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第六話 説明
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「自己紹介しましょうか。この先も関わることになるでしょうし」
最初に入った部屋に戻ったあと、月夜が場の空気をものともせずに言う。
「まずは言い出した私から。桜ノ宮月夜、15歳。吸血鬼の暮らす世界、そこにある国の内の一つ、貴方たちの世界でいう日本の王家の生まれよ。私は一応第二王女に当たるわ。」
「……一応って?」
先ほど起こったばかりの事で気が重いまま質問する。峰川さんは第二王女とだけ言った。なのに何故月夜の言葉には一応とついているのか。
「私たちの世界だと、今でも王族や貴族の当主は何人か結婚相手がいるのが普通で、王である私の父親は二人と結婚しているの。一夫多妻、一妻多夫制度ね。私の母親は側室で、同時に混血でもあるから、私に王位継承の可能性はほとんどないのよ」
「自己紹介の前に分からないことが山ほどあるんだけど?先にそっちを説明してくれない?」
律が吐き捨てるように言う。この状況や吸血鬼たちに対し、怒りを覚えているのだろう。
律の様子からは、少なくとも吸血鬼とは仲良くするつもりが無いことが、うかがえる。
「説明するのは構わないけれど、話す時に名前も分からないのは不便ではないかしら?あとで説明するから、とりあえず自己紹介をして欲しいわ」
「……佐々木律、15。そこのふわふわした吸血鬼の贄人として連れてこられた。これで良い?」
不機嫌そうに自己紹介をする律に対し、月夜は笑顔で頷く。会った時からほとんど笑顔だ。何を考えているのか分からなくて怖い。
「えっ……と、じゃあ次はわたしが。朝川夏実、15歳。京子さん、そこにいるクールな感じのふんいきの吸血鬼の贄人として、連れてこられ……ました。よろしくお願いします……?」
元気な印象を受けるけど、この状況に戸惑っているのか怖がっているのか緊張しているのか。言葉は辿々しい。
夏実の自己紹介が終わり、他の人たちが紅音のことを見る。次に話せということだろう。
「江月紅音、15歳。桜ノ宮月夜の贄人として連れてこられました。……よろしくお願いします」
よろしくする必要があるかは怪しいところだけど、言っておいて損はないだろう。
「それじゃあ次はわたし。桜咲優月、18歳。律ちゃんのペアの吸血鬼だよ。身分としては貴族で、貴族の中でも位は高い方かな。よろしくね」
「藤堂京子、17歳。朝川さんのペアの吸血鬼よ。身分は桜咲さんと同じく貴族。月夜様も仰られていた通り、この先も付き合いはあるでしょうから、それなりに仲良くしましょう」
京子は、仲良くするつもりが一切なさそうな口ぶりの自己紹介をした後、律に向き直る。
「それで、さっき言っていた分からないことって?」
「まず、さっき月夜って吸血鬼が言ってた混血って何?意味合いとしては分かるけど、吸血鬼以外に何の血が混じってんの?」
京子はかすかに目を細める。それは睨んでいるようでも困っているようでもあった。
「京子さんは話しずらいでしょうから、私が話すわ。私たちの世界での混血は、人間と吸血鬼の血が混じっていることをさしているの。私のお祖父様は、贄人として差し出された人間と恋に落ちて、子供、私の母親となる吸血鬼を産んだわ。だからお母様は混血、私は混血である吸血鬼の娘ってこと」
月夜はそう言って、軽くため息をつく。
「吸血鬼にとって人間は餌でしかない。人間と恋に落ちるなんてありえない。って、そういう風に思っている吸血鬼が大半を占めているの。私としては人間と恋仲になっても何の問題もないって思っているのだけど」
「あっそ、じゃあ次の質問。さっきのペアの吸血鬼の方、途中からずっと無言だったけどあれ何?吸血鬼本人が最終的には贄人とする人を選んでるんでしょ?なのになんで何の反応もしなかったの?贄人はただの餌でしかないから?」
「本人ではないから分からないけれど、おそらくはあんまり仲良くなれてなかったからどうでもよかったというのが一つ。あと人間を死なせてしまうのってあまり良いことではないの。人間側と戦うなんてことにならないためにもね。速攻で死なせてしまったからこの先どうなるのか考えて怖くなったり、責任を感じて黙ってしまったりしたんじゃないかしら?」
「人間と吸血鬼が戦う?」
峰川さんたちはへりくだった態度でいた。その様子を見るに、人間側には吸血鬼たちと戦おうとする意志が見られない。戦いになる可能性なんてあるのか。紅音は不思議に思い呟く。
「ええ。政府も私たちと戦いたいとは思っていないから、平穏に暮らすためにも贄人として人間をこちら側に渡しているの。けれど同じ人間なのだから、彼らだって基本的に渡したいとは思っていないし、死なせたいとも思ってない。私たちが贄人を何も考えず殺したり、死なせたりしていれば、その内戦争になっても不思議ではないわ」
「あいつらに私たちの身を案じている様子なんてなかったけど」
おそらく、今日あった、ここに来るまでの出来事は三人共そう変わらないだろう。律が吐き捨てるように言うところをみるに、律をここまで連れてきた人はあまり良い人ではなかったのだろうか?
