月夜に咲く紅き百合

オウヅキ

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第七話 儀式

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月夜が離れると、紅音の唇から血が垂れる。
「最悪」
 紅音が吐き捨てた言葉に、月夜は笑う。
「それが決まりなのだから、仕方ないでしょう?」
 月夜は紅音の口元を指で拭うと、自分の口に指を持っていく。
 月夜のことは嫌いだけど、その姿はとても綺麗だと思ってしまう。
「本当に最悪。なんでこんなことしなければなんないの」
 律が毒づく声が聞こえ、その言葉に紅音は、心の中で同意する。
 近くの長イスに座っている律を見ると、律が着ている白いワンピースに、赤い血がポツポツと滲んでいる。律が抵抗した時についた血だ。
 紅音たち人間が着替えさせられた、純白のワンピース。
 趣味が悪い。紅音は心の中で毒づく。抵抗すればするほど、唇から血が飛び出し、白のワンピースに染み入る。血が滲んでいるワンピースは、逃れられない、そう語りかけてくるように感じられる。
 
「せめて首とかでいいでしょ」
 月夜と並んでイスに座ったあと、あまりにも腹立たしくて、吐き捨てるように愚痴を言う。
「この口づけは、結婚式でする誓いのキスと同じような意味合いなの。永遠を誓う儀式。神聖なキスをかわして永遠に共にいることを誓いつつ、吸血鬼側がそこから血を吸う。面白いでしょう?」
「どこが」
 吸血鬼なのになんで人間と同じようなことをしているのか、なんで結婚式風にやっているのか、色々言いたいことが紅音の頭の中に浮かぶ。
 永遠の誓いだって、こっちは誓いたいなんて思ってないのに、勝手に誓ったことにされては困るし迷惑だ。面白くなんて一切ない。
 何より、一番腹立たしいのは自分自身に対してだ。詳しい仕組みは分からないけど、牙を突き刺されてには快感が襲ってくる。媚薬みたいなものが身体の中に入ってくるのだろう。洋館にいた時はその瞬間に離れたからそれほど影響はなかったけど、今回は少しの間口を重ね合わせていたために、影響は大きかった。今でも身体が火照っている気がするし、月夜の唇が気になってしまう。
紅音が苦々しさを噛み殺していると、夏実と京子が部屋の一番奥に向かって歩いていく。口づけをして、贄人は血を差し出し、吸血鬼は血を吸う。
 反吐が出る儀式だ。
 夏実は何の抵抗もしなかった。律や紅音が抵抗して逃げようとして、けれど逃げられなかったところを見ていたからか。
 夏実と京子のすぐ側にシスターらしき人、正しくいえば吸血鬼なのだろう存在が立っている。
 見た目や雰囲気でいえばあまり強そうには見えない。けれど、どこにそんな力を隠し持っているのか、律も紅音も逃げようとした瞬間に力技で身体の自由を奪われて、そのまま無理矢理儀式を遂行させられてしまった。
 口づけを交わし十数秒後、京子が口を離す。それから少しして、夏実の唇についた吸血跡が消える。
 律の儀式が終わった後聞くと、唇に傷があると不便だろうから塞がるように昔の吸血鬼がした、との返事が返ってきた。どうやら吸血鬼たちは魔法みたいなものが使えるらしい。年月が立って、吸血鬼全体の力が弱まって、たいしたことは出来ないようだけど。
 とはいえそれは洋館からここに来る時に体感しているため、特に何も思わないし、驚くことではない。
 驚くべきは不便だろうから、という気遣いができることだ。優月、という吸血鬼はとりあえず別として、他を見ている限り吸血鬼がそんな気遣いをするようには見えない。
 それにその気遣いが出来るなら、他の時、他の場所でも塞がるようにして欲しい。
「これで皆さまの正式なペア組み及び人間の皆さまの妖怪界で暮らすための対策が完了しました。この先はご自由に行動してくださって構いません」
 シスターが私たち六人の方を見て告げる。
「妖怪界? 対策?」
