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第一巻:春は、あけぼの
惑÷本性÷欲望
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今日のテレビ収録は「人体の不思議」について専門家が先端情報を語るのへ、質問をする係だった。
しかも、その専門家は、知り合いだったのだ。
なんと、ジムで最高強度の有酸素運動のプログラムに参加したのが縁で、パーソナルトレーニングで指導してもらっていたトレーナーだ。
元々トレーナーは副業で、本職は某研究機関でスポーツ生理学の論文も出している研究者なのは知っていたが、こんなところで会うとは。
と思っていたら、俺の最近のタレント活動を知って、ご指名いだたいだようだ。
話が弾み、番組としても盛り上がり、連絡先も交換できた。
「沢田先生、嬉しそうね?」
「彼と連絡先を交換できるとは思っていませんでしたから」
一応、ジムではトレーナーと個人的な連絡は禁止だったのだ。
「最近、男の人とばかり仲良くしてて、妬けちゃうわ」
夕方、社長の車で、自分の部屋まで送ってもらっていた。
「社長、お疲れ様でした」
「はい。お疲れ様です」
車から降り、ドアを閉めようとしたら、社長が、何か考えるような、思い出そうとするような素振りをしたので、
「どうしました?」
「・・・うーん、何か忘れてる気がする。きっと、大した事じゃないわ」
走り去る車を見送り、自分の部屋の前につくと、そこには、インターホンを押そうとする、志桜里の姿があった。
「どうしました?」
「社長は、どうしました?」
質問で返され、話を聞くと、この後、志桜里には仕事が入っており、俺を送るついでに、この近辺に移動させた志桜里を社長がピックアップする予定だったそうだ。
さっきの「何か忘れてる気がする」がこれか。
大した事だったぞ。
社長に電話するが、運転モードでつながらない。
まだまだ時間に余裕はあるようだが大至急、迎えにくるようにLINEし、仕方なく、志桜里を部屋に招き入れた。
「適当に座っててください」
志桜里にそう言って、キッチンへ向かう。
いつものペットボトルの炭酸水はあるが、彼女は炭酸が苦手なようで、誕生日の乾杯に出した、ノンアルコールのスパークリングワイン風ジュースに、少し涙目になっていた。
カフェインをとるためのインスタントコーヒーはあるが、客用のカップがない。
先日のジュース用に買ったプラスチックカップの残りがあり、氷もあるから、アイスコーヒーにするか。
しかし、砂糖もミルクもないぞ。
「志桜里さん、アイスコーヒー、ブラックで大丈夫ですか?」
電気ポットに水を入れ、キッチンから声をかけるが、応えがない。
不信に思って、リビングを覗くが、姿がない。
奥の寝室へのドアが開いていた。
というよりも、いつも開けっ放しだ。
来客が予想外すぎて、忘れていた。
慌てて、寝室に入ると、志桜里がダブルベッドの端に、ちょこんと座っていた。
「そこで、なにを?」
「志桜里は、適当に座れと言われました」
確かに。
もし機会があれば今後は「リビングに適当に座っててください」と言おう。
彼女の右手に、銀色の耳かきが握られていた。
バッグから、タオルを出して、自分の太ももに敷き、
「志桜里には、プレゼントした耳かきを使う権利があります」
太ももをポンポンと叩く。
いや、権利もなにもないし、あってもあの日限定だったと思う。
「志桜里やみんなで選んだお誕生部のプレゼント、もう不用品なのですか?」
三人に仲良くなってもらうための口実、とは言えず、諦めた俺はベッドにあがり、右耳を上に、膝枕に頭をのせた。
「まずヘッドマッサージをします」
余った部分のタオルで包まれ、それ越しに、頭が揉まれる。
「ぎゅーっ」
志桜里の擬音ほど、指の力は強くないが、細い指で頭皮を動かされると思いのほか気持ちがいい。
「頭が凝ると、肩こりや頭痛の原因にもなるんですよ。ぎゅーうっ」
なんだろう既視感のある言葉だ。
「では、耳かきしていきますね」
ひやりとした耳かきが、入ってくる。
あれ?
