令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに

文字の大きさ
4 / 27
一章 家出編。

04 鬼達と出会う。

しおりを挟む



 朝陽で目が覚める。
 草原の遥か向こうの地平線から顔を出す太陽を、寝惚けて眺めて背伸びをした。寝返りをせずに水のベッドに包まれていたから、ちょっと身体が固まってしまっている。ほぐすようにストレッチをしていれば、またお腹が鳴った。
 食事をしなくては。
 でも食べられるようなものは、見当たらない。
 水を飲んでしのぎながら、食料と巡り合わないかと思いつつ歩いた。
 魔獣でもいいし、動物でもいい。
 生き物を食べ物としか思えないほど、空腹に襲われつつ、歩き続けた。
 しかし、魔獣はおろか、動物も見当たらない。鳥さえ飛んでいない気がする。
 人間はいきなり食事を抜くとまずいものらしく、目眩を覚えてきた。
 街に行き着く前に野垂れ死にしそう。

「……んぅ?」

 か細い声を出す。鼻に届くこの匂いは、肉の焼けるそれだ。
 食べ物の匂い!!
 犬のようにスンスンと鼻を鳴らしながら、匂いを追ってみれば、道を外れた草原の中。食事をしている一行と出会った。
 一行も私に気付き、食事をする手を止める。

「なんだ? ……人族が、何か用かよ?」
「あっ……」

 人族。それは人間のことを指している。
 一行には、ツノが生えていた。黒いツノはラグズフィアンマ様と比べれば小さいものだったけれど、ツノはツノだ。
 鬼族。そう呼ばれる種族だろう。魔物の分類に入る。人間にとても似ているけれど、その体躯は屈強な者ばかりだと授業で習った。前世でしっくりくるのは、オーガだろう。
 この国は寛大で、どんな種族も受け入れている。だからいても不思議ではないのだが、私は初めて会った。
 最初に話しかけてきたのは、ボリュームある髪と、上に伸びた長めの黒いツノが二つ額の上に生えた男性だ。二メートルありそうな身長と逞しい体つき。Vネックの黒シャツの上からでもわかる。目元を隠すように前髪が伸びているうねる髪はブロンドだから、王子と素朴令嬢を思い出してしまい、視線を背けてしまう。

「用がねーなら、さっさと行けよ」

 しっしっと、あしらうように手を振られた。

「あのっ」

 視線を戻せば、鬼族の一行が囲っている焚き火の上に、肉が焼かれている。漫画で見るような肉の丸焼きだ。
 ヨダレが出る思いである。

「ああん?」

 ブロンドの鬼の男性は、不機嫌そうに再び私を見た。

「どうか……食事を分けていただけないでしょうか?」
「はぁ?」

 じろじろとその彼が、私を上から下まで見る。物乞いをするような服装ではないから、疑問に思っているのだろう。

「何を代わりにくれるんだよ?」
「えっと……」

 見返りを求められて、返す言葉に困る。
 収納スペースに宝石のついたアクセサリーがあることはあるけれど、それは両親に買い与えられたものや、お兄様のプレゼントである。差し出すのは、気が引けた。かといって、金貨や銀貨のお金を持ち合わせていない。だって令嬢だもの。学園に行っていたからお金なんて持っていないし、収納スペースにもないのだ。
 俯いていれば、またお腹の虫が鳴った。
 他人に聞かれてしまったことに、酷く恥ずかしさを覚える。
 お腹を押さえて、蹲りたかったが、耐えた。

「お腹を空かせているではありませんか。分け与えましょう」

 そう言ってくれたのは、鬼族にしては小柄な男性だ。一番歳上のようで、シワがある顔で白髪の頭をしている。オールバックにしていて、ツノは小さめだ。
 柔和に微笑んでくれたから、救世主に思える。それより、イケおじって感じ。でもムキムキの筋肉質だってことは、ワイシャツとベストの上からでもわかる。

「ちっ」

 ブロンドの鬼族の男性は反対をしなかったけれど、舌打ちした。

「さぁ、こちらにお掛けになってください」
「ありがとうございます!」

 涙を流したくなったが、それもグッと堪えた。
 白髪の男性のそばに、腰を下ろす。

「チーズはお好きですか?」
「はい」
「ではたっぷりかけますね」

 こんがり焼き上げられた肉をナイフで切り取ると、お皿に置いてチーズを一切れ、上に乗せる。焼かれたばかりで熱い肉の上で、チーズはとろけ出す。チーズバーガーのような香りが、鼻に届く。

「どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます!」

 差し出されたのはフォークだけだったから、それで食べるしかない。
 ザグッと肉に刺して、お皿とともに口元に運ぶ。牛に似た肉とチーズの味が口の中に広がり、喉を通っていく。肉の脂身とチーズの濃さが、口に残っている。

「ん~! 美味しいですわ!」

 一口食べたところで、口元を隠しつつ、感想を伝えた。

「どうぞ、続けて食べてください」
「本当にありがとうございます!」

 白髪の男性だけではなく、焚き火を囲う一行にも、ペコッと頭を下げる。
 岩に腰を下ろすのは、ブロンドの男性。
 その隣に、一回り小さそうな鬼族の男性がいる。群青色のような髪色。じっと私を見据えるような眼差しも、青い。ツノは左の額の上にあり、右目は髪に隠されていた。ハイネックの服を着ている。
 また隣には、一番大柄な鬼族の男性。ツノは二つ、襟足の長い赤茶の髪を持っている。がっつりと肉の塊にかじりついていた。こちらは襟が立っているシャツ。
 そう言えば、この肉はなんの肉だろう。いや、知らない方がいいわ。

「ごちそうさまでした」

 お腹を満たしたところで、私はもう一度一礼をした。

「本当に食事を分けていただき、誠にありがとうございました。申し遅れましたが、私はリディー・ラーグ……」

 ミドルネームまで言って、止まる。
 危ない。伯爵令嬢だって、名乗りかけた。
 ライアクア伯爵家は、わりと有名なはず。鬼族が知っていても、おかしくないくらいには、有力者な貴族なのだ。
 それに私はきっと勘当の身。そして、家出中である。迂闊に、ライアクアの名を使ってはいけないだろう。
 令嬢なんて名乗って、悪い人だったら、身代金を要求するかもしれない。
 いやでも、この鬼族は食事を分けてくれた。でも、それとこれとは話が違うだろう。

「冒険者になるために旅を始めたところなんです」

 ちょっと間が空いたけれど、そう言っておく。

「手ぶらで?」

 ブロンドの鬼族が、目をすぼませた。

「……身一つで、出てきてしまいましたわ……」

 そう白状をする。
 ただならぬ事情を察してくれたようで、また白髪の鬼族が柔和に微笑む。

「そうでしたか。水でもいかがですか?」
「あ、水なら自分で出せますわ。お気遣い、どうも。水魔法は得意なんです」

 優しい鬼族だと思いながら、水を掌の中に出す。

「ほう? 無詠唱で水を出すとは……レベルは高いようですね」
「伊達に冒険者を目指してないか。面白い」

 レベル10だけれど、それも言わないでおこう。
 一般人が、それほど高められるわけがないもの。無詠唱ってだけでも、レベル9以上だとはバレるけれども。
 すると、ニヤリとブロンドの鬼族が、立ち上がった。

「勝負しろ」
「勝負、ですか?」

 一口、水を飲み込み、首を傾げる。

「オレ達は冒険者だ。レベル7のな。力量を測ってやる」
「冒険者でしたか」

 驚いて目を丸めた。冒険者とは意外だ。
 でも冒険者はどんな種族でも登録が可能だから、驚くことではないのだろう。でもレベル7は、とても強い。自慢話だけで冒険者登録した貴族達とは、違う。

「申し遅れました。鬼族のモーです」

 白髪の鬼族が一礼した。

「ルーだ」

 ブロンドの鬼族が、離れていく。

「ソー」

 群青色の髪の鬼族は、短く名乗る。

「ガー」

 赤茶の髪の鬼族も、同じく名乗った。

「短い名前なのは、鬼族の風習ですか?」
「そんなところです。ルー。本当に勝負をするのですか?」
「そうだ。お礼の代わりに勝負しろ」

 やれやれとモーさんは、肩を竦める。

「それでいいのですか?」

 私も立ち上がって、お尻をポンポンと払う。

「ああ、構わない。来いよ」

 くいっと指を招くルーさん。
 お金を稼いだら、支払おうと考えていたけれども、勝負をするだけでいいのならお安いご用だ。
 レベル7の冒険者と戦うのは、少しだけ経験不足が気になるところだが、やってみよう。
 大丈夫。私にはこのファンタジーな世界の貴族令嬢として教育を受け、魔法も学ぶ学園でトップクラスの成績を収めた功績がある。

「剣を出してもいいですか?」
「なんでも出せよ」

 許可をもらった。
 剣と魔法で手合わせすることに、何度も勝利したこともある。お兄様には、勝てたことないけれども。
 カツンと白い光の円をブーツで出して、剣を召喚した。

「それでは、お手柔らかにお願いします」

 剣を右手に握る。スカートを摘んで、一礼をした。


 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...