだるかったりしませんか?」
「あ、ああ……体力は戻らないっていうから、そんなもんだと思ってた」
やっぱり、その辺が誤解の元だったのかもしれない。
使う薬草の種類や量、組み合わせによってこの効力は違いが出ることも簡単に。
一番の理想は、体力の消耗も少なく、大怪我も治ること、なんだけど……。
「普段使われている水薬に必要な薬草量が、こちら。ちなみにお値段はこんな感じです」
「えっ!? 昨日、3本も飲んじまった……」
一人の兵士の、バツの悪そうな告白を皮切りに、反省の空気が広がっていく。
彼らにもわかったのだ。好き勝手に使っていた水薬、それもタダじゃない。
必要だからって、どんどん補充されるわけじゃないだろうことも。
なら、どこから来たのか? 答えは1つ、女医さんの持ち出しや、交渉による努力だ。
「治るからいいやと、不用意に怪我をしないこと、それが結果として国庫への貢献ということだ! 返事は!」
「「「はいっ!!」」」
マリウスさんの迫力のこもった声に、兵士達も思わず姿勢を正している。
私が言ったんじゃ、迫力が無いからお願いしておいたのだ。
ひとまずの、問題はこれでなんとなるかな?
後は、兵士の偉い人たちともお話を……ってそれは私の役目だろうか?
「ターニャちゃんはすごいですね。私、何もできませんでした」
「そんなことありませんよ。今日まで現場を支えたのは誰でもない、貴女だと思います」
これは本当にそう思う。水薬を作る腕もいいみたいだし、お給料も上げたり、部下を増やしたり……あれ?
改めて女医さんを眺めて、気が付いた。
「???」
「魔法、使ってみませんか」
そう、思った以上に、魔素を多く持つ人だったのだ。
最初は、薬草とかが常にそばにあるからかなと思ってたけど、違う。
これだけの魔素があるなら……たぶん!
「それで、教えた挙句、さっさと覚えたわけ? なんだか自信が無くなるなあ」
「普段、治療で体のこととかよく知ってるからですね、きっと」
騒ぎを聞きつけてやってきたエリナさんが見た物は、ネズミ相手に回復魔法を成功させたところだった。
目的が、予想外のところで達成できたことにエリナさんは喜んでるような、疲れてるような。
「ま、こっちに振ったのは私だしね。ちょうどいいわ。食事の後、陛下とお話よ。この子のことで、話があるみたい」
「シロの……?」
エリナさんの手元で、袋に入ったまま顔を出し、いつものようにシロが鳴く。
ようやく、私以外の人にも慣れて来た感じの姿は、結構大きくなった。
お婆ちゃんの記憶でいうと、子犬や猫ぐらいにはなったかな?
調べたいことがあるからと、エリナさんに預けていたのだけど……。
「そ、なんでも古い文献が見つかったらしくてね。ちょっとした騒動よ」
出来ればそこそこで暮らしたい私だけど、どうやら世界はそれを許してくれないようだった。
11
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる