【完結】剣と魔法と魔力銃でモンスターを狩って楽しく暮らしていた「が」

まみ夜

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おんすいのたま

クラーケン

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「サクラ!」
 聞こえる、とも思わないが、叫ばずにいられない。
 バーが見えないから、生死もわからない。
 全体がはっきり、と見えない巨体に、クラーケンの名前とバーが出た。
 また、盾を霞めて杭、いやクラーケンの触手が伸びる。
 龍鱗の剣を突き立てるが、跳ね返されたので、「燃や」したら、刺さった。
 その勢いで、後ろにいた誰かにぶつかり、背の推進器が嫌な音を立てる。
 しかし、龍鱗の剣は、伸びる触手をその勢いを使って切り裂いた。
 戻ることなく、二つに分かれ力なく漂う足。
 この隙に、中心部へ、と思ったが、進まない。
「ミチルのも壊れちゃったよ」
 どうやらさっきの衝撃で、推進器同士をぶつけて、壊してしまったようだ。
 カムイが、俺とミチルの腕を掴み、「浮上」していく。
「カムイまって、サクラが!」
「身動きもとれないのに、無理」
「でも、でも!」
「無理ったら無理!」
 俺は、クラーケンの追撃に備えて、足元方向へ盾を構えることしかできなかった。

 推進器が修理できるまで一晩、眠れない夜を過ごした。
 頭では、身体を休ませるしか、できることはない、とわかっているのだが、目を瞑っても浮かぶのは、白い中心部に引き込まれていくサクラの姿ばかりだった。
 ギルドで、大型モンスター用の武器を探したが、ミサイルや魚雷は見つからなかった。
 そもそも、クラーケン自体が、実在を疑われるような伝説級のモンスターなのだ。
 倒せるとは、限らないし、それ用の武器もない。
 使えるものは、なんでも使いたいのだが、なんせ「海」用の武器が、この街にはほとんどないのだ。
 取り寄せて、届くのを待つ気はない。
 しかし、「海」で思いついた俺たちは、ちょっとした物を用意した。
 ウェットスーツは、アンダーのように装備を呼び出せたので、カムイは鎧龍の鱗でつくったステルス能力を上げる「鎧龍の鎧」を着けた。
 ほとんど「水」の抵抗がないとはいえ、「泳ぐ」邪魔になるかも、と前回は着けていなかったのだが、ライフルを装備することにしたので、十字の盾から離れて撃つ場合、触手の攻撃を受けない工夫が必要になったからだ。

 俺たち三人はユックリ、と再び水晶球の中心に向かって「潜って」いた。
 「水」の透明度は、前回に比べて下がっている。
 クラーケンの活動で、中心部の白い粒子が泥のように舞い上がったせいだろうか?
 クエストにクラーケン討伐が加わったので、ガイドカーソルが出ている。
 しかし、その触手がどれほど伸びるかわからない上、前回は直線的な動きしかしなかったが、どう動かせるのか不明なので、油断はできない。
 前方に、点が見えた。
 近づいてくるにつれて、魚っぽい、とわかり、ダツの名前とバーが出た。
 俺は、盾の前にソレを広げて、ダツの突進を待った。
 ダツは盾に向かって、突撃し、ソレに引っかかって止まった。
 勢い余って、盾にコツン、とぶつかるが、数は少ない。
 が、透明な盾の前にビッシリ、と「網」に無表情な目のダツが刺さっているのは、見て気持ちが悪い。
 今度は、魚が食べられなくなりそうだ。
 魚介類好きなミチルは、口元を押さえている。
 「魚は海で捕る」みたいなことを俺がこの世界にも海が存在することを知ったときに、偉そうに言っていたが、見るのは初めてなのだろう。
 網の端をまとめて袋状にして、足首に縛り付けた。
 本当は、ミチルがサンタのように担ぐ予定だったのだが、怖がるので仕方なく、俺が持つことになり、両手が塞がるのが嫌なので足に、となった。
 そんな作業をしていたら、「水」の透明度が更に下がった。
 ガイドカーソルも黄色くなり、雰囲気が変わった気がした。
 カムイが頷き、俺の肩を足場に蹴って、離れていった。
 もし音をクラーケンに聞かれていた場合への対策で、推進器を使わずに、惰性で離れ、射撃位置へつく。
 移動用にせっかく足首に結んだばかりの網を外し、嫌がるミチルに押し付ける。
 その瞬間、ガイドカーソルが赤くなり、盾に衝撃が走った。
 大型化したままの十字の盾を白い杭が、霞めていた。
 一瞬、止まり、同じスピードで戻っていった先の白い「水」の中から、白い巨体、クラーケンの名前とバーが出た。

