驚愕

かじ たかし

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小春

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 目覚し時計の音が薄い壁越しに微かに聞こえてくる。兄と2人田舎にあるハイツで生活している為、朝早い時間帯はやけに静かで隣家の玄関の開け閉めの音でも目が覚める事も多々ある。ここ2、3日前から兄は社会復帰した。詳しい仕事内容は聞かされていないが、真っ当な仕事であるのは間違いなさそうだった。
昨日の夜は進とゆう男性が店にやってきて、どういった会話をしたのか記憶にない。実の所店でまともに席につく事がなく、いつになく酒を呑んでいた。起きたくはないが喉が渇いている事に気づきベッドから体を起こし台所に向かう。慌ただしく靴下を探しているのだろう、兄が洗濯カゴを散らかしている。暫くの間、口を聞いておらず話しかけようとするが苛々されても困ると思い無視して冷蔵庫を開けて水を取り出した。コップに移し替えるのも億劫でペットボトルに直接口を付ける。喉を潤しペットボトルを戻そうとしている時「珍しく早起きだな」不意に兄が話しかけてきた。どうやら探し物は見つかったらしく機嫌も悪くなく、寧ろ寝起きとは思えない顔付きだ。髪の毛は整髪剤を付けているのか、無造作且つ入念にセットされている。
「探し物は見つかったの?それにしても工場の制服も案外似合うね」見慣れない格好ではあるがグレーの作業着は様になっていた。「にしても髪の毛とかセットしても意味ないんじゃない?帽子とか被るんでしょ」朝早くから髪の毛に時間を費やす兄が理解できなかった。
「特に意味はないけど、休憩時間とかは帽子取るからボサボサの頭だと恥ずかしいだろ」虚を衝かれたのか少し顔を赤らめ夏がゆう。
「どうせ男の人ばっかりなんでしょ?そんなの誰も気にしないよ」馬鹿らしいなと思いリビングのソファーに横たわるようにして小春が言った。
着替え用のTシャツを畳みながら「以外と見てる人もいたりするんだよ」タオルとセットにして脇に抱え立ち上がった。
「じゃあ行ってくるわ。今日はバイト?それとままた真也とでも会うのか?まあ鍵は閉めといてくれて大丈夫だから」軽く片手を上げ返事を聞かずにそそくさと出て行った。

 今日は月に二回程出席をしなくてはいけない学校の日だった。去年の四月から美容師免許が欲しく大阪市内にある某学校に通信制にて入校した。特に指定された日はないのだが、たまたま通った日が重なる事が多かった中村有香と仲良くなり、学校に通う日時を合わせている。有香は小春にとっては数少ない心を許せる友達だ。
事前に連絡をしておいたので13時に学校で待ち合わせだった。せっかく早く起きたので寝るのもなんだと思い、ソファーから身を起こす。狭い2DKだったが夏がいない今は凄く広く感じられる。家賃は6万だが夏が全額支払っている。小春は光熱費を担当し食費は別々だ。といっても自炊をする事はほぼないに等しい。兄と一緒に暮らすのは収入がない小春にとっては、この上ない幸せだった。がこれが姉妹であれば気を遣う事も少ないかも知れないが、夏と小春は兄妹だ。男と女なのだ。気を遣う場面があるのは言うまでもない。いつかは彼氏を作り家に連れて来たいとゆう願望は少なからずある。恐らく兄もそうだろう。そうなればどちらかが家を出ていったりするのだろうか。目星もつかない事を思いフッと響野進の顔が浮かんだ。そう言えば電話を掛けたが折り返しの電話はない。私にはやはりそんな出会いはないのか。ブツブツと独り言を呟きながら鏡の中の自分に化粧をする。電話が鳴った。進の事が頭にあった為、遂に来た。画面を見ると有香だった。
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