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第一章
10.ルイとアーサー
しおりを挟む「魔の、森……!!?」
まるで骨のような手で口を覆い、震えだした子供に、出来るだけ優しく声を掛ける。
「大丈夫。“魔の森”の中だけど、結界が張ってあって魔物は入ってこれないから」
子供は、栄養失調で窪んでしまった大きな目を見開き私を注意深く観察しているようだ。
その瞳には、恐怖と不安の色が浮かんでいた。
「それより、お腹が空いてるでしょう。ご飯作ってきたから、食べない?」
「ご、はん……、ぼくが、たべてもいい、ですか?」
食べさせて貰えてなかったのだろう、おずおずと伺ってくる、その子供が育った環境に、沸々と怒りが込み上げてきた。
「勿論だよ。もう一人の子の分もあるから、遠慮せず食べてね」
「!! アーサーっ アーサーは無事なんですか!?」
アーサーっていうのがもう一人の子供の名前だろうか。
隣に寝ているのに気付いてなかったのか、慌てだした子供に、隣に寝ていると伝えれば、ベッドを見て泣き出した。
「よか、よかった……っ」
「あぁっ あまり泣いたら脱水症状を起こしちゃうから、泣き止んで」
慌てて子供の涙を拭き、一緒に持ってきていたスポーツ飲料水を渡す。
これは最近ウチの冷蔵庫の中に現れたもので、草取りの後、汗をかいた時に飲むと最高に美味しいのだ。
とても重宝しているものの一つである。
「まずはこれを飲んでね」
「ぇ、は、はい……」
半ば無理矢理それを飲ませると、次の瞬間、カサカサだった肌が、元の子供らしいハリのある肌に戻ったのだ! 黒ずんでいた色まで白く変わっているではないか!
えぇェェ!!?
「おいしい……っ 体が、楽になりました……ぁ、よく見たら傷も無くなってる!? も、もしかしてこれ、すごく高いポーションなんじゃ……っ」
傷が治ってるのは、リッチモンドさんが治療魔法をかけてくれからなんだけどね! ってそれよりも、ただのスポーツ飲料水が、ポーション!?
ポーションってアレだよね。あの、体力を回復させたり、魔力を回復させたりする薬……、
ただのスポーツ飲料水ですけど!?
「いや、ポーションっていうか、体から出ていった水分を補給するものでね、そんな大したものじゃない……はずなんだけど?? あ、傷は私の家族が治療魔法で治したんだよ」
「治療魔法!!? そ、そんなすごい魔法が使える人がいるんですか!? やっぱりいただいたポーションも、すごいものなんだ……、す、すいませんっ ぼく、お金を持ってないんです!!」
「お金なんていらないよ!? とにかく今は、何も気にせず元気になることだけ考えて! はい、次はこの重湯を食べてねっ」
そう言ってスプーンと重湯の入った器を渡している時、隣のベッドから「うぅ……」と声が聞こえてきた。
「アーサーっ」
「ん……ルイ……?」
どうやらアーサー君が目を覚ましたらしい。
「アーサー君? 起きられそう?」
「!? だ、だれ!?」
ビクッとして、でも起き上がる体力が無いのか、起き上がろうとしてボスッと布団に沈む。
骨のような腕が、力なくベッドの上に落ちた。
「初めまして。藤井……、カナデ・フジイと言います。あ、そっちの子も自己紹介が遅くなってごめんね」
「ぁ、ぼくこそすいません。あの、ルイって言います……。そっちは双子の弟のアーサーです」
「え、双子!?」
私が驚いたのは、ルイ君がとても小柄だったからだ。
アーサー君は6歳くらいに見えるが、ルイ君は4歳くらいにしか見えない。
確かに髪の色は同じプラチナブロンドだけど……。
「ぁ、ごめんなさい。失礼な事言ってしまって」
「いえ、ぼくはアーサーに比べて小さいので、無理もありません」
4歳にしてはしっかりしてるなぁって思ってたけど、6歳くらいなのかぁ……。いや、6歳にしてもしっかりしてる。
「今までご飯もあまり食べさせて貰えてなかったんでしょう。仕方ない事だよ。これからはしっかり食べて、大きくなろうね!」
ルイ君にそう話しかけながら、アーサー君の背中にクッションを入れて身体を起こす。
「アーサー君は、まずこれを飲もうね」
「?? こ、ここは……、オレ、魔物に襲われそうになって、ドラゴンに……っ」
「うん。詳しい説明は後でするから、まずはこれを飲もう?」
ルイ君と同じように、アーサー君にも強引にスポーツ飲料水を飲ませると、やはり肌にハリが出て、白くなったのだ。
そういえば、この家の食料には、健康維持と体力、魔力を回復させる効果があるって、家召喚の説明書に書いてあったような……。
という事は、この重湯も……?
「何だこれ……!? 体が軽くなった……っ」
うん。体力が回復したんだね。健康維持の効果もあるから、もしかしたら栄養失調も無くなってるかも?
「アーサー君、お腹はへこんでる?」
「え、お腹……ほ、本当だ……っ お腹が空いてるのに、なんでかふくらんでたお腹が、へこんでる!!」
よし! 思った通り。
“健康維持”って事は、健康じゃないと維持が出来ないもんね。やっぱり病気も治るんだ!
「二人とも、この重湯も食べてみて。お腹空いてるでしょう」
もう重湯じゃなくて、普通のご飯を食べさせてもいいかもしれないけど、胃がびっくりして吐いてもいけないから、一応今日はこれで我慢してもらおう。
「“おもゆ”……?」
「お米を粒が無くなるまで炊いたものだよ。薄く塩味が付いてるから、食べやすいとは思うんだけど」
そう説明しても、二人は首を傾げていたのでお米が無いのかもと思い至り、「とにかく食べてみて」とすすめる。
二人は恐る恐るスプーンで掬って口に運ぶと、ゴクリと飲み込み、
「「!? お、美味しいっ!!!!」」
と、ふたりで顔を見合わせたのだ。
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