聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

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GMG-064「衣食住足りて礼節を」

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「苦いのは我慢してくださいね! ほら、そっちは押さない!」

「女子供が優先だよ、当たり前だろう!」

 船乗りの妻、となるとなんだかんだでみんな腕っぷしが良くなるものらしい。
 治療と食事にと、忙しく動き回る私を気遣って、何人かの奥さんたちが一緒にいてくれる。

(本当は、シーベイラの人々に何かあった時のための備蓄なんだけど……)

 遠慮なく使っていこう、と町長が宣言したことで治療や炊き出しは動き出したのだ。
 難しいお話は、私は気にしないことにした。
 お供にマリウスさんやカイ君たちを連れて、西からの船に乗っていた人たちの面倒を見る。

 みんな、ぼろぼろとまではいわないけど、余裕のなさそうな感じ。
 最低限の財産はもって出て来たって感じだ。

 どう見ても旅行、ではない。

「……難民? 疎開……逃げて来た……」

 弟たちより幼いだろう子供の目を見た時、胸がぎゅっと掴まれたような気がした。
 怯えと、あきらめ。助かった……じゃないんだ。

 私の知らない記憶が、蘇ってくる。
 お婆ちゃんが、子供の頃に見た戦争の時の子供たちの瞳。
 あふれるように出てくる、お婆ちゃんの小さい頃の光景。

(うん、うん。大丈夫。今は違うんだよね? 大丈夫)

 ちょっと休憩してきますと告げて、一人建物から出る。
 嵐の過ぎ去った青い空を見上げ、深呼吸。
 と、何かが突進して来た。

「っと、シロ。あはは、ご飯終わったの?」

「ピィ!」

 留守番してもらう予定だったのに、抜け出してきたに違いない。
 その証拠に、預けた先である教会のほうから、弟たちが走ってきた。

「あー、シロいたー!」

「いたー!」

 元気な2人とシロを見て、私も元気を取り戻さないとと思いなおす。
 そうだ、あの記憶のような光景は何度もあっちゃいけないんだ。

 改めて2人にシロを預け、ある意味の戦場へと戻る。

「マリウスさん、どうですか」

「南からのは、大体予想通りですね。嵐に巻き込まれ、戻ろうにも戻れず流されっぱなしだったようで。そうだ、大渦はなかったそうですよ」

「大渦が……天気が良くないと大渦も出ないのかな……」

 また研究することが増えたような気がする。でもまあ、今は横に置いておこう。
 この国と、南とは仲がいいわけじゃない。
 でも、あからさまな敵対という訳でもない。
 その理由は、攻めるに攻めれないからだ。

 どうしたって、大渦の出る海を越えないといけないから、不干渉が主。
 でも、あの船長さんは2回もシーベイラにたどり着く羽目になったわけで……。

 南方からの船員たちが休んでいる建物へ向かうと、船長直々に迎えてくれた。

「いやはや、強運というのか、悪運というのか」

「生きてるから、良しとしましょうよ」

 服はくたびれているけれど、丘に上がれたことで元気を取り戻したらしい船長さんと向かい合う。
 難しい話は町長たちとしてもらうとして、ひとまずの応対ってところかな?

「確かに。あのままだと良くて漂流、悪ければ沈没だった。何を感謝に返せばいいのか見当もつかないよ」

「じゃあ、大渦の正体を倒して、交易でもしましょうか」

 何気なく言った私の言葉に、マリウスさんも船長さんも、一緒にいた相手の船員さんもぎょっとなった。
 私みたいな子供、実際に海に出るわけじゃない人間でもわかるんだ。
 たぶん、実際の船乗りさんにとっては、多くが知ってることじゃないかなと思ったけど……当たりみたい。

「何匹いるか、どこに出るかがわからないのでは、ね」

「やっぱりそうですよねえ」

 具体的には踏み込まず、微妙な距離で言葉を交わす。
 そうしてるうちに、西からの船に乗っていた人たちへの炊き出しが終わったようだった。

 ひとまずは寝泊りが出来るようにと、海岸沿いに天幕がいくつも用意されていく。
 話によっては、町で丸ごと受け入れることにだってなるかもしれない。

「追い返しは、しないのですな」

「ここは港町、海は誰にでも平等に恵みを与え、牙をむきます。だから、ですね」

 感心した様子の船長さんに答えつつ、ワンダ様か王様が来るだろうなと思っていた。
 船長さんには悪いけど、南からの船はあまり大きな問題にはならないと思う。
 問題になるのは……西だ。

 もしも、感じた通りに逃げて来たんだとしたら……戦争が始まるかもしれない。

(自分たちの国が大変なのに、隣の国は暮らせてるとなったら、どう動くか……)

 実際には隣の国の話、私が考えても仕方がないのかもしれない。
 けれど、私の中のお婆ちゃんは、よその国のことだからと放っておけるほどには、楽観できない人だった。

 せめてシーベイラとみんなだけは。
 そう思いながら、数日を過ごすのだった。


 結局、ワンダ様は騒動から2日後には、シーベイラにやってきて何やら調整を始めている。
 たぶん、王都からも使者が来るんだろうなという状況だ。

「西に火が付いたから、ですか」

「ええ、そのようです。彼らは残っていても戦火に巻き込まれると、逃げて来たようです」

 内乱、それが答えだった。
 なんでも、国内を怪物たちが襲ったらしく、国は大きな打撃を受けたらしい。
 その対応が、失敗したのだ。ちょうど国の中央あたりが壊滅し、東西に分断。
 誰が頭になって指揮を執るかで……もめた。

「ひとまずは郊外に臨時の集落をって、町長もすごいなあ」

「これも、ターニャ様が作り出した余裕があればこそ、ですよ」

 そんな風に言われると、妙にくすぐったい。
 でも、確かに余裕がなければこんな突然の出来事が起きて、助けようとは動けなかったかも。

 私が直接騒動をどうにかすることはないと思うけど、何かあってもいいようにしておこう。
 そう考え、日常を少しでも早く取り戻す……そのために動き出すのだった。

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