その輝きは、離れていても仄かにわかる

八島えく

文字の大きさ
9 / 11

九話:何もできない子なんかじゃない!

しおりを挟む
 エスガワネオン劇場は、遠隔技術に優れた劇場だ。その装置と、曇さんの接続機器を使えば、仄代はこの部屋で舞台に上がれる。
 舞台の時間が近づいてきた。衣装もお化粧も、遠隔技術で代用できるらしい。仄代には着の身着のままで舞台に上がってもらう。
 舞台まで、あと一時間。代役の久野さんは主役から降ろした。アカシアが。
 ところが、トラブルが起きた。弓張家の人たちが、仄代を部屋で見張りだしたのだ。上演当日になっていきなり。
「嫁入りする女性が、下層のネオン街相手に派手な格好で目立つなど、そんなはしたないことをするものじゃない」
 お兄さんはわたしに目を向ける。
「きみも見ただろう? 妹は一人では何もできない。弓張家の人間としての自覚もない。一人ですべきことを満足にできもせず、演劇だけは一丁前に語る。やりたいことをやりたいというのなら、まず自分の義務を果たしてから言うのが筋だ」
 ここまで正論で丸め込まれては、相手を納得させる弁など立つはずもない。
 わたしが前に出ようとしたところ、袖を仄代が掴んだ。仄代がわたしを庇うように一歩文出て、まっすぐ、お兄さんを見上げる。
「な、何もできないから……まだ義務も、果たせないから……家に従えというんですか?」
「間違っていないだろう。自分の身一つ守れない人間は、家に保護されなければならない」
「わ、わたし……ちゃんと、立ちます……お兄様に心配をかけないよう……お父様にも、お母様にも、安心してくださるよう……おばあさまに喜んでいただけるよう……」
「どうやって?」
「……舞台に立ちます」
「僕の話を聞いていたか?」
「はい……わたしは、一人で立ちます……舞台に立って、わたしが、何もできない者ではないということを、証明します」
「どうして、そこまで舞台に固執する?」
「わたしの演技を楽しみにしてくれているひとがいる。そのひとを、がっかりさせるわけにはいきません」
 静かな声だったが、決意に満ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...