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間違ってますよ!!

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「あ゛ぁ゛?テメェミヤビの何だ。犬っころ」
『ヴヴヴウ…犬っころだと…人間風情が…っ貴様こそミヤビ様の何だ』

メンチのきりあいをしているウチのペットとロードだが、こっちは背中からポッキリ折られそうだ。

さっき折角格好良くキメたのに、犬とゴリラのせいで全部パァになったんだけど。
あ、目の前が霞んできた。これもうダメだわ。
次に生まれ変わるなら、今度は犬とゴリラの喧嘩に巻き込まれて死なない人生を歩みたい。

よく考えたら犬とゴリラの喧嘩に巻き込まれて死ぬって珍事件過ぎるだろう。どんな人生だそれは…いや、神生か。むしろもう珍生。
神だからか。神だからそんな珍事件に巻き込まれるのか!!

というか、神様って死ねるの?寿命とかあるの?
もしも背中からポッキリやられても生き続けてたらそれもうホラーじゃない?

「素晴らしい…っ」

え?素晴らしいって言った?
背中ポッキリで生き続ける様が素晴らしい?
怖いだろ。普通に考えれば恐怖以外の感情は湧かない。

「何という素晴らしい能力!!さすがは“精霊”といった所か」

背中ポッキリの精霊っているの?いたとしたらそれ、精霊じゃなくて悪霊じゃない?

「よくやった。“アナシスタ・ベルノ・レブーク”。さすがは第3師団の副団長を務めるだけはある」

あな、のれぶ…何だって?
今第3師団って言った?

……というか、さっきから喋ってる人…誰デスカ?

ロードの腕に骨をやられそうになりながらも周りを見れば、50代後半位のダリのような髭を生やした紳士が鉄格子の外からこちらを見て…正確には、私の繋げた扉の前に立っている金髪の青年を見て、不敵に笑っていた。

ダリ髭の紳士の後ろにも数人いる事がわかる。その人達は腰に剣をぶら下げ、初めて会った時のロードのような革の胸当てを付け、手にはお香のような物を持っている。
そこから甘い桃のような匂いが香ってくるので、さっきまで錆びた鉄の匂いで充満していた部屋が、匂いだけは女の子チックな部屋に早変わりしている。

「……」

ダリ髭紳士に褒められていた青年は唇を噛み、黙って俯いた。



『今すぐミヤビ様を離せ』
「あ゛?離すわけねぇだろ。俺の夢に勝手に出てくるんじゃねぇよクソ犬」
『貴様…っ私は犬ではなく狼だ!!離さないと言うなら私の牙の餌食としてくれるわ!』
「返り討ちにしてテメェの毛皮をマットにしてやらぁっ」

犬とゴリラ。君ら空気読もうか。

未だに言い合っている1人と一匹に半目になるが、自分たちの周りに不穏な空気が漂っている事に気付いていない。

「ここまで誘き出せたなら捕らえたも同然。レブーク、その扉を破壊しろ。精霊は運の良いことに身動き出来んようだからな」

こっちをチラリと見て、クククッと喉を鳴らしながら金髪の青年に命令するダリ髭紳士。
金髪の青年は腰に下げた剣に手をかけ、刹那、扉をぶった斬った。まるで居合い斬りの要領でバッサリと。

深淵の森と繋がっていた扉はただのガラクタに成り下がり、バターンッと大きな音をたてながら崩れ落ちた。

「クク…フハハッこれで精霊は我らの手中よ!レブーク、そなたのつがいも、我らが死ぬ事もなくなる!死の恐怖に怯える生活は無くなったのだ!!」

何故か1人爆笑しているダリ髭紳士にドン引きだ。


「あ゛?……ダンジョー公爵じゃねぇか。何1人で笑ってんだ?気持ち悪ぃ」

ダリ髭紳士の笑い声に遂にゴリラが気付き悪態をついた。

しかもダリ髭紳士を見るなり顔をしかめ、「何で俺の夢にあのクソが出て来やがる。胸糞わりぃ」と呟いているが、いい加減現実だと気付け。そして私を離せ。

ヴェリウスはいつの間にか不穏になった空気にハッとして、私とロードの前に立ち、金髪の青年とダリ髭紳士を睨み付け唸り声をあげた。

「愛しい精霊に会えて随分と楽しそうだったなぁ。ロード・ディーク・ロヴィンゴッドウェル」
「テメェとこの犬っころさえ居なけりゃ天国だったのによぉ」

どうやらロードの知り合いらしいダリ髭紳士は、ニヤニヤ嗤いながら一歩こちらに近付いた。
鉄格子越しに私たちを見下すと、ロードの腕を見る。

「フン…運の良い男だ。貴様は精霊を誘き出すための餌だったが、死んでくれて構わなかったものを…間に合ったそこの部下に感謝するんだな」

下卑た笑みを浮かべて、金髪の青年にわざと注意を向けるダリ髭紳士にロードが初めて気が付いたように青年を見た。

「アナシスタ!オメェ居たなら声かけろよ。びっくりすんだろ」

崩れ落ちた扉のそばにいる金髪の青年に、ダリ髭紳士とは違い気安く声をかけるロードに、二人は旧知の仲なのだと知れる。

「まさかオメェまで夢に登場かよ。いよいよ俺も逝っちまうって事か」
「……師団長」
「おいおい。夢でまでそんな辛気臭ぇ顔してんじゃねぇって」

暗い雰囲気の金髪青年とはうって変わり、ニカっと笑うロードは私を横抱きにして胡座をかいている膝の上に乗せた。
背中からポッキリの危機は去ったが、何だこの恥ずかしい体勢は。

「コイツがオメェに自慢したミヤビだ。どうだ、美人だろう。言っとくけど夢だから見せてやってるが現実にゃ絶対見せねぇからな。
あ、深淵の森に言っても“印”の前で今回あった事を教えるだけでいいからな。会おうなんて考えんなよ…って、こりゃ現実でも散々言ったから大丈夫か。
…アナシスタ、オメェにゃ大変な事を頼んじまったが、信用出来るのはオメェだけだからよぉ。頼んだぜ」

「っ……師団長、あんたは馬鹿だ…っ」

金髪の青年はロードの言葉に顔をゆがめ、苦しそうに叫んだ。

「俺なんかを信じて…っ だから…だからこんな事になった…!」

青年の苦し気な言葉にダリ髭紳士の口の端が僅かに上がった。
そして、桃の香りがするお香を鉄格子の中に入れたのだ。

うん。良い香りがするね!

「精霊はこの香を嗅ぐと判断力が鈍り、洗脳しやすくなるそうだ」

へぇ。精霊にとっては麻薬みたいにヤバイお香って事か。

ダリの髭紳士が丁寧に教えてくれるので成る程と頷いていれば、ロードの表情が険しくなった。

「いくら夢でも俺のミヤビにそんなヤベェもん使いやがって…」

ダリの髭紳士を睨み付け、今にも喉元に食らいつきそうな剣呑とした雰囲気を出しているロード。

「つまりその香がありゃミヤビをメロメロにして色々ヤってもらえるって事だろ!?そんなもん必要ねぇんだよ!初めては道具にゃ頼るつもりはねぇ!!例え夢でもな!」

何言ってんのォォォ!?
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