異世界チートはお手の物

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第25話 揺れる世界

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 昨夜、ファリス王国の王都リーベ近郊のセタ平原で、S級冒険者のリオンが死んでいるのをそこで夜遅くに狩りをしていた冒険者の2人が発見した。遺体は激しく損傷しており、事故ではなくおそらくモンスターか人の手によって殺されたものと思われるが、詳しくは現在調査中である。また、遺体のすぐそばの地面に縦に伸びた真っ直ぐな線が書かれていた。数字の1のようにも見えるが、リオンかもしくは他の誰かが意図的に書いたものなのか、たまたま地面についたものなのかはよく分かっていない。

 新聞記事に書かれていた内容を要約するとこんな感じだ。
 俺は一緒に記事に目を通していたエミリアに声をかける。

「な、なあ、やっぱりこれってやばい事件か?」

「当たり前じゃない!! S級トップのリオンさんが死んだ。しかも事故とかじゃなく何者かに殺された。これはもう世界を揺るがす大事件よ!!」

 やはりか。まあ記事を読んだ周りの人たちもかなり騒いでるし、ベイルの動揺っぷりからもただ事じゃないのは言わずもがなか。
 そして当のベイルは相当な動揺具合で、天を仰いでしまっていた。

「べ、ベイル? 大丈夫か?」

「ん? あ、ああ、すまん。あまりのことで放心しちまった。もう大丈夫だ。ふう……」

 ベイルは深く深呼吸をし、自分を落ち着かせる。

「でも、この記事は本当なのか? ベイル」

「まず間違いなく事実だ。ガルロ新聞はかなり入念に取材をすることでも有名だからな。信憑性はかなり高い。まあ、編集長がかなりの金好きで、政治家とかから賄賂をもらって嘘の記事を書いたりもしてるなんて噂も聞いたことはあるが、この記事に関してはそんなこともないだろうし、信じていいだろう」

 そうなのか。まあ世界最大手の新聞だから信憑性あるに決まってるか。

「しっかし、リオンが殺されたってのはショックが大きすぎるな……。だが、あいつほどの奴を殺せるようなモンスターなんてまずいないし、ましてやリオンを倒すせるような人間だっているわけがない。何があったってんだまったく」

 髪をクシャクシャと掻くベイル。その顔はかなり険しい。

「あれじゃないか? モンスターの動向が最近おかしいって言ってたろ? それで強いモンスターに襲われてやられたとか」

「んー、まあその線もなくはないが、リオンはすべての冒険者のトップに君臨する奴だ。冒険者のトップって事は、つまりはモンスターとの戦闘も世界で一番馴れていると言える。それほどの奴がモンスターにやられるなんて俺には思えないんだよなあ……」

 うーんと深く考え込むベイル。じゃあモンスターでもなく人でもない何かが犯人なのだろうか。それこそあり得ないような気がする。それに数字の1のようなものが地面にあったってのも気になるなあ。
 俺が考えを巡らせていると、何かを思い立ったような顔をしたベイルが話してきた。

「ユウトすまん……。今日の決闘だが、キャンセルさせてくれ。そんな気分じゃなくなったちまった。あと、ちょっと行くところができた」

「お、おう。それは良いけど……、どこに行くんだ?」

「現場近くの王都リーベに行く。そしてそこで詳しい事情を聞く。リーベにはガルロ新聞社の本社もあるしな。じゃ、悪いが時間が惜しい。俺はすぐに出発するわ。じゃあな。決闘はまたの機会に絶対やろう。じゃあな」

 そう言い残し、ベイルはそそくさと行ってしまった。
 決闘が流れたのは残念だが、しょうがないか。ベイルはリオンとも交流があったみたいだし、そりゃ色々気になるよな。俺と決闘してる場合じゃねえわ。

「ベイルさん、大丈夫でしょうか。落ち着いたとは言ってましたけど、ちょっと心配です」

 ミーシャが心配そうな声を上げる。

「確かベイルさんとリオンさんは15年以上前から知り合いで仲も良かったって聞いたことあるし、色々思うところがあるでしょうね……」

 15年以上前か。俺が思ってる以上に親密な仲だったんだな。

「なあ2人とも。良かったらなんだけどな、俺達もリーベに行ってみないか? この事件について俺も詳しく知りたいし、なんとなく変な胸騒ぎもするんだ。どうかな?」

「ええ、いいわよ。私も気になるしね」

「はい、私も賛成です」

 2人ともあっさりとオーケーしてくれた。これはありがたい。

「で、提案しといてなんだが、そのリーベってのはどこにあるんだ? ここから近いのか?」

「うーん。そこまで遠くないわね。ジールの南にある王国の王都なんだけど、ここから馬車も出てるからそれに乗れば2日くらいで着くはずよ」

「2日か。割と近くてよかった。じゃあさっそく馬車に乗りに行こう」

「あ、待って。どうせ行くならベイルさんと一緒に行くのがいいんじゃない? たぶんベイルさんも馬車を使うんだろうし」

「いや、ベイルはおそらく飛竜に乗っていくと思う。知り合いが飛竜を飼ってるみたいなんだ。俺達が特効薬の材料を取りに行ったときにも乗せてもらったしな」

「飛竜、すごいわね。じゃあそれに乗せてもらえ……いえ、それも図々しいわよね」

「んー、まあ頼めば乗せてくれそうだけど、1人にさせといてやろうぜ。一番ショックを受けてるのはベイルだし」

「ええ、そうね。じゃあ馬車乗り場に行きましょう。私が案内するわ」

「おう、助かるぜ」

「私、馬車に乗るの初めてです」

 そういや俺も初めてだな。日本じゃまず乗る機会なんてなかったしな。ちょっと楽しみではあるな。
 俺達はエミリアの案内で5分ほど歩いて馬車乗り場へ行き、リーベ行きの馬車に乗りジールを出発するのだった。
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