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第五章
さすがです。ヴェリウスさん
しおりを挟む「大司教様っどうして…」
そこに居たのは、聖女とされ教会に監禁されていたベルーナお嬢様とルーベンスさんだった。
「大司教様は聖女として教会に閉じ込められていた私に、唯一優しくして下さっていたのに…っ」
ロードの出した黒いもや(瘴気)に捕らわれ、それのおかげで肌も斑に変色しているおじいちゃんと、強面ムキムキマッチョの褐色な男プラスその腕に抱えられた女。
端から見ると悪役は私達の方だが、ルーベンスさんから説明されていたのか、お嬢様は信じられないといった風に大司教にどうしてだと泣きながら叫んでいる。
「ルーベンスよ、何故ここにお嬢様を連れてきたんじゃ」
近付いてきたルーベンスさんに問えば、「ミヤビ殿…言葉遣いが…」と一瞬目を丸くしたが、さすが宰相。すぐに無表情になり、ヴェリウスに頼まれたのだと教えてくれた。
「ヴェリウスが…?」
空を見上げれば、こちらを見ていたヴェリウスと目が合った。
成る程、怒りに任せて襲撃しに来たように見えたが、実際は人間が二度と間違いを起こさないよう牽制していたのか。
宰相であるルーベンスさんと聖女であるお嬢様に、大司教を捕らえさせる事でルマンド王国は神には敵対しないとアピール出来る上、教会を解体する理由も与えられる。さらにお嬢様は教会が解体し聖女でなくなったとしても、元凶を捕らえた事で家に戻っても称えられはしても追い出される事はなくなるだろう。
さすがヴェリウスだ!!
「…お前に優しくしたのは私に依存させる為だ。聖女であるお前には利用価値があったからな」
「そんな…」
はらはらと涙をこぼすお嬢様を、何の感情もなく見る大司教はふいにこちらを見て歪に笑ったのだ。
「お前達は私を悪だと追い詰めるが、神王こそが悪だとは思わないのか」
「どういう事じゃ」
「神王はこの世界を創り、見捨てて居なくなってしまった。人々は神々と神王に祈りを捧げ、助けを求めたが結局は苦しんで死んでいった。
それは何百年と続き、もうすぐ世界は終わると思われた間際に魔素が満ちた。誰もがもう楽になりたいと思っていた時にだ」
「何を…」
「当時の人々にとって、“死とは救い”だった。
しかし神王は見捨てたはずの世界へと、身勝手にも戻ってきて、身勝手にも魔素を満ちさせた」
つがいも、家族も、子供すら喪って、まだ生きろというのか。それならば何故もっと早く手を差し伸べてくれなかったのだ。
夢で聞いた、苦しむ声や救いを求める声がまた聞こえた気がした。
「神王こそが悪である」
そう言い放ち、歪んだ笑みを浮かべた大司教に背筋が冷たくなった。
「…私は魔素の枯渇が原因で、妻も子供も国すら喪ったがね」
突如、ルーベンスさんが私の前に一歩出て口を開いた。
「神王様を恨んだ事は一度もない」
はっきりと、大司教に向かって言い放ったルーベンスさんに驚いた。
「私も、祖父母や友人を喪い、食べ物にも困るような有り様でしたが、神王様をお恨みした事はありません」
どうしてお恨みしなければならないのかもわかりません。とルーベンスさんの後に続けるお嬢様。
「俺ぁアンタを恨んだ事はあるけどな」
と今度はロードが大司教に向かって言うのだ。その肌の色は、いつもの小麦色に戻っていて、瞳も先程より穏やかになっている。
「もちろん神王に恨み言を言った事はあるぜ? でもよ、それで憎んだり恨んだりなんてしねぇよ」
恨み言を言ったりはしたんだね…。
「今じゃ何より大切なつがいだしな」
頬擦りされ、髭の伸びてきた部分でジャリジャリ肌を削られる。
「そやつらの言うとおりだ。この世界を創って下さった神王様に感謝こそすれ、何故恨まねばならない。
世界を創って魔素で覆い、御隠れになったのは何万年も前の話。それは魔素も尽きるというものだろう。
何が悪なものか。
神々だとて何もしなかったのではない事位子供でも知っている」
突然凛とした声が響き振り向けば、そこにはピンクの髪を靡かせたルマンド王国の国王の姿があった。
しかもその後ろには王都の人々の姿が見える。
「王様の言うように、魔素は枯渇するまでに何万年もかかってんだぜ」
「恨むなら、今の時代に生まれた事を恨むさ!」
「そうだぜ!! それに、また魔素は満ちたんだ。恨むよりも、楽しんで生きた方が良いじゃねぇか!!」
ざわめきと共に次々とそんな声が上がり、耳鳴りのように聞こえていた苦しむ声や救いを求める声が消えていく。
「私は、正直どうして神王様は御隠れになってしまったんだって思った時期があった…」
声の主にザワついていた人々が急に静かになる。
「自分がこんなに辛い思いをするのは、魔素が無いせいだって」
大司教はそれを聞いてニヤリと口の端を上げたのだ。
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