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第二章
豹変
しおりを挟む「ーー…素敵なピアスをされているんですね」
お茶をしながらしばらく歓談し、タイミングを見計らってやっと言えたこの一言。
この一言を口に出す時にどれだけ心臓がバクバクしたか。
声が裏返らなくて良かった。
「…ありがとうございます」
しかし人族の神はサラサラとしたプラチナブロンドの髪を避け、ピアスに触れて微笑んだ。動揺は一切ない。
もう少しピアスについて突っ込んで聞いてみようかと、こちらもニッコリ笑って続ける。
「私も昔同じようなピアスを作ってプレゼントした事があります」
優雅にお茶を飲む手がピクリと震えたのを見逃さなかった。
「ピアスを…?」
「はい。昔友人に頼まれまれて」
「っ…」
おや。この反応は、私が作った物とは知らなかったようだ。
「それにそっくりなピアスを付けてらっしゃるので驚きました」
「…よくあるデザインですから」
それは無いだろう。何しろ剣竜王ヴァルバルギの世界観はおかしかった。ライディンがアランに渡したピアスは和風で、桜の柄のピアスなのだ。こちらの世界に桜は無い。
私が創り出したこの天空神殿以外には。
日本建築ゾーンに桜のトンネルを創っている時に、ヴェリウスとランタンさんにこんな美しい花見たことがないと言われたのだ。長年この世界で生きている1人と1匹が見たことないという位だから、無いのだろうと推測される。
「その和玉に描かれている花、何の花か知っていますか?」
「…生憎私は、人間が名付けた植物の名前には疎いものですから」
顔色が悪くなってきている人族の神にキラキラスマイルは出来ないが、それなりのスマイルで伝える。
「“桜”ですよ」
「サクラ……」
私の後に小さく呟くように繰り返したその声は、花の名前が知れて嬉しいというような感情がこもっている気がした。
「それには和玉が白ベースでしたので金色で模様を描いていますけど、本当はピンク色のそれはもう美しい花ですよ。花びらの先端が割れているのが特徴でね、ふふっ この世界では見たことがない花でしょう?」
それを言った瞬間、人族の神の顔つきが変わった。
変わったのは人族の神だけではない。ヴェリウスもランタンさんも、ロードも皆が何を言っているんだと私を見ている。
無理もないだろう。この世界の誰にも、異世界から転生したなんて話した事はないのだから。
「無いんですよ。この世界に“桜”なんて」
もう一度繰り返す。
「教えて下さい。それ、どこで手に入れましたか?」
目の前にいる神をしっかりと見据えて言えば、場が静まりかえった。
「……成る程、初めから分かっていたと…」
雰囲気がガラリと変わった人族の神に皆が警戒する。
「クククッ とんだ茶番だなぁ、神王」
美しかった笑顔は歪んだ笑みへと変わり、ゆっくり立ち上がると私を見下ろして言った。
「せっかく私がこちらに連れてきてやったというのに、よもや恩を仇で返されるとは思いもしなかった。もはや貴様は邪魔者以外の何者でもない」
どうやら私は人族の神によってこの世界に連れて来られたらしい。
「申し訳ないですが、私が頼んだわけでもありませんし、貴方から恩を受けた事も仇で返した記憶もありませんが?」
何だか押し付けがましい事を急に言われたので反論してみる。
後ろではロードから、人族の神にも負けない黒いオーラが漂ってきている。
「貴様が今神王として贅沢三昧に暮らしているのは、私がこの世界に連れてきてやったおかげだろう!!」
「私は神王になりたいわけでもありませんし、贅沢三昧に暮らしてもいませんが? ああ、確かに日がな一日ゴロゴロ出来るのは贅沢ですかね。ありがとうとお礼を言えばよろしいですか?」
これには人族の神も怒ったのか、神とは思えない歪んだ顔で見てくる。
この人悪魔にでもとりつかれてるんじゃなかろうか。
ちなみに人って丁寧な言葉で心のこもらないお礼を言われたら、バカにされた感が増すんだよね。
「ああ、そうだ。一つお伺いしたいのですが」
ぶちギレ寸前の神に答えてくれるかは分からないが質問してみる。
「私、死んだ記憶もないのにこの世界に転生してたんですよね。…もしかして、私を殺したのは貴方ですか?」
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