前回に比べたら、各段にうまい。
「社長を実験台に、練習しました」
意外と業務が多岐に渡るな、社長業。
前は、おっかなびっくりでこちらも緊張してしまっていたが、慣れた耳かきに、こちらも力が抜けてきた。
「ふぅー」
耳に息をふきかけられ、ビクっと身体が震えた。
「はい、こちらは綺麗になりました。ごろーんしてください」
しまった、志桜里がベッドの端に座っているので、お腹の方へ顔が向かないように、身体ごと向きを変える手が使えない。
「はい、ごろーん」
身体を半回転させられ、彼女のお腹の方を向くことになった。
「こちらも、ヘッドマッサージしますね」
タオル越しに揉まれ、その分、顔が志桜里の身体に押しつけられる。
息をするたびに、タオルの柔軟剤ではない、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
その匂いをもっと嗅ぎたくて、大きく息を吸い込んでいる自分に気がつき、赤面する。
「先生、耳が赤くて、熱いですよ」
冷たい耳かきが、耳の穴に差し込まれていく。
「右耳は綺麗だったのに、こちらは結構、汚れています。この前、社長が右耳をお掃除したからでしょうか。あ?」
「どうしました?」
「ひっかいたような傷があります。左耳を前に志桜里が乱暴にしたからかも。ごめんなさい」
いや、きっとミホの仕業だろう、とは思ったが、この体勢で別の女性の名を口にするのは命取りな気がした。
「耳が痒かったから、俺が指でやったからだと思います」
「ダメですよ、乱暴にしたら。先生」
耳元で囁きながら、奥まで入れられる。
その分、敏感な部分に触れられてしまう。
思わず、声が出てしまい、
「痛いですか、先生?」
「いいえ、大丈夫です」
「では、気持ちいいですか?」
「え、はい」
「よかったです」
耳かきが引き抜かれ、
「あ、忘れてました」
何か、耳かきより太い温かい何かが、耳に差し込まれた。
「あう、何?」
「動かないでください、指かきです」
指かき?
耳ふー。
・・・ASMRか。
さっきの既視感の正体がわかった。
俺がリラックスするときに聴いているYouTubeのASMRの再現だ。
耳ふーを避けて、俺は身体を起こす。
「きゃ、先生?」
でも、どうやって履歴を知った。
あの日、ミホが耳かきのときに、YouTubeをテレビで見たがり、俺が自分のIDでログインした。
「テレビで、履歴を見たのか?」
「・・・ごめんなさい、先生」
両手を胸の前に組んで、涙目になる志桜里。
俺のミスだ。
「いえ、志桜里さんは悪くありませんよ」
むしろ、俺がASMRを視聴していることを知って、いろいろ調べただろう志桜里の努力に感心する。
「リラックスできました、ありがとう」
志桜里は俺の感謝の言葉を聞くと、ぱたんとベッドに仰向けに倒れた。
「・・・先生」
俺に向けて、両手をさし伸ばしてくる。
その姿を見て、志桜里の好意と献身に、何も報いることのできない自分を不甲斐なく思ったが、何もできないのは変わらない。
「俺は・・・」
何かを自分でもわからないまま語ろう、と俺が志桜里に向けて身体を傾けたことで、両肩に彼女の手が届いた。
「・・・先生。志桜里に、敬語をやめてください」
俺が、ビクッとしたのは、肩に触れている彼女にも伝わってしまっただろう。
「志桜里さんも、ですます調でしょう?」
ごまかそうと、笑って話しかける。
「志桜里の口調は、素です」
俺のつくり笑いには反応せず、俺の目を見つめる。
「志桜里のこと、信じてください。先生の全部を受け入れられます」
それは、十八歳の少女の無垢な純粋さからの言葉なのだろう。
俺が、どんなドス黒い汚い大人か教えたら、いったいどんな顔をするのだろう?
だがもし、それを笑って受け入れられてしまったら、俺はどうしたらいいんだ?
