その輝きは、離れていても仄かにわかる

八島えく

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八話:舞台に立ちたい

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 仄代を引っ張って、こっそりと部屋の扉を開いた。広くて無機質な廊下は、誰もいない。代わりに、監視カメラが一定の距離を保って天井に設置されている。抜け出すのは至難の業だが、屋敷から出ないことを印象づければ弓張家の目はあっさりと弱くなる。彼らは、仄代がこの建物にいれば良いと考えている。
 わたしも、仄代をこの屋敷から出そうとは考えていない。でも、仄代が主役となって舞台に上がるためなら、できることをしよう。
 首を傾げていた仄代に、作戦を伝えた。
「ここで演技をするの。わたしのバングルは無事だし、アカシアや団長さんと通信できる」
「でも……ここは、劇場ではないわ……」
「大丈夫。エスガワネオン劇場は、遠隔技術を用いての舞台装置を持ってるって聞いた。これが、仄代を舞台に上げる秘策だよ」
「わたしを……?」
「台詞は覚えてる?」
 仄代はこくりとうなずいた。
 わたしは、仄代の部屋からずっと離れた、突き当たりの部屋をそっと開いた。広い廊下に置かれた扉はバングル認証が必要だったけど、この部屋だけは、古き良き扉って感じで認証も鍵さえも必要なかったみたい。
 そっと開くと、部屋の住人を見つけた。わたしのアパートの部屋十個ぶんくらいの隅っこに、白いベッドが置かれて、そのベッドの上には老女がゆったりと上体を起こしている。
「あの、すみません!」
「まあ、お客さん……あら、仄代さんまで」
「おばあさま……」
 わたしは緊張した。仄代に影響を与えたおばあさん。揺れる椅子に座って編み物とかしてそうな、のほほんとした人だ。
「あの、突然の訪問すみません。わたしは文野いのりといいます。仄代さんの友人です」
「まあ、仄代さんのお友達? 今お茶を……」
「いえ、お構いなく。それより、折り入ってお願いがあります」
 わたしは静かに部屋へ入り、おばあさんに体を向けた。
「このお部屋を、しばらくの間お借りできませんか? うるさくしてしまいますが、ここの部屋が必要なんです」
「あらあら。どうしたの、急に?」
「お、おばあさま……わたし……その……舞台に……立ちたくて……」
 仄代は、自分の意思を伝えた。
 エスガワネオン劇場で新たな舞台があること、離れていても主役はできること、何より、自分は最後まで舞台に立ちたいこと。すべてを聞いたおばあさんは、ゆっくりと頷いた。
「いいわよ。好きに使ってちょうだい。ただ、あたくしは体が悪くてここからおいそれと出られないのだけれど、ごめんなさいね」
 わたしは深く深く頭を下げた。それから、わたしと仄代はおばあさん――曇(くもり)さんの部屋で作戦会議をさせてもらった。弓張家は、曇さんを除いて誰もが仄代の舞台に上がることに反対だ。弓張の家に戻ったのなら、演劇は一切やめろと暗黙の掟を敷いているようだが、そんなものは知らん。
 曇さんのところへ通っているのは、仄代にとっての唯一の味方である人と、ただ懐かしい話をしているだけだと思い込んでいる。
 わたしのバングルで、アカシアと通話した。アカシアはあのあと、団長さんから話を聞き、元凶を問い詰めたらしい。
 仄代の居場所をバラしたのは、劇場長さんと久野さんだったようだ。多額の支援者である弓張家から頼まれ、さらなる額の寄付金をチラつかされた。久野さんは、主役がいなくなれば、また自分が舞台に返り咲けると考えていたため協力したらしい。
 わたしはアカシアと連絡を取り、仄代を主役にすべく作戦を伝えた。
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