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第1章
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しおりを挟む「独立だと!? 認めるわけがなかろう!! 今すぐドール家に進軍して一族郎党処刑してくれるわ!!!!」
ドール家の紋章が印字された書状を見て身体をワナワナと震わせ、力一杯破り捨てた王は、そう大声で叫ぶと側近を呼んだ。
「ヘッター!! ヘッターは居らぬのか!! 今すぐ軍を出せっ 我が国の全力を持ってドール家を叩き潰すのだ!!!!」
喚き散らす王に、部屋の外で控えていた侍女達は怯え、震えている。
王の側近中の側近、ハリヤ・ヘッター侯爵は心の中で溜め息を吐くと、億劫になりながらも執務室へと足を踏み入れた。
「陛下、我が国の軍は7割もの兵が除隊し、残りの3割の者も徐々に脱退していっております。現状この城にいる騎士を総動員したとしても数は知れており、逆に反乱軍は兵を増やし勢いにのっていますが…それでもドールの領地、いえ、“国”に進軍致しますか?」
「国だと…?」
ヘッターの言葉にピクリと身体を揺らし、ブルブルと拳を握る国王の顔は怒りに満ちていた。
そのだらけきった性格を表すかのような、たるんだ腹までもぶるんぶるんと揺れる様子は見れたものではない。
「あそこは我が国の、私の物だ!!!! ドールの物でも、まして“国”等でもないわ!!!!」
真っ赤な顔で唾を飛ばしながら怒鳴り散らす国王の姿にそっと嘆息すると、ヘッターは自身も今日中には逃げ出そうと心に決めたのだった。
◇◇◇
思いもよらない場所でチュウ・カーンと初対面を果たしたシンであったが、チュウは思わず天使と呼びたくなる程の美幼女だった。
流れるような美しい髪はプラチナブロンドで、胸の上辺りで切り揃えられており、同じ色の睫毛に縁取られた瞳はシンよりも薄いグリーンに輝いている。白い肌は幼子特有のふっくらとした柔らかさを持ち、頬は薔薇色に染まっていた。
小さな鼻と口が何とも愛らしくお人形のようである。
とはいえ、端から見ればシンはそれ以上の美しさを持っているのだが、本人はというと前世の一美の印象が強いのか、鏡を見ない限りは自身が絶世の美貌の持ち主だという事を忘れている節があるのだ。
例え幼子であろうとも、やはり美しいものには見惚れるもので、お互いにうっとりと見つめあっていた。
「チュウ様ぁ~。どちらにいらっしゃるのですか~?」
しかし、チュウを探す侍女の声にハッとしたシンはうっとりと自分を見つめるチュウに声を掛けたのだ。
「君の侍女が探しているようだが…」
美の女神の生まれ変わりと噂される程の美貌を持つシンにすっかり魅了されてしまった幼子は、シンの言葉も耳に入らず見惚れたまま微動だにしない。
そんな様子に段々と、目を開けたまま寝ているのではないかと思い始めたシンだったが、「見つけましたよ~お嬢様!!」という急な近場からの声に驚いて目を見開いた。
「全くぅ。突然居なくなって! 慌てたじゃないですか~」
幼子とはいえ、仕える主人に対して緊張感も何もない声を発する侍女はまだ年若い女性であった為、シンはヤバイと思い顔を隠そうとした。が、一歩遅かった。
「あら~? そちらのお子様は……っ!?」
シンに気付くと暫く無言で見つめた後、つー…と侍女の鼻から赤い液体が垂れ、真っ赤な顔をしてひっくり返ってしまったのだ。
やはりか…と思ったが、倒れてしまったものは仕方がない。そのお陰と言っては何だが、チュウは意識を取り戻したのだから。倒れてしまった自分の侍女を見て叫んでいるが、自分の周りではよく起こる事だと半ば諦め、冷静に家人を呼んだのである。
そんな自己紹介もきちんと出来なかった出会いから数日後、あの後互いの両親も交えて挨拶した事もあり、同じ位の年のせいかすっかり仲良くなった2人は、カーン家で開発された玩具やゲーム等を使用して屋敷内で一緒に遊ぶようになっていた。
「シン、これはチェスと言ってお父様が考えたゲームなのよ」
と嬉しそうに自慢するチュウは子供らしくて大変可愛らしい。
「へぇ。どうやって遊ぶんだ?」
一美の記憶で分かってはいるが、あえて知らないフリをしてやるのが(中身が)大人というものであろう。
しかし、将棋の方が好みだと思うのはおっさん的な思考なのだろうか。
チュウは「これはね」と自慢気に教えてくれるので、シンは心の中で可愛いなぁと思いながら説明を聞いていた。
それがここ数日の彼らのやり取りであった。
そんな平和な日々が続いたある日、色々な人物がひっきりなしに訪れているドール家の屋敷に、大きな大きな熊…にそっくりの人間がやって来たのだ。
小さな小さな、赤毛の子供を引き連れて。
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