彼女が、どんな顔をするのか、みたい。
そんなことをしたら、いろいろと壊れてしまう。
それでも、二人の顔が近づく。
『ぴんぽーん!』
「遅くなって、ごめんなさい志桜里。沢田先生もご迷惑おかけしました」
ようやく社長が迎えにきた。
「社長、ちょっと話が」
「・・・志桜里、外の車で待ってて。すぐ行くから」
彼女が、遠ざかるのを待って、一度ドアを閉め、
「年頃の女の子と、俺の部屋で待ち合わせるのは、止めてください」
「誤解よ誤解。志桜里にうまく伝わらなかったけど、近くの駅でピックアップするつもりだったの。迎えにいくの、忘れちゃってたけど」
あくまで、いくつかの不運が重なったトラブルだと言いたいんだな。
「とにかく、止めてください。何かあってからでは、遅いんですから」
「なにか、あったの?」
「ないから、あってからでは遅い、と言っています」
「ありそうでは、あったんだ?」
俺は、ぐっと拳を握り、
「志桜里さんに、俺が手を出したら、社長だって困るでしょうが!」
「どうして?」
きょとんとした顔で、聞かれた。
「あの子もそれを望んでいるし、十八歳で合法だし。でも、優しくしてあげてね」
俺は、絶句した。
「ロリ疑惑が気になるなら、私でもいいわよ。独身同士なんだから?」
「・・・言っていい冗談と悪い冗談がありますよ」
「冗談で、なかったら?」
その笑顔に、俺はかっとし、乱暴に形山を抱きすくめた。
抵抗すると思って、そうしたら嗤うつもりでいたのに、腕の中で、怯む様子がない。
「先に手をだしたのは、沢田先生」
彼女の手が、俺の後頭部に添えられ、唇を合わせられた。
形山の両肩に手をあて、ようやく引き離す。
反動でよろけ、玄関の段差で、俺は床にへたり込んだ。
睨み上げる俺に、
「沢田先生は、欲望を汚いって思い込みすぎ。人に、欲望があって当たり前。沢田先生は、ご自身で思っているほど、汚い人間ではありませんよ」
俺が、応えないでいると、
「・・・お疲れ様でした」
そう言い残し、ドアを開け、出ていった。
これじゃまるで、前にあみが心配していた、恋人の姉に手を出すドラマみたいじゃないか。
助手席で待っていた志桜里が、ちらっと形山を見て、
「社長、口紅。キスしたんですか?」
「・・・うふふ、秘密。志桜里は、したの?」
「・・・秘密です」
しかも、その専門家は、知り合いだったのだ。
なんと、ジムで最高強度の有酸素運動のプログラムに参加したのが縁で、パーソナルトレーニングで指導してもらっていたトレーナーだ。
元々トレーナーは副業で、本職は某研究機関でスポーツ生理学の論文も出している研究者なのは知っていたが、こんなところで会うとは。
と思っていたら、俺の最近のタレント活動を知って、ご指名いだたいだようだ。
話が弾み、番組としても盛り上がり、連絡先も交換できた。
「沢田先生、嬉しそうね?」
「彼と連絡先を交換できるとは思っていませんでしたから」
一応、ジムではトレーナーと個人的な連絡は禁止だったのだ。
「最近、男の人とばかり仲良くしてて、妬けちゃうわ」
夕方、社長の車で、自分の部屋まで送ってもらっていた。
「社長、お疲れ様でした」
「はい。お疲れ様です」
車から降り、ドアを閉めようとしたら、社長が、何か考えるような、思い出そうとするような素振りをしたので、
「どうしました?」
「・・・うーん、何か忘れてる気がする。きっと、大した事じゃないわ」
走り去る車を見送り、自分の部屋の前につくと、そこには、インターホンを押そうとする、志桜里の姿があった。
「どうしました?」
「社長は、どうしました?」
質問で返され、話を聞くと、この後、志桜里には仕事が入っており、俺を送るついでに、この近辺に移動させた志桜里を社長がピックアップする予定だったそうだ。
さっきの「何か忘れてる気がする」がこれか。
大した事だったぞ。
社長に電話するが、運転モードでつながらない。
まだまだ時間に余裕はあるようだが大至急、迎えにくるようにLINEし、仕方なく、志桜里を部屋に招き入れた。
