64 / 64
GMG-066「そこそこ暮らしは贅沢だった」
しおりを挟むやることが多いと、時間は早く過ぎていくのだと強く感じる日々。
気が付けば、時折雪が降る季節になっていた。
「噂でしかなかったドラゴンは、現実にいました。ならば、神もやはり、いるのでしょう」
たくさんの人が、神父様の話を聞いている。
改修され、立派になった教会。
そこで今日も、神父様のお話が始まっていた。
(今のところは、寒さも大丈夫かな)
ちらりと見るのは、最近出来上がったばかりの暖房器具。
魔石を使い、周りを暖める仕組みのものだ。
どんな魔石でも、温まりすぎないようにするのは苦労した。
使う材料によって、再現できる魔法に違いがあるのも新しい発見だ。
これが、特定の怪物の骨を使うと作ることが出来るというのだから……世の中はわからない。
命を奪い、奪われる。そんな間柄の怪物が、こんな関係になってくるとは、誰が思っただろうか?
そんなことを考えていると、お話が終わった。
この後は寄付する人や、買い物をする人に別れていく。
「本当に、こんなに安くていいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。その代わり、使うことをためらわないようにしてくださいね」
私も、お手伝いに参加している。
売っているのは、シーベイラの特産の1つとなった薬草を使った風邪薬。
もっとも、風邪だけじゃなく単純に体調不良全般に効くはずなのだけど……。
一応、頼り切りになっては困るからということで病気用と銘打っている。
材料は、野菜のように育てることができた薬草を使っているから、安くできている。
寒い中でも育つよう、品種を選んだのが正解だったみたい。
(怪物の多い場所や、王都の方に出荷が多いのは……すっきりしないけど)
価格を上げていないせいか、思ったよりも注文が多いらしい。
おかげで、住む場所も畑も増やさないとってなってるようなんだけど……。
「そこそこの暮らしが出来たらいいのだけど、放っておけないんだよねえ」
一番の問題は、私自身だった。
ターニャとしての私も、お婆ちゃんとしての私も、何か困ってる人がいたら放っておけないのだ。
特に、小さい子が困ってるとなれば、すぐに一緒にご飯でも……なんてなるのは自分でも止められない。
「そういうところが、ターニャ様らしいですね」
「見回りお疲れ様です!」
鍛錬代わりにと、いつも街の周囲を見回っているマリウスさんが帰ってきた。
その肩には、シロ。
「あはっ、楽しかった? 迷惑かけてない?」
「ピィ!」
飛び込んでくるシロは、ずいぶん大きくなった。
最初は、小さい犬ぐらいだったのが、今じゃ赤ん坊ぐらいなら乗せて走れそうなほど。
やろうと思えば、自分だけなら飛べるっぽい。
「随分と、信者が増えているようですね」
「そうなんですよ。まあ、私のせいかもしれませんけど」
いや、間違いなく私も原因の1つだろうと思う。
今も、私をモデルにした像は綺麗に鎮座されてるし……。
どこでどうなったのか、難民を受け入れたのも私が決めたとか噂になってるらしい。
あれは町の皆で決めたことで、私1人じゃないんだけど……うん。
とはいえ、薬草と塩造りは順調だし、魔石を使った道具たちの作成もようやくめどが立ってきた。
王都に試作品を送って、エリナ所長たちにより洗練した物にしてもらって……って感じ。
おかげで、各地の山をはげ山にしなくてもよくなったとかどうとか。
(薪は、色々大変だもんね)
1つ1つが重なって、みんなの暮らしも少しずつ楽になっている実感がある。
サラ姉も、冬に水汲みをして手が荒れることが減ったし、おばさんたちだってそう。
生乾きの服を着てということも減ったし……子供がお腹を空かせることもあまり見なくなった。
「私、頑張れてますかね」
「むしろ、頑張りすぎと言われるかもしれませんね。ターニャ様、貴女は確かに聖女と呼ばれるだけのことを成し遂げていますよ」
最初は、ちょっとしたことからだ。
贅沢とは言わないけれど、少し上向いた生活がしたい、そんな気持ち。
それを自分以外でも当たり前にしたい、世のお母さんたちが笑えればみんな楽になるって考え。
まだまだ先があるけれど、なんとか少しは達成できただろうか?
町を歩いていて、聞こえる声の明るさに、満足が広がっていくのを感じる。
共同で作ったお風呂に入りにいくかーなんておじさんたちの声も、心地よい。
「このまま、暮らせたらいいんだけどなー」
「私もそれが叶えばいいとは思いますが……これも、運命なのかもしれませんね」
え?って声をあげながら顔を上げれば、真面目な表情のマリウスさん。
彼が見つめる先には……土煙を上げながらやってくる馬車数台。
何があったかわからないけど、間違いなく……間違いなく私に話が振られる!
「あーっ、もうっ! わかったわ、わかりました! そこそこ暮らしのためにも、聖女の力、存分に見せつけてあげるんだからっ!」
「ピィッ!」
気合を入れるべく、両頬を軽く叩いて、馬車へと駆け寄る。
さて、今日はどんな問題がやってきたんだろうか?
大変だけど、お婆ちゃんも私も、楽しいのなら……いいかな?
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる