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第一章
43.忌み子
しおりを挟む邪竜が、リッチモンドさんの…………双子のお兄さん?
「カナデよ。前にルイとアーサーが双子だから捨てられたと話した事があっただろう」
「あ、はい。“忌み子”……というんでしたよね」
双子は不吉だから、産まれたら殺されるって……。
「そうだ。わしも……その“忌み子”であったのだ」
え……。
「産まれてすぐ、私の方は捨てられ、兄は両親に育てられた」
「な、何でリッチモンドさんだけが捨てられたんですか……?」
「魔力が高すぎて、化け物だと言われた事を覚えているよ」
化け物……。リッチモンドさんは、産まれてすぐの記憶もあるの?
「まぁ、そのお陰でこうして生きているのだがな」
「リッチモンドさんは化け物なんかじゃありません!! 世界一素敵な……っ 私の大好きな人です!!」
化け物だなんてっ
どうして自分の子をそんな風に思えるの!?
「カナデ……ありがとう。しかし、昔からドラゴンも人間も、双子は不吉とされ、捨てるか殺すかされてきたのも事実だ。わしは両親を恨んではいないし、この力がカナデの役に立っているのだから、化け物で良かったとも思っている」
リッチモンドさんはそう言って笑い、話を続けた。
「双子の兄であった邪竜と再会したのは、捨てられてから数百年が経ってからだった。奴は両親に大切に育てられたのか、それは我儘放題に成長していた。そして、再会したわしの力は、本来ならば自分が持つものだったと言い張り、魔力を奪おうとしたのだ」
「魔力の器は産まれた頃から決まっているはずです。奪ったからといって、自分の器を超えてしまう魔力量は死しか招きませんよね?」
レオさんが首を傾げながら言う。
「その通りだ。しかし、邪竜の器はわしとほぼ同じ程度あったのだ」
「な……っ」
「しかし、器はあるのに魔力は平均的な量しかなかったヤツは、私から魔力を奪い、そして…ドラゴン達を支配しようとしたのだ」
ちょっと待って……。魔力って、どうやって奪うの?
せ、性的な接触を持つと、互いの魔力が相手に流れるとは聞いたけど、一方的に奪うなんて出来るの?
「カナデ、邪竜はな……わしの身体を乗っ取る気でいたのだよ」
「乗っ取るって……!? 一体どうやって……」
「わしにも奴がどうやってそれを可能にしたのかは分からないのだが、兄の魂が自分の身体の中に入り込んだのは気付いたのだ」
咄嗟に魔力で跳ね返したが。というリッチモンドさんに、本当に乗っ取られなくて良かったと心から思う。
「その時から、邪竜と繋がりが出来てしまったようでな……わしには分からぬが、奴はわしの目を通してものを見る能力を持ってしまったらしいのだ」
「そんな……っ」
だから邪竜は、私の存在を知っていたのか。
「……そこまではまだ良かった。わしの身体を奪う事が出来ず、魔力は平均量のままだったからな。だが、奴はやってはならぬ事をしてしまった」
「やってはならない事?」
魔力を増やす為に何かしたって事だよね?
「贄として魔力の高いものを集め、奪ったのだ」
「それは……殺した、と受け取って宜しいのでしょうか」
レオさんがとんでもない事を言い出した。
「……そうだ。何千、何万と殺し、魔力を奪い、奴は漆黒の竜へと変化し、そして邪竜と呼ばれるようになったのだ」
何万人も……殺した?
「このままでは、血の分けた兄に、ドラゴンも人間も殺し尽くされる。だから、わしは邪竜を倒さねばならぬと思った」
この優しい人は、自分のお兄さんを倒さなければならないと決意した時、どれほど辛かったのだろう。どれほど傷ついたのだろう……。
「リッチモンドさん……」
ぎゅっと彼の手を握ると驚いているようだったけど、優しく微笑んで握り返してくれた。
「ありがとう、カナデ。……わしは、邪竜を滅ぼそうとしたが、それは叶わなかった。その時には既に、奴は相当量の魔力を持ってしまっていたからだ。だから」
「封印という手段を取られたのですね」
「そうだ」
レオさんの言葉に頷き、私を見るリッチモンドさんを見つめ返す。
「リッチモンドさん、私達がここで遭遇した黒い竜は、クレマンスさんが言うには、“ロッソ”という赤いドラゴンらしいんです」
「何だと!? ロッソは邪竜に殺されたのではなかったのか?」
クレマンスさんに皆の視線が注目し、俯いていた彼女が顔を上げた。
美人さんだからか、涙の跡がよけい痛々しい。
「分かりません……。封印を解いたのはロッソと、他の騎士達でした。私が見たのは、黒く染まっていくロッソが、国を滅ぼすその光景だけです……」
どうやら、クレマンスさんは封印を解く現場には居なかったようだ。
確かに彼女がロッソと一緒だったとしたら、封印を解くなどという愚かな行為は諌めていたかもしれない。
クレマンスさんは、リッチモンドさんを尊敬している感じだったし……。
「邪竜ではない者が、黒く染まる……」
「リッチモンドさん?」
「先程わしも、ロッソではなかったが、同じような光景を見たのだ」
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