「適当に座っててください」
志桜里にそう言って、キッチンへ向かう。
いつものペットボトルの炭酸水はあるが、彼女は炭酸が苦手なようで、誕生日の乾杯に出した、ノンアルコールのスパークリングワイン風ジュースに、少し涙目になっていた。
カフェインをとるためのインスタントコーヒーはあるが、客用のカップがない。
先日のジュース用に買ったプラスチックカップの残りがあり、氷もあるから、アイスコーヒーにするか。
しかし、砂糖もミルクもないぞ。
「志桜里さん、アイスコーヒー、ブラックで大丈夫ですか?」
電気ポットに水を入れ、キッチンから声をかけるが、応えがない。
不信に思って、リビングを覗くが、姿がない。
奥の寝室へのドアが開いていた。
というよりも、いつも開けっ放しだ。
来客が予想外すぎて、忘れていた。
慌てて、寝室に入ると、志桜里がダブルベッドの端に、ちょこんと座っていた。
「そこで、なにを?」
「志桜里は、適当に座れと言われました」
確かに。
もし機会があれば今後は「リビングに適当に座っててください」と言おう。
彼女の右手に、銀色の耳かきが握られていた。
バッグから、タオルを出して、自分の太ももに敷き、
「志桜里には、プレゼントした耳かきを使う権利があります」
太ももをポンポンと叩く。
いや、権利もなにもないし、あってもあの日限定だったと思う。
「志桜里やみんなで選んだお誕生部のプレゼント、もう不用品なのですか?」
三人に仲良くなってもらうための口実、とは言えず、諦めた俺はベッドにあがり、右耳を上に、膝枕に頭をのせた。
「まずヘッドマッサージをします」
余った部分のタオルで包まれ、それ越しに、頭が揉まれる。
「ぎゅーっ」
志桜里の擬音ほど、指の力は強くないが、細い指で頭皮を動かされると思いのほか気持ちがいい。
「頭が凝ると、肩こりや頭痛の原因にもなるんですよ。ぎゅーうっ」
なんだろう既視感のある言葉だ。
「では、耳かきしていきますね」
ひやりとした耳かきが、入ってくる。
あれ?
前回に比べたら、各段にうまい。
「社長を実験台に、練習しました」
意外と業務が多岐に渡るな、社長業。
前は、おっかなびっくりでこちらも緊張してしまっていたが、慣れた耳かきに、こちらも力が抜けてきた。
「ふぅー」
耳に息をふきかけられ、ビクっと身体が震えた。
「はい、こちらは綺麗になりました。ごろーんしてください」
しまった、志桜里がベッドの端に座っているので、お腹の方へ顔が向かないように、身体ごと向きを変える手が使えない。
「はい、ごろーん」
身体を半回転させられ、彼女のお腹の方を向くことになった。
「こちらも、ヘッドマッサージしますね」
タオル越しに揉まれ、その分、顔が志桜里の身体に押しつけられる。
息をするたびに、タオルの柔軟剤ではない、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
その匂いをもっと嗅ぎたくて、大きく息を吸い込んでいる自分に気がつき、赤面する。
「先生、耳が赤くて、熱いですよ」
冷たい耳かきが、耳の穴に差し込まれていく。
「右耳は綺麗だったのに、こちらは結構、汚れています。この前、社長が右耳をお掃除したからでしょうか。あ?」
「どうしました?」
「ひっかいたような傷があります。左耳を前に志桜里が乱暴にしたからかも。ごめんなさい」
いや、きっとミホの仕業だろう、とは思ったが、この体勢で別の女性の名を口にするのは命取りな気がした。
「耳が痒かったから、俺が指でやったからだと思います」
「ダメですよ、乱暴にしたら。先生」
耳元で囁きながら、奥まで入れられる。
その分、敏感な部分に触れられてしまう。
思わず、声が出てしまい、
「痛いですか、先生?」
「いいえ、大丈夫です」
「では、気持ちいいですか?」
「え、はい」
「よかったです」
耳かきが引き抜かれ、
「あ、忘れてました」
何か、耳かきより太い温かい何かが、耳に差し込まれた。
「あう、何?」
「動かないでください、指かきです」
指かき?
