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10 白のぬくもり。

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「茜、こっち」

 そろそろ上映時間だから向かおうとしたら、不意に璃に引っ張り込まれた。
 どこに来たかと思えば、、アクセサリーショップ。
 デジャブ。

「指輪買わない?」

 そう言って、薬指を撫でる璃。
 恋人は右手の薬指につけるんだっけ……うん、いいね。

「うん」

 お揃いの指輪をつける。とても恋人らしい。

「こっち」
「こっちがいいよ」

 指輪選びは、ちょっと口論した。
 暁は赤い石が埋め込まれた金色の指輪を指差す。
 私は青い石が埋め込まれた金色の指輪を指差した。
 赤は私の好きな色。ルビー。
 青は暁の好きな色で瞳の色。サファイア。

「車を赤にしたんだから、青にしようよ」
「車は関係ないだろ、赤がいいよ」
「だーめ! 絶対、青!」
「絶対、赤だよ!」
「やだよ! 赤なんて目立つじゃない」

 かなり赤は目につく。
 車だってすごいもの……うん。
 青の方が、彼にぴったりだし。

「君に似合うよ」
「青の方が貴方に合う」
「赤」
「青」
「赤!」
「青!」
「あの、お客様……両方一つずつ買ったらどうでしょうか」

 店員さんがシビレを切らしたのか、口を開く。
 いつの間にか、他の客の視線を集めていた。

「あ、そうだね……好きな方をつけようよ」
「え、んー……そうだね」

 同じ色のがよかったみたいだけど、私が折れないと理解しているから、暁は購入した。
 それから、映画を観て、そのあと夕食をフードコートですませる。

「あのさ、カリナさんだけど」
「ん?」
「どこの病院に勤務してるの?」
「さぁ?」

 あれ……なんで曖昧。
 璃は、私の口にポテトフライを入れる。
 ……気になるな。

「カレシとかいないの?」
「特定のカレシはいないと思う。そういう人だから」

 モグモグと頬杖をついて飲み込む。
 相当モテるだろうな……あの人。
 スタイル抜群で小顔美人。明るくて楽しい人だから。

「すごい人だよね」
「……さっきからカリナの話ばかりだね」

 つまらないような顔の璃は、ぶっきらぼうに言った。

「どうして? 妬いちゃってるの?」
「そうだよ、俺以外の吸血鬼の話はしてほしくない……」

 笑って言ったのに、図星で膨れっ面をする。

「もう他の奴らに会わないで」

 奴らってのは、吸血鬼。
 出来るなら、会いたくないよ。
 ノラで怖い思いさせられたもん。

「他の奴らに君が心を奪われたら俺……」
「そっち!?」

 璃は危険な目に遭うより、私が他の吸血鬼に惚れることが嫌らしい。

「もう……璃以外好きにならないよ、ね?」

 下から彼を見上げて、笑って手をぺちぺちと叩く。

「信じて」

 百年の恋と呼べる。
 もう他に好きな人は作らない、そう誓うこともできる。
 生涯たった一人の愛する人。
 なんて、口にはできないけど。

「……うん」

 璃は嬉しそうに微笑んで頷いてくれる。
 しばらく手は繋いだままだった。
 そのあとは家に帰って服を取りに行きたいと言えば、服を買おうと強制的に買われる。
 そして、璃の家に帰宅。

   ガチャッ。

「あらおかえりー!」

 鍵で開けようとすれば、先に開いて中からカリナさんが出てきた。
 私も璃も、目を丸める。

「ベッドはちゃんと運んでもらったから、ちょっといってくるわね!」

 カリナさんは明るく言い退けて、階段を駆け降りて行ってしまった。
 あれ? カリナさん……どうやって入ったんだろう……?
 ていうか、今……ベッドって言った?
 私と璃は、顔を合わせた。すぐに中に入る。
 靴を乱暴に脱ぎ捨てて、早足で廊下を通った。
 リビングは変わっていない。
 寝室を見たら。

「「わっ……」」

 ダブルサイズのベッドが、どっかりそこにあった。
 嘘……本当に買っちゃったの?
 私は璃を見上げた。

「……早くない? 届くの」
「……実は前々から頼んでたんだ……俺が」
「え!?」
「君がソファに寝た時だよ、必要かなって……」

 怒らないで? と私の肩を撫でる璃。
 カリナさんがケータイをいじってたのは、暁が隠れてメッセージを送って知らせてたからか。

「もう……仕方ない人ね」

 仕方ないから私は笑った。そうすれば、璃も笑い出す。

「乗ってもいい?」
「もちろん」

 ニコリと笑う彼に、承諾を得てからベッドに飛び込んだ。
 座り込んだベッドの感触は、とても柔らかい。

「気に入ってくれた?」

 弾んで楽しんでいれば、隣に暁が腰掛けて尋ねる。

「もちろん」

 私は笑い返した。
 微笑み合って、ふと気付く。
 初めて、璃とベッドの上にいる。
 妙な緊張が走った。
 バカ落ち着きなさい、自分。璃はその気ないんだから……。

「……」

 私の様子に気付いたのか、璃も笑みをなくして私を見つめる。
 じっと見つめて、お互い目が放せなくなった。
 ドクドクと心臓が跳ねる。
 彼の冷たい手が、私の左頬に触れた。ゆっくりと私の唇に、彼の唇が重なる。
 優しくて、うっとりする口付け。
 何度も、ゆっくりとされる。
 唇を味わうかのようにする口付けに合わせて唇を開けば、スルリとなぞるように舌が滑り込んだ。