「じゃあ次――」
律が次の質問をしようとしたところで足音が聞こえ、律は口をつぐむ。紅音が扉の所を見ると、そこにはシスターらしき人物が一人で立っていて、こう告げた。
「時間も遅くなってきているので、もうそろそろ始めたいと思います」
最初に入った部屋に戻ったあと、月夜が場の空気をものともせずに言う。
「まずは言い出した私から。桜ノ宮月夜、15歳。吸血鬼の暮らす世界、そこにある国の内の一つ、貴方たちの世界でいう日本の王家の生まれよ。私は一応第二王女に当たるわ。」
「……一応って?」
先ほど起こったばかりの事で気が重いまま質問する。峰川さんは第二王女とだけ言った。なのに何故月夜の言葉には一応とついているのか。
「私たちの世界だと、今でも王族や貴族の当主は何人か結婚相手がいるのが普通で、王である私の父親は二人と結婚しているの。一夫多妻、一妻多夫制度ね。私の母親は側室で、同時に混血でもあるから、私に王位継承の可能性はほとんどないのよ」
「自己紹介の前に分からないことが山ほどあるんだけど?先にそっちを説明してくれない?」
律が吐き捨てるように言う。この状況や吸血鬼たちに対し、怒りを覚えているのだろう。
律の様子からは、少なくとも吸血鬼とは仲良くするつもりが無いことが、うかがえる。
「説明するのは構わないけれど、話す時に名前も分からないのは不便ではないかしら?あとで説明するから、とりあえず自己紹介をして欲しいわ」
「……佐々木律、15。そこのふわふわした吸血鬼の贄人として連れてこられた。これで良い?」
不機嫌そうに自己紹介をする律に対し、月夜は笑顔で頷く。会った時からほとんど笑顔だ。何を考えているのか分からなくて怖い。
「えっ……と、じゃあ次はわたしが。朝川夏実、15歳。京子さん、そこにいるクールな感じのふんいきの吸血鬼の贄人として、連れてこられ……ました。よろしくお願いします……?」
元気な印象を受けるけど、この状況に戸惑っているのか怖がっているのか緊張しているのか。言葉は辿々しい。
夏実の自己紹介が終わり、他の人たちが紅音のことを見る。次に話せということだろう。
「江月紅音、15歳。桜ノ宮月夜の贄人として連れてこられました。……よろしくお願いします」
よろしくする必要があるかは怪しいところだけど、言っておいて損はないだろう。
「それじゃあ次はわたし。桜咲優月、18歳。律ちゃんのペアの吸血鬼だよ。身分としては貴族で、貴族の中でも位は高い方かな。よろしくね」
「藤堂京子、17歳。朝川さんのペアの吸血鬼よ。身分は桜咲さんと同じく貴族。月夜様も仰られていた通り、この先も付き合いはあるでしょうから、それなりに仲良くしましょう」
京子は、仲良くするつもりが一切なさそうな口ぶりの自己紹介をした後、律に向き直る。
「それで、さっき言っていた分からないことって?」
「まず、さっき月夜って吸血鬼が言ってた混血って何?意味合いとしては分かるけど、吸血鬼以外に何の血が混じってんの?」
京子はかすかに目を細める。それは睨んでいるようでも困っているようでもあった。
「京子さんは話しずらいでしょうから、私が話すわ。私たちの世界での混血は、人間と吸血鬼の血が混じっていることをさしているの。私のお祖父様は、贄人として差し出された人間と恋に落ちて、子供、私の母親となる吸血鬼を産んだわ。だからお母様は混血、私は混血である吸血鬼の娘ってこと」
月夜はそう言って、軽くため息をつく。
「吸血鬼にとって人間は餌でしかない。人間と恋に落ちるなんてありえない。って、そういう風に思っている吸血鬼が大半を占めているの。私としては人間と恋仲になっても何の問題もないって思っているのだけど」
「あっそ、じゃあ次の質問。さっきのペアの吸血鬼の方、途中からずっと無言だったけどあれ何?吸血鬼本人が最終的には贄人とする人を選んでるんでしょ?なのになんで何の反応もしなかったの?贄人はただの餌でしかないから?」
「本人ではないから分からないけれど、おそらくはあんまり仲良くなれてなかったからどうでもよかったというのが一つ。あと人間を死なせてしまうのってあまり良いことではないの。人間側と戦うなんてことにならないためにもね。速攻で死なせてしまったからこの先どうなるのか考えて怖くなったり、責任を感じて黙ってしまったりしたんじゃないかしら?」
「人間と吸血鬼が戦う?」
峰川さんたちはへりくだった態度でいた。その様子を見るに、人間側には吸血鬼たちと戦おうとする意志が見られない。戦いになる可能性なんてあるのか。紅音は不思議に思い呟く。
「ええ。政府も私たちと戦いたいとは思っていないから、平穏に暮らすためにも贄人として人間をこちら側に渡しているの。けれど同じ人間なのだから、彼らだって基本的に渡したいとは思っていないし、死なせたいとも思ってない。私たちが贄人を何も考えず殺したり、死なせたりしていれば、その内戦争になっても不思議ではないわ」
「あいつらに私たちの身を案じている様子なんてなかったけど」
おそらく、今日あった、ここに来るまでの出来事は三人共そう変わらないだろう。律が吐き捨てるように言うところをみるに、律をここまで連れてきた人はあまり良い人ではなかったのだろうか?
「じゃあ次――」
律が次の質問をしようとしたところで足音が聞こえ、律は口をつぐむ。紅音が扉の所を見ると、そこにはシスターらしき人物が一人で立っていて、こう告げた。
「時間も遅くなってきているので、もうそろそろ始めたいと思います」
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