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第四章
もしかして……
しおりを挟む「竜人達がジュリアス君の神域に侵攻するといっても、結界張ってあるんだよね?」
そうジュリアス君を見れば、目をそっとそらされた。
いやいやまさかね…と思い精霊さんに目を移すと困ったような顔で私を見てくる。
「結界は張っています。しかし、ジュリアス様は神域から神の力が漏れないように張っているだけで…その、どんな人間であろうと神域内に入ってくる事は可能なのです。あっ勿論神殿にはきちんとした結界は張っていますが」
精霊さんの微妙なフォローだが、それにしても何故神域に不可侵の結界を張っていなかったのだとヴェリウスが問うと、ジュリアス君曰く…神聖な場所という認識や、神への畏れの為か人間が神域に入ってくる事はほぼ無く、神力の節約も兼ねて複雑な結界を張らなかったのだとか。
魔素が満ちてから神力の節約もしなくて良いのではないかと思ったが、最近は色々忙しくそんな事は頭の片隅にもなかったらしい。
『馬鹿者が…聞いて呆れる。それでも創生神の一柱を担う神なのか』
ヴェリウスは信じられないと言わんばかりの態度でジュリアス君を叱る。
情けないと嘆きながらふさふさの尻尾を床にバシンバシンぶつけているのだ。
「まぁまぁ。結界ならすぐに強化出来るだろうし、神域内に入れないと分かれば竜人達も諦めるでしょう」
楽観視していると、ルーベンスさんとロードがそれに渋い顔をしていたので小首を傾げる。
「え? 結界強化出来ないの?」
何なら私がやりますよと二人を見るが、眉間にシワが寄っていて不安になってきた。
「すぐに結界を強化するにしても、神域に侵攻するという愚かで短絡的な思考しか兼ね備えていない者が諦めるとは思えないが…」
「十中八九、深淵の森をターゲットに変えて侵攻してくるだろうな」
何で深淵の森がターゲット!?
「ロヴィンゴッドウェル第3師団長の考えは十分に有り得る事だろう」
ロードの言葉にルーベンスさんまで納得している。
普段仲が悪いくせにこういう時には意見が合うのだなと感心する。
『ふむ、深淵の森は現に人間も入った事のある地。条件すら分かっておらぬ様子だ。魔神の神域に入れぬのならばと深淵の森に鞍替えしてもおかしくはない』
成る程、そういう…って、それはあまりにもお粗末すぎやしませんかね。それに、バイリン国は確か…
「そもそもバイリン国は今、神の怒りを買ったとして王族は処刑されフォルプローム国に支配されたはずでしょ? にもかかわらず神域侵攻を行おうとするのはおかしくないかな? 前の二の舞じゃない?」
「だからこそだろ。フォルプローム国は自分達の手を汚さずバイリン国の者に神域へ侵攻させる。失敗しても罰を受けるのは侵攻した竜人達だけだと思っている」
何それ…指示しているのはフォルプローム国だけど、動くのはバイリン国の人だから無茶苦茶するって?
自分の国の民を人身売買するだけじゃあきたらず、人族の国に戦争をしかけようとするわ神域を侵攻しようとするわ、フォルプロームの指導者は腐りきってるの?
ロードの話にムカムカしてきた。
『ミヤビ様、ご安心下さい。フォルプローム国には現在ショコラとマカロンを監視にあてております。神を恐れぬ痴れ者を炙り出す事にそう時間はかかりません』
ヴェリウス有能過ぎる!! 最近ショコラとマカロンに会わないと思ったら、フォルプローム国に出張していたのか…。
「神王様、オレは直ぐにでも神域の結界強化に戻らせてもらっても良いでしょうか?」
ジュリアス君が私の前に跪いてそう伺いをたててくるので頷いて応える。
今はここに居ても仕方ないし、すでに侵攻されてるとかだとシャレにならないからね。
精霊さんにもジュリアス君に付いていくよう伝えたら、深々とお辞儀をされた。
そして二人は急いで帰っていったのだ。
「……神王、さま…?」
ジュリアス君が私の事を神王様と呼ぶのはいつもの事だったので大して気にしてもいなかった為、私はルーベンスさんの小さな呟きにも、顔色の悪さにも、この時気付かなかった。
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