「あっ」

 思わず声をもらせば、璃が反応したのか微かに震えて、熱い吐息を溢した。

「あ……ふっ」
「ハァ…」

 冷たい指先が、髪の間に入り滑り込む。金色の瞳と目が合ったあと、少しだけ強引な深いキスになった。
 ちょっと……限界……。
 どうにかなっちゃいそう。

「んっ、ふぁ」
「っ」
「あっ」

 力が抜けて自分を支えられなくなって、彼にしがみつく。
 そうしたら、璃が私の方に身体を寄せて押し倒してきた。
 背中は、ベッドの感触。まだ新しいシーツの匂い。
 荒い呼吸は、私と璃のもの。
 細めた金色の瞳で、璃は私を見下ろす。呼吸が止まりそう。
 これ以上はダメだってわかってるのにーーーー拒めない。
 拒みたくない。

「……」

 見つめ合ってから、唇が重なる。
 荒い口付け。何度も角度を変えて、深い口付けにまた呼吸が乱れた。
 くしゃりと私の髪を握り締める璃。

「ふっ、んぁ」

 私はビクリと震えて、彼の服を握り締める。舌が絡み、吸いつかれて震えてしまった。

「あっ、き…」
「ハァ……茜っ」

 膝を撫でられ、腰を浮かせてしまった。恥ずかしいけど、彼を見たらそれも考えられなくなる。
 酸素がまともにいっていない頭で、もう何も考えられない。
 璃のキスは、激しくなる一方。身体が次第に密着してきた。
 嗚呼、もう止まることは出来ない。
 そう思った矢先。

   ガチャンッ。

 玄関の扉が開く音がして、キスはピタリと止まった。
 次の瞬間、私も璃もバッと離れて起き上がる。

「アイスいるー? ベッドどう? 心地いい…………あら、お邪魔だったかしら?」

 ビニール袋を持ったカリナさんが目の前に立つ。
 私も璃も呼吸が乱れてて挙動不審になってるから、カリナさんはすぐさま気付いて、にやついた。

「どれがいい?」

 カリナさんは私にアイスを選ばせた。軽く会釈をして取る。

「夜は泊まるから。じゃっ、続きをどーぞ」

 璃にもアイスを渡して、軽やかにまた行ってしまった。
 暁は文句を言いたげだったが、さっきの今だから口を閉じる。
 しん、と気まずい空気に、私も璃も黙ったまま。
 両手のアイスが冷たい。
 だけど顔がどうしようもなく熱い。とりあえず冷えた手で冷やす。
 璃をチラッと見ると、彼も恥ずかしそうに俯いていた。
 今のは、まずかったわよね……。
 歯止めが効かなくて、いくとこまでいくとこだった……。
 璃が止まらなかったら、私には止められない。

「あの……これからは気を付けるよ……。欲情してごめん」

 オズオズと璃は謝った。
 恥ずかしそうに目線を落として、頬を赤らめてる。
 可愛い……。

「わ、私こそ……止められなくて……ごめんなさい……」
「ううん。変な気を起こした俺が悪いんだ……このまま、本能のまま……君に触れたかった……」

 真っ赤になりつつもチャックを上げた立て襟に隠れながら、呟いた言葉に聞き入ってしまう。

「本能のままって! 噛み付くとかっそうゆうことになるかもしれないしっ! そのっ! えっとっ! ……とにかくごめん!!」

 自分の発言に更に真っ赤になって、慌てた璃はバッと頭を下げた。
 謝らなくていいのに……。
 私も悪かったし……。

「いいよ、璃。アイスとけちゃうよ、食べよう?」

 私は笑いかけて、彼の手をぺちぺちと叩く。
 そうすれば、璃は頷いた。
 手を握りながら、二人でアイスを食べる。

「カリナさんが泊まるなら、私は帰るよ」
「それはだめ! 襲わないから今日も泊まってよ!」

 襲わないから?
 私は笑ってしまった。
 君なら襲われてもいいわ。

「あと二日眠ってくれなきゃ家に帰せないよ」
「……あと二日、ふかふかベッドに眠れるって最高」

 私はにっこり笑みを向けた。

 その夜。
 泊まりに来たカリナさんと璃は口論した。

「女のあたしをソファに寝かせる気!?」
「カリナを茜と一緒に寝かせられないよ!」

 ベッドの取り合い。
 ダブルサイズのベッドなら二人十分だけど。
 璃はカリナさんを信用出来ないらしく反対してる。

「あの、私がソファに寝るよ」
「「だめっ!!」」

 私がソファに行くことも許されなかった。
 じゃあどうすればいいんですか……。

「咬まないっつーの!」
「茜に近付かないでくれよ!」
「仲良く寝ましょうよ、皆で」

 結局、暁を挟んで三人でベッドで寝ることになった。
 寝付くまで、カリナさんは色んなことを訊く。
 出逢いとか、どうやって付き合い出したとか。
 運命の人を予知夢で見て出逢ったと知ると。
「いやーん、アキったら純情ー♪」
「もう黙ってよ! 茜を寝かせてよ!」

 からかうカリナさんを璃は怒る。
 そんな璃が、私に腕枕してくれた。
 二人の会話を聞きながら、暁の匂いを堪能しながら、私は眠りに落ちる。
 白い温もりを抱き締めて。


 
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