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第1章
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しおりを挟む“シン、来年君の弟か妹が生まれるんだ。だから家族で一緒に暮らそう。リマインやウィキも城に招けば今までのように学べるだろう。今回こそは良い返事をおくれ 父より”
もう何度になるだろうか。
シンの父エモルトが送ってくる手紙には、毎回のように“一緒に暮らそう”、“城で暮らそう”と書かれていた。
シンはそれを毎回、ここで学びたいのです。薬草畑や使い慣れた研究室もありますし、ウィキや師匠のそばにいたいのですと返していた。
何故なら、死亡フラグを回収する為に王の象徴であるような“城”には絶対に近付きたくないからだ。
しかし今回のエモルトの手紙はいつもと違った。
いや、確かに内容はいつもと変わらないのだが、“来年弟か妹が生まれる”と書かれてあったのだ。
「オレの弟妹が生まれる…?」
原作にはない出来事に動揺するシンだが、すでに原作などめちゃくちゃにしてしまった後なので何が起きても不思議ではなかった。
「もし仮に、弟だったら…」
次代の王を弟に押し付ける事が出来る。いや、妹であっても女王として君臨してもらえば…等と灯った希望の光に瞳を煌めかせた。
いつの間にか王族のしかも王太子になっていたシンの本音は、“今すぐ廃嫡して欲しい”なのだが子供がシンしかいないのではそうもいかないのでどうしようも出来ない状態だったのだ。
「これでこの国から出て行けさえすれば…」
「え? お前この国から出て行くの!? 何で!?」
自室の机の前で父の手紙を手に取ったまま、考えに浸っていたシンは忍び込んできた気配に気付かなかった。
呟いた独り言に返ってきた声にびくりと身体を震わせ、恐る恐る後ろを向けば、立っていたのはくるくるアフロのウィキだった。
「お前王太子って奴なんだろ!? 何で出て行くんだよ!?」
焦ったように掴み掛かってくるウィキに驚き、息を飲むと襟を掴んでいたウィキの手をゆっくり取って外したのだ。
「バカ、今すぐの事じゃねぇ。もう少し大きくなったらだ」
「っ結局居なくなるって事だろ!?」
ウィキの手から自身の手を離すと、すぐに手を取られ強く握られる。
「一緒にいられねぇって事だろ!?」
シンと離れるのは嫌だと涙目になっている子供を見て、ウィキとシンは犬猿の仲だったはずだが…? と疑問に思いながらも、自身を慕ってくれるウィキを蔑ろには出来ずに優しい声音で話し掛ける。
「お前なぁ、俺が王太子のままの方が会えなくなるんだぜ? それでもいいのか?」
「え? どういう事…?」
まだ子供のウィキは一緒に暮らしている関係から身分差については疎いようで、考えた事もないというような顔をして不安そうにシンを見た。
「だっていずれ俺が父上の後を継いで王様になったら、お前とは会えないだろ。王様の父上に子供である俺が滅多に会えない位だぜ?」
「あ…」
思い至ったのか、ますます顔色を悪くして涙目になるウィキにシンは続ける。
「だから、もう少し大きくなったら王太子を退いて旅に出るんだ。自由な旅に! そうしたらいつでも身分なんて関係なくウィキやチュウに会える」
「っそしたら、一緒に、居られるのか…?」
「ああ。だって俺は自由になれるからな!」
シンのキラキラした瞳を覗き込み、ドキドキと高鳴る胸をおさえながらシンの言葉の意味を考えるウィキ。
その頬は赤く染まり、子供らしくて可愛いなと思いながら微笑むシンに、ウィキの心臓は益々早鐘を打つのだ。
「オレ、そん時にはぜってぇ付いていく!!」
顔を真っ赤にして、そう高らかに宣言したウィキにシンは仰天した。
「付いてくるって…買い物じゃねぇんだぞ?」
「分かってるって! 旅は道連れって言うだろ? それに、お前一人じゃ心配だしさっ」
「心配って、俺は一人でも大人の男に勝てるぜ?」
リマインに師事し、メキメキと腕を上げたシンは今や大人顔負けな程強くなっていた。
「ばーか、それは一対一だろ。複数相手に一人だとヤベェじゃん。だからオレも一緒に行くの!!」
「それなら私も一緒に行くわよ!!」
2人の会話に突然入ってきたのは、プラチナブロンドの美しい髪をなびかせながら登場したチュウ・カーンだった。
12歳となった彼女はより綺麗になっており、王都の美少女コンテストで優勝したというミラちゃんより数段可愛い。
「私ももう少し大きくなったら、世界中を旅しながら商売がしたいと思ってたのよね。でもそんなのお父様が許してくださらないから…けど貴方達が一緒なら話は別よ! シンが居ればお父様もきっと許してくださるわ!!」
チュウまでもがシンの旅に付いてくると言い出しては、シンも開いた口が塞がらない。
「チュウ!! 誰がお前を連れてくって言ったよっ」
「あら、誰も貴方に付いていくなんて言ってないでしょ。私はシンに付いていくんだから」
「るせー!! シンはオレと2人で旅に出るんだよ!!」
「シンと旅に出るのは私よ!!」
しかも2人が言い争いを始めてしまっては止めないわけにもいかない。
シンははぁ…と溜め息を吐いてから慣れたように止めに入るのだった。
これは3人が旅に出る3年前の話である。
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