 前回、触手を一本、縦に割いたダメージは残っているようだ。
 バーが回復していないのは、ありがたい。
 ミチルが、網に手をいれ、ダツの尻尾を握って、網から抜き、取り出した。
 嫌そうな表情を俺に向けて代われ、と訴えてくるが、残念ながら俺の両手は剣と盾で塞がっている。
 クラーケンに向けて、ミチルが拳を開く、とダツがクラーケンへ魚雷のように驀進していった。
 巨大なので、どこかに中ったのだろうが、ダメージが入っているかはわからない。
 少なくともヘイトは稼げているようで、盾に向かって、触手が伸びてくる。
 その触手を盾の影から、「燃や」した剣で貫き、推進器でカウンターを当て、自分は止まったまま、その伸びる勢いを利用して斬り開く。
 ダメージを受けた触手は戻らず、伸び切ったままになったが、念のため、斬り落とす。
 伸びてきているときと違い、力が入っていないせいか、「燃や」さずに断ち斬れた。
 そこに、カムイのライフル射撃。
 バーが、かなり削れるが、ステルスが効いているのか、そちらに触手が伸びる気配はない。
 その隙に、ミチルがまたダツをクラーケンへ向けて放つ。
 このパターンで、触手を五本斬り落としたところで、カムイへ触手が伸びた。
 ステルス機能で、正確な位置がわからないのか、的外れで、こちらへのヘイトを稼ぐために、ミチルがファイアー・ボールを撃った。
 炎が弱点なのか、急激にバーが削れ、攻撃パターンが変わった。
 クラーケンも必死なのか、単に足が減ってコントロールしやすくなったのか、左右から触手が曲がって伸びてきた。
 一本を盾で受け流し、ミツルを抱きかかえ、それを蹴って、もう一本を躱す。
 急な動きで、ミチルが網を放してしまって、ダツが適当な方向へ向かって発射される。
 目の前をかすめていって、肝を冷やすが、それが目くらましになったのか、触手が目標を見失っていた。
 二人の推進器を総動員して、最大速度で、クラーケン本体に接近しながら、俺は剣を投げる。
 俺に向かってくる触手をライフル射撃が、進路を変えさせつつ潰した。
 そのカムイへ触手が向かいかけるが、ミチルのファイアー・ボールが炸裂し、ヘイトが拮抗したのか、動きが止まる。
 龍鱗の剣が、巨大な眼球の間に刺さる瞬間に「燃や」した。
 血の気が引くような脱力感とともに、俺のバーが減り、クラーケンのバーが削れ、どちらも僅かに残して、止まった。
 倒しきれなかった!
 そこに、ライフル射撃とファイアー・ボールが同時に止めを刺した。

