外偵 結城杏子の事件簿ーロワールの殺人ー

秋樹

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間章

ある仏文化研究者の述懐

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「第二次世界大戦――ドイツ軍は一九四〇年六月十一日の早朝、パリに入ってきた。当時、私は日本海軍武官事務室で新聞読みをやっていた。フランス政府はすでにボルドーを経てヴィシーに行っている。だから外国の大使館もそこへ行かなければ意味をなさぬ。日本の大使館はすでに出かけていた。陸海軍(駐在武官)の人たちも十一日の朝七時頃、それぞれ幾台かの自動車に分乗してパリを出た。
(中略)
 ヴィシーでは海軍事務所の電話をフランス人に貸して、しばしば占領地帯との連絡をとらせたのであった。海軍武官はフランスが敗けて気の毒だと涙を流すような人だから、私はこの人の諒解を得てやったのである。私に非常に好意をもってくれたこの海軍武官は、パリでそうした地位にあった人のような、沢山の俸給を帰朝後のために取っておくような人ではなかった。その後、彼が南洋で戦死したと聞いて、私はひどく惜しんだ一人である。
 事実、この電話で相当数の生命が救われもしたから、私たちも一種のレジスタンスに参加していたようなものである。
 そうしているうちにド・ゴールがロンドンから『ここに自由なフランスあり』と放送した。
 これからフランス各地にレジスタンスが根を張ったのだ。けれどもレジスタンスに対する占領軍の圧迫は、実に残忍で凄愴を極めたものであった。ドイツ軍ならびに親独派の連中は、抵抗者を故意に共産主義者と呼んで、これを血眼になって探しまわったのである」

     『中央公論』(一九五八年二月号)椎名其二「ドイツ軍のパリ占領」

       ※なお、著者に協力した海軍武官の氏名は現在も不明である。
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