耳ふー。
・・・ASMRか。
さっきの既視感の正体がわかった。
俺がリラックスするときに聴いているYouTubeのASMRの再現だ。
耳ふーを避けて、俺は身体を起こす。
「きゃ、先生?」
でも、どうやって履歴を知った。
あの日、ミホが耳かきのときに、YouTubeをテレビで見たがり、俺が自分のIDでログインした。
「テレビで、履歴を見たのか?」
「・・・ごめんなさい、先生」
両手を胸の前に組んで、涙目になる志桜里。
俺のミスだ。
「いえ、志桜里さんは悪くありませんよ」
むしろ、俺がASMRを視聴していることを知って、いろいろ調べただろう志桜里の努力に感心する。
「リラックスできました、ありがとう」
志桜里は俺の感謝の言葉を聞くと、ぱたんとベッドに仰向けに倒れた。
「・・・先生」
俺に向けて、両手をさし伸ばしてくる。
その姿を見て、志桜里の好意と献身に、何も報いることのできない自分を不甲斐なく思ったが、何もできないのは変わらない。
「俺は・・・」
何かを自分でもわからないまま語ろう、と俺が志桜里に向けて身体を傾けたことで、両肩に彼女の手が届いた。
「・・・先生。志桜里に、敬語をやめてください」
俺が、ビクッとしたのは、肩に触れている彼女にも伝わってしまっただろう。
「志桜里さんも、ですます調でしょう?」
ごまかそうと、笑って話しかける。
「志桜里の口調は、素です」
俺のつくり笑いには反応せず、俺の目を見つめる。
「志桜里のこと、信じてください。先生の全部を受け入れられます」
それは、十八歳の少女の無垢な純粋さからの言葉なのだろう。
俺が、どんなドス黒い汚い大人か教えたら、いったいどんな顔をするのだろう?
だがもし、それを笑って受け入れられてしまったら、俺はどうしたらいいんだ?
彼女が、どんな顔をするのか、みたい。
そんなことをしたら、いろいろと壊れてしまう。
それでも、二人の顔が近づく。
『ぴんぽーん!』
「遅くなって、ごめんなさい志桜里。沢田先生もご迷惑おかけしました」
ようやく社長が迎えにきた。
「社長、ちょっと話が」
「・・・志桜里、外の車で待ってて。すぐ行くから」
彼女が、遠ざかるのを待って、一度ドアを閉め、
「年頃の女の子と、俺の部屋で待ち合わせるのは、止めてください」
「誤解よ誤解。志桜里にうまく伝わらなかったけど、近くの駅でピックアップするつもりだったの。迎えにいくの、忘れちゃってたけど」
あくまで、いくつかの不運が重なったトラブルだと言いたいんだな。
「とにかく、止めてください。何かあってからでは、遅いんですから」
「なにか、あったの?」
「ないから、あってからでは遅い、と言っています」
「ありそうでは、あったんだ?」
俺は、ぐっと拳を握り、
「志桜里さんに、俺が手を出したら、社長だって困るでしょうが!」
「どうして?」
きょとんとした顔で、聞かれた。
「あの子もそれを望んでいるし、十八歳で合法だし。でも、優しくしてあげてね」
俺は、絶句した。
「ロリ疑惑が気になるなら、私でもいいわよ。独身同士なんだから?」
「・・・言っていい冗談と悪い冗談がありますよ」
「冗談で、なかったら?」
その笑顔に、俺はかっとし、乱暴に形山を抱きすくめた。
抵抗すると思って、そうしたら嗤うつもりでいたのに、腕の中で、怯む様子がない。
「先に手をだしたのは、沢田先生」
彼女の手が、俺の後頭部に添えられ、唇を合わせられた。
形山の両肩に手をあて、ようやく引き離す。
反動でよろけ、玄関の段差で、俺は床にへたり込んだ。
睨み上げる俺に、
「沢田先生は、欲望を汚いって思い込みすぎ。人に、欲望があって当たり前。沢田先生は、ご自身で思っているほど、汚い人間ではありませんよ」
俺が、応えないでいると、
「・・・お疲れ様でした」
そう言い残し、ドアを開け、出ていった。
これじゃまるで、前にあみが心配していた、恋人の姉に手を出すドラマみたいじゃないか。
助手席で待っていた志桜里が、ちらっと形山を見て、
「社長、口紅。キスしたんですか?」
「・・・うふふ、秘密。志桜里は、したの?」
「・・・秘密です」
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