博士の大発明

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博士の大発明

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 それはある日の昼の事。
 博士から一本の電話が僕にかかってきた。

「はい、もしもし。どうかしましたか博士?」

「どうしたもこうしたもないよ。大変だ広明くん。今すぐ研究所に来てくれ。理由は来てから話す。言っておくが、助手である君に拒否権はない。ではまた後で」

 そう言って僕の返事も待たず、電話は切れた。非常識にも程がある。
 まあいいや。特に予定もないし、素直に行ってあげるとしよう。
 僕は着替えて家を出た。



「博士ー、僕です。広明です。開けてくださーい」

 玄関のチャイムを鳴らし、呼びかける。いくらか待つとチャイムのスピーカーから反応が返ってきた。

「おお、早かったね。すぐに入ってくれ。見せたいものがあるんだ。驚くぞ」

「はい、おじゃましまーす」

 そう言われ中に入る。しかし入ったはいいものの、肝心の博士の姿が見当たらない。どこだろうとキョロキョロしていると、奥の方から声がした。

「広明くーん。一番奥の部屋まで来てくれーい」

 僕は言われるがまま奥へと向かった。
 奥の部屋に入ると、右手にピンクの液体が入ったフラスコを持った博士がいた。

「すまなかったね、急に呼びだして」

「いえいえ。……それで? 一体何があったと言うんです?」

「フフフ……、よくぞ聞いてくれた。実はだね、ついに私の野望が実現する時が来たのだよ。モテモテになり、ハーレムを作るという野望がね」

「まさか……、とうとうあれが完成したんですか!?」

「そのまさかだよ広明くん。完成したのだよ、惚れ薬が!」

「やりましたね博士! やっぱり博士は世界一の科学者ですよ!」

 興奮してつい大げさなことを口走ってしまった。でも、本当に惚れ薬が完成したとなればあながち間違いでもないと思う。

「ということは右手のそれが惚れ薬ですか?」

「そうだとも。その名も『メチャモテール』だ。いい名前だろう?」

「え、ええ、まあ」

 どストレートなネーミングだなあ。分かりやすくていいけども。

「それでだ、まずはその効果を見てくれたまえ」

 そう言うと博士はおもむろに段ボール箱を持ってきた。その中にはネズミが十匹ほど入っていた。

「ここに入っているマウスはすべてメスだ。そして、ここにオスのマウスを一匹入れる」

 博士は近くの飼育かごから一匹のネズミを掴み、段ボールの中へと入れた。

「そして、このオスのマウスにメチャモテールを飲ませる。ここからが見ものだぞ」

 博士はスポイトでメチャモテールを吸い、オスネズミの口に一滴垂らして飲ませた。
 そこから十秒ほど経つと、それは起こった。
 周りにいたメスたちが全員オスの元へと集まり、まるで取り合いをするかのようにオスに体を擦り付け始めたのだ。何これすごい。

「見たかね広明くん。あっという間にハーレムの完成だ。抜群の効き目だろう?」

「本当ですね。ここまで顕著とは……」

「私も度肝を抜かれたよ。今朝のことだ。いい感じのができたと思い、試してみたらこうなったのだから。あっちの段ボールも見てみたまえ」

「あっち?」

 全然気にしていなかったが、部屋の隅に五箱ほど段ボールが置いてあった。
 まさかと思い中をのぞきに行くと、すべての箱の中で見事なハーレムが完成していた。

「今朝一回成功した後で、すぐさま五回ほど実験をしてみたんだ。見ての通りすべて成功した。どうだね? 私は歴史に残る発明をしたのだ」

「本当におめでとうございます。そうだ博士。僕にもメチャモテールを飲ませてくださいよ。僕もモテモテになりたいです」

「馬鹿を言うな。まずは発明者であるこの私が飲むのだ。その後で君にも飲ませてやろう」

 ちっ、まずは自分だけハーレム王になろうということか。欲が深い人だねえ。
 まあ僕は助手の身だし、ここは譲ってあげよう。


「ではさっそく、薬の効果を試しに行くとしよう。しばし待っていなさい、広明くん。たくさんの女性たちを引き連れて、私は帰ってくるよ。はっはっはっはっは」

 そう豪語した博士はメチャモテールを一気に飲み干し、意気揚々と出て行った。
 一体何人の女性を虜にして帰ってくるだろうか。
 さっきのネズミへの効き目から考えると、十人や二十人では済まない気がする。
 僕は期待に胸をふくらませ、博士の帰りを待った。



 それから一時間後、大量のメスネズミを引き連れた博士が帰ってきた。
 博士の野望の実現は、まだまだ先になりそうだ。
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