あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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ガキ扱いすんなよ

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 お泊り保育は滞りなく進み、あっという間に就寝時間となった。

 皆でカレーライスを食べた後、盆踊り大会をしたり星空観察をしたりして楽しみ、予定通り九時にはほぼ全員が入眠した。

 日中の夏祭りで疲れたせいだろう。布団に入るなり寝息を立てる子もいた。
 不安と緊張で眠れない子もいたが、添い寝をしてもらうとあっという間に眠りについた。

 ホームシックで泣き出したり、途中でリタイアしたりする子もなく、無事に一日を終えたことに、職員一同安堵する。

「先生たちも休憩しましょ」
 園長の声掛けで、美空たちは部屋の一角に集結した。

 いくら眠っていても、子どもたちから目を離すわけにはいかない。途中でトイレに行く子や、目を覚ます子もいる。突発的な病気もある。
 職員は定期的に睡眠チェックを行い、少しの変化にも即座に対応できるようにしておかなければならない。その為、仮眠は時間を決めて、別室でとることにした。

「これ飲んだら、交替で仮眠とりましょう」
 冷たい麦茶をグラスに注ぎながら、園長が言った。
「良かったら、園長先生お先にどうぞ」
 美空の言葉に、「あら。これから若者同士でお楽しみかしら?」園長が頬を膨らませ、三人を順に睨んだ。
「別にそういうつもりじゃ……」
「ふふっ。冗談よ」
 隣に座る美空の肩をポンと叩くと、園長が悪戯っぽく笑った。

「騒ぎすぎて、子どもたちを起こさないようにね」
 麦茶をぐいっと飲み干すと、「あと、くれぐれも、酒盛りなどしないように」最後に念を押し、園長は休憩室へと消えていった。

 園長が休憩に入った後、美空たちは近くのコンビニまで買い出しに行くことにした。
 交替とは言え一晩中待機していなければならない為、夜食や飲み物を買いに行くのだ。

「私行ってくるよ」
 美空が声を上げると、「ゴチになります」恵令奈と哲太が頭を下げた。
「いや。割り勘だから」
 笑いながら美空はメモを取り出すと、二人の希望を聞き始めた。園長の分は、適当に買って来ることにした。
「それじゃ、子どもたちの事、お願いね」
 二人に声を掛けると、美空は財布を片手に出発した。

 コンビニは歩いて二、三分の所にある。
 明かりが届く辺りまで来た時、見覚えのあるシルエットが目に留まった。

「紫雲君?」
「え?」
 逆光で表情までは見えないが、自転車にまたがった長身のシルエットが、こちらを向いて驚いていた。

「美空さん?」
「こんな時間に何してんの?」
 時刻は既に十時を過ぎている。高校生がフラフラ出歩く時間ではない。
「そっちこそ、こんなとこで何やってんだよ?」
 逆に聞かれ、「夜食を買いに」美空は思わず真面目に答えた。

「ちょっと。先に聞いたのはこっちなんだけど」
 美空が口を尖らせる。
「また酒盛りすんの?」
 からかうように、紫雲が茶化した。
「するわけないじゃん。勤務中だよ?」
「へぇ。意外と真面目なんだね」
「意外って何よ? 意外って」
 頬を膨らませながら怒る美空を見ながら、「あはは。美空さん、おもしれー」紫雲が腹を抱えて笑った。

「もう! 私のことはいいから!」
 叩こうとする美空の手をひょいと避けると、「俺も夜食だよ」紫雲がレジ袋を目の高さに掲げた。
 中身はカップラーメンのようだ。他にもパンのような物が見える。

「お父さんいないの?」
 不思議に思い、美空は訊ねた。晴斗は、こんな時間に未成年を出歩かせるような事はしない。
「うん。今日は職場の飲み会」
「そっか」
 季節柄、暑気払いなど飲み会が多いのだろう。一人でもしっかりやっている紫雲の姿に、美空は改めて感心した。

「ちゃんと勉強頑張ってんだね」
「一応受験生だからね」
「どの口が言ってんだか」
 美空が横目で紫雲を睨む。
 ははっと笑うと、「また美空さんの手料理食べたいなぁ」紫雲は夜空を仰ぎながら、しみじみと言った。

「今度また作りに行ってあげる」
「マジで? やった」
 紫雲が小さくガッツポーズをする。
「それまでちゃんと、勉強頑張ること」
「はいはい」
「寄り道しないで帰るのよ」
「わかってる」
「車に気を付けて」
「あのさぁ」
「へっ?」

 突然真顔になると、紫雲は美空をじっと見つめた。
「俺もう、ガキじゃないから」
「あ……。ごめ……」

「あんま、ガキ扱いすんなよ」

 怒ったように片足をペダルにかけると、「じゃ。美空さんも気を付けて」紫雲は勢いよく自転車を漕ぎ出した。

「気を付けてねー!」
 美空の声に軽く右手を上げて応えると、紫雲はあっという間に夜の闇へと紛れて行った。


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