その輝きは、離れていても仄かにわかる

八島えく

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五話:看板役者は、巨大企業のお姫様!?

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静かなブレーキ音と共に、車が止まる。中から出てきたのはぱりっとした黒いスーツの男が三名ほどだ。ちらりと後部座席の人影が見えた。姿ははっきりとはわからなかったけど、男のひとだろう。
 三人の黒服たちは、まっすぐ仄代の方へと大股で向かってきた。わたしはとっさに仄代を後ろに隠す。
 黒スーツの男たちは、みんな身長がたかい。わたしの頭三つ分くらいは余裕だ。仄代が、うしろで震えているのがわかる。追っ手だ。どうしてここにいるとわかったんだろう? 私たちのこそこそした行動は、意味がなかったのだろうか?
「君、下がりなさい」
 でも、下がったら仄代が危ない。わたしは黙って立ったまま。
 コツコツと綺麗な革靴の音が響いてきた。紺色のスーツと灰色のコートをおしゃれに羽織った男が歩み寄ってくると、黒スーツの三人は恭しく道を明けた。
「お嬢さん、妹が失礼しました」
「……いもうと?」
 わたしの目を見ていたが、その眼差しはわたしの後ろの仄代に注がれている。
 その仄代をして、妹っていったら、つまり――。
「我が弓張の末娘が、たいへんお世話になりました」
 びしりとした仕草ひとつひとつ、育ちの良さをうかがわせる。左手首にちらりと見えたバングルの色が青紫色だった。ということは、ネオン街ではなく、そのさらに上の街――上層街の人だ。
 いや、待て。弓張っていった? わたしの頭の中に、記憶のピースがパチパチと合わさって、思い出していく。
「弓張といえば……上層街の巨大グループ企業……ニュースで新事業開拓って……!」
「ネオン街の方にもお見知りおき頂いて光栄です。我が弓張グループは、このエスガワネオン劇場にも寄付をしておりますので」
「……それは、わかったん、ですけど」
 やばい。わたしの声がうわずって、昔みたいにまともにしゃべれなくなる。
「あの、えっと、妹って、もしかして……」
「ええ、貴方の後ろに控えている者は弓張仄代。私の妹です」
 桂井仄代。本名、弓張仄代。彼女は、上層街の人間だったのか。
「仄代、迎えに来た。帰るぞ」
「……」
 お兄さんらしき弓張は、仄代にそう言葉を投げかけるが、そこにきょうだいとしての愛は感じられない。
「わ、わたし、は……」
 仄代は、わたしの後ろからながらも、抗議する。
「ぶ、舞台が……」
「代役がいるだろう? お前がいなくても劇は成立する」
「でも、で、でも……」
「お前が弓張へ帰れば、劇団も安泰だろう」
 仄代がびくっと震える。
「もしかして……脅してますか?」
「脅すだなんて、とんでもない。我が弓張では、この劇場に多額の寄付をしております。
 妹がこちらに帰れば、劇場の寄付は続投しますし、劇団にもお気持ちばかりではありますが、寄付をということです」
 それはつまり、仄代が従わなければ、劇場の寄付はストップするし、劇団には圧をかけて潰そうとするということだ。
 わたしは仄代を見やる。うつむいて唇を震わせている。迷っているのだろう。
 わたしは、何て声をかければいいんだろう? わたしはただの知り合いで、部外者でしかない。
わたしは、仄代が舞台に上がる姿をこの目で見てみたい。
 でも、その責任を背負うのは仄代だ。仄代にそれを背負わせるのか?
 入り口の方から声がした。
「いいじゃない、遠慮せずに帰って良いわよ」
 久野さんが仄代に近づき、気安く肩を叩く。
「舞台のことなら気にしないで。私が代わってあげるから」
 仄代の目が、久野さんを見て、向こうにいる劇場長を見ている。目を伏せった仄代には、答えが決まっていたみたいで。
 仄代はわたしの後ろからすり抜けて、お兄さんの方へと歩んでいく。仄代は、弓張へ帰るつもりだ。
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