 三人で集合し、盾の影で、白い「水」の中から、モンスターが出てこないよう願いつつ十五分待ち、アイテムを使って回復した。
 そして、更に中心へ向かって「潜って」いった。
 途中、二匹ほどダツが出たが、ミチルがバラ撒いたヤツだろう。
 マップが示す中心部に着いたが、自分の指先が見えないほどの白い霧のようなものに覆われている。
 クラーケンを倒したドロップ・アイテムは「クラーケンの嘴」。
 加工用アイテムで、水晶球とは関連なさそうだった。
 単に、クラーケンを封じ込めるためだけの水晶球なのかもしれない。
 かつて、退治に困った誰かが、封印したのだろうか?
 倒すより、そっちの方が、難しい気もするが。
 サクラの姿も見つからない。
 そんな風に諦めかけたとき、小さなものが俺の身体にぶつかった。
 それは、サクラのステータスカードだった。
 表面には、金属でひっかいたような文字で辛うじて「うちゅうせん」と読めた。
 宇宙船?
 宇宙線?
 それとも、「宇宙戦争」かなにかの書きかけ?
 クラーケンに刺される前「この世界は実は」と言っていた。
 その言葉の続きを、カタナでカードに書いたのだろうか?
 だとしたら「この世界は実は宇宙船」?
 俺たちは、宇宙船の中で、銃や魔法をぶっ放しているのだろうか?
 ミチルもカムイも、「うちゅうせん」が何かわからないようだ。
 大地が丸いのは、知っているようだが、夜空の星とこの大地は別物で、宇宙の概念は、天動説の頃っぽかった。
 そんな現実逃避な思考をしているのも、ギルドには、サクラ未発見の報告しかできなかったせいだ。

「・・・・宇宙船・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・うちゅうせん・・・・・・・・・・・」
「      情報汚染・・・・・・・・・・・」
「欺瞞情報・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・これで騙されてくれれば・・・・・」
「宇宙進出・・・・・失敗・・・隠蔽・・・・・」

 サクラを偲ぶ会、と称して、俺たちは夕食を囲んでいた。
 いや、死んだ、とは限らないし、明日も水晶球に「潜って」探すつもりだったが、気持ちに区切りをつけたかったのだ。
 こういう状態では、葬式や葬儀をどうやってるのか、と聞く気にはなれなかったので、俺の住む地方の習慣だから、と通夜っぽいことをした。
 精進料理、という考え方もなさそうなのだが、食べられる物に難ありな状態なので、野菜多めの串焼き盛り合わせを頼んで、食べられるものを自分で選ぶ、としたので、もう単なる食事会だ。
 真っ先に野菜が売れ、肉がボチボチ、魚介は不人気、といった感じだ。
 あまり食べていないのに、いつもより白ワインのペースが早いミチルが少々、心配だ。
 何か腹に溜まるもの、とはいえ肉魚を使ってない料理、となると、具の入ってない焼きおにぎりでも頼むか。
「ぅちゅーせんって、なんなのよ?」
 間に合わなかったか、結構もうベロベロだぞ。
「宇宙、ええと。この前の塔から見たより空の高いところを飛ぶ船のことだな」
「そらをとぶふねぇ・・・?」
 ブッ、と吹き出し、
「船って、水に浮かべるものでしょ?空を飛ぶって、ナニそれ?」
 ギャハギャハ笑う。
 魔法使うヤツに言われなくないし、「ギャハ」はない、と思うぞミチル。
 勢いがついたのか、手元を見てないのか、ゲソ焼きを齧るミチル。
 うっぷ、それは俺でも無理だ、と思った串だ。
 カムイも目を背けている。
 硬いのか、先ッポをガジガジしながら、
「そのそらとぶおふねで、どこいくの?」
 もし、この世界が宇宙船だとしても、探索目的とは思えない。
 転送での移動距離を考えれば、船が巨大すぎるからだ。
 なら、移民船?
 俺の時代でも、公式では火星へも有人到着はなかったはずだ。
 それに、移民だとして、どの星へ?
 近場の惑星でも、テラフォーミングしなければ、住めないだろう。
 適した星があっても、そこまで、どうやって?
 あのカプセルは、コールドスリープ用?
 それなら、俺は、この街の住人は、巨大な船の中に、巨大な空間を浪費して、ここで何をしているんだ?
 カプセル、サクラのステータスカード、腐ったドラゴン、星海がチラつく。
 ガチャン と音がして慌てて思考から浮かびあがったら、ミチルの手から滑り落ちたグラスが床で割れ、彼女はテーブルに突っ伏して寝ていた。
 カムイは、グラスの破片を拾っていたが、料理が残った皿から、ミチルの顔を先に上げてやる方がいいんじゃないか?
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