「妖怪界は私たちが暮らす世界のことをさしているわ。ちなみに貴方たちが住んでいたのは人間界。区別するためにそう呼んでいるの。身体強化は、私たちの世界になんの対策もせずに人間が長いこといると、身体に不調が現れるの。吸血鬼との口づけはその対策になるみたいで、そのためにも口づけをしてるの」
「え?いやそれ」
 先に言ってよ。呟くように言う。
 それが最初に分かっていれば仕方ないって思えた…………と思うのに。多分、きっと、おそらく。
「方法は口づけだけじゃないけどね。薬を飲むって手もあるよ。儀式自体も口づけが基本だけど、どうしてもって場合、手を握るだけでも大丈夫だし」
「え?」
 皆近いところに座っているため、話が聞こえていたんだろう。優月の言葉に、紅音も律も夏実も「え?」と驚く。
「いや、は?手を握るだけって、じゃあなんのためにしたの?」
「したかったから」
 満面の笑みで答える優月に、律は言葉を失ったように黙り込む。
「ふふっ」
 月夜はそれを面白がるように、愛おしがるように笑い、話す。
「確かに手を握るやり方もあるけれど、私たちがそのやり方でやりたいって言っても、まず間違いなく無理だったでしょうね。それが通るのって男性か、極度の潔癖症か。それくらいなの」
「潔癖症は分かるけど、なんで男性?」
 男性だろうが女性だろうがそんなの関係ないはず。そう思い、紅音は質問する。
「女性と男性なら女性の方が気軽にスキンシップする人が多いでしょう?逆に男性はそういうのが少ない。男性は女性よりも抵抗がある人が多いだろうからって」
 そう言いながら月夜は紅音の頭を撫でる。
 たしかに女子同士のスキンシップは見たりするけど……。でも男子だってスキンシップする人はいるし、スキンシップするのとキス出来るかどうかはどう考えても別でしょ。
「……一切、何一つとして納得できないけど、とりあえず私は分かったことにしとく。で、桜咲のしたかったからって何?」
 律の怒ってそうな声に、優月はしゅんとした顔をする。
「会ったばっかりでなにをって思うかもしれないけど、でも律ちゃんのことすきなんだもの。仲良くしたいの。だから手を握るだけじゃなくて、もっとスキンシップとりたくて……」
「単純にキモいんだけど?」
 優月の言葉を律はばっさり切り捨てる。本当に心底気持ち悪いと思っていうな声音だ。
「なんでスキンシップとりたいイコールキスになんの? どんな思考回路してるの?」
 律の容赦ない物言いに、優月は涙目になる。
「結局のところ、私達は正式な方法でやるしかなかったわ。その事実は変わらないのだから、どうこう言っても何にもならないでしょう」
 京子が助け船を出すかのように口を挟む。
「お仲間同士で助け合い?」
 それに対し、律は吐き捨てるように笑い、京子に対し鋭い目をむける。
「……喧嘩うっているのかしら?」
「別に?ただ随分と仲がよろしいんだなって、それだけだけど?」
 律と京子の間にピリリとした空気が流れる。優月や夏実はおろおろとするばかりだ。それぞれのペアとは今日会ったばかり。どう止めれば良いかわからないのだろう。紅音としてもどう止めれば良いのか分からないし、空気間に面倒くさいとは思っても、止める気もない。
「この先も当分の間はどうしたって関わり続けるのだから、今関係悪くすると困るのは貴方たちよ?」
 なだめるような、それでいて冷たさを感じるような月夜の言葉に、京子は律から顔を背ける。
「朝川さん、行きましょう。月夜様、私達は先に失礼します」
 そう言うと京子は夏実の手を取る。
 京子たちの方から軽く風が吹いた後、紅音が一瞬まばたきをする間に、京子たちはその場から消えていた。
「私たちも失礼するわ」
 軽く肩をすくめた後、月夜は優月たちに声をかけ、紅音の手を握る。
 その瞬間、ほんの一瞬真っ暗な闇の中に放り出され、次の瞬間には、貴族が住むような広くて豪華な部屋に月夜と紅音は立っていた。




 
 
 
 
 
 
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