令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに

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一章 家出編。

17 決意と再会。

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 少年は、孤児だそうだ。
 魔法無効の特殊能力持ちだと知るなり、売られてしまい、人攫い組織に働かされたという。そんな身の上話を聞かせてもらっている間に、モーリスが呼んできた警備隊ーーこの世界で治安を守る人達ーーに捕縛してもらった。念のためにもう一度、痺れで動けなくさせておくために、ラムに雷属性の魔法をかけてもらったから、逃げた者はいない。
 少年には、情状酌量を頼んでみた。
 事情を知っても、犯罪に加担していた事実は変わらないだろう。それでも私から、頼んでみた。
 少年は、人に恵まれなかったのだ。
 真逆に、私は恵まれ過ぎた。
 伯爵家で裕福な家庭に生まれ、何不自由なく、愛情たっぷりに育てられたのだ。それだけではなく、勇者レベルと判定されるほどの実力まで育ててくれた。婚約破棄されてしまったけれど、未来の王妃としての教育も惜しまずにいてくれたのだ。
 本当に愛情をたくさん注がれて育ててくれた。
 そんな家族に、ちゃんと連絡をしなくてはいけない。
 そう思った。少なからず、心配してくれているはず。
 このまま行方を眩ますのは、よくないだろう。 
 向き合って、しっかり謝罪をしないと。怒られても、罵倒されても、謝りにいかなくちゃ。
 主としても、逃げ回っているなんて知られたら怒られそうだ。
 帰ろう。家に、帰る。
 恥ずかしくても、ルーシ達に家出の理由を打ち明けよう。
 あとはルーシ達の意思次第。主従関係を解消するなり、一時的に別行動するなり、一緒に王都の家まで来てもらうのもいい。一人より心強いと思う。

「あの……ありがとっ……」

 連行される時に少年が振り返って、私にお礼を言った。
 手当てのお礼かしら。それとも情状酌量を頼んだことかしら。
 どちらにせよ、大したことではないから、ただ笑みで見送る。
 これから彼に幸運が巡ってきますように、と祈りながら。

「モーリス」
「なんでしょう? リディー様」
「家に帰りたいって言ったら、ついてきてくれる?」

 なんとなく、モーリスの意見から尋ねてみた。
 顔を向ければ、モーリスは微笑んだ。

「ええ、どこまでも。リディー様が望むのならば、ついていきます。ルーシ達もそう思っているでしょう」
「……ありがとう」

 期待以上の言葉をもらった。
 宿に戻ったら、皆を集めて打ち明けよう。
 ……何か忘れてる?
 そうだった! 私はギルドに向かうのだった!

「まずはギルドに行きましょう!」

 早足で、ギルドに行った。今度は攫われてしまわないように、ラムは人型になって私と手を繋いだ。
 ちょうど十二時を告げる鐘が鳴り響いた時に、ギルド会館に足を踏み入れた。

「あっ! 冒険者リディー様!」

 気弱な印象の男性が、私を呼んだ。

「今、ギルドマスターがお客様と応接室で待っています。どうぞ、上がってください」

 そう言ってくれたから、私はラムとモーリスを引き連れて、二階の応接室に向かう。コンコン、とノックをして、中から返事をもらってから、入らせてもらった。

「お待たせしてしまいましたか? 申し訳ありません」
「実は人身売買組織を捕まえてまして、それで遅れました」

 私がお辞儀していれば、モーリスが理由を話してくれる。

「依頼者もつい先程来たばかりです。また活躍したようで、流石は勇者レベルですね」

 ギルドマスターのジャックさんに褒められた。
 その向かいに座っていた依頼者こと私を待っていた人物が立ち上がる。
 私は目を疑った。
 サラサラしたブロンドとブルーアイを持つ美しい少年。
 スチュアート王子だ。

「リディーっ、嬢!?」

 彼も自分の目を疑うように、目元を擦っては私を見た。

「……スチュアート、さま……」

 何故この人が、ここにいるのだろうか。
 私は恐る恐るとその名を呼んだ。

「何故、あなたが……?」

 スチュアート様が問う。
 いえいえ、私が訊きたいのですが。

「お知り合いでしたか? こちらが勇者レベルの冒険者です」

 間に立つジャックさんは、私達を交互に見たあと、とりあえずのように私を紹介した。
 つまりは、間違いなく、勇者レベルの冒険者を求めてきた依頼者とは、スチュアート様のこと。

「ゆっ、ゆっ、勇者レベルのっ、冒険者が……リディー嬢!?」

 わなわなと震えるスチュアート様。
 顔が真っ青になっているのだけれど。

「ええ、勇者レベルと言われるレベル9の冒険者と判定されましたわ」

 肯定のために頷く。
 そうすれば、フラッと後ろに向かって倒れそうになった。
 慌てたけれど、踏み留まり、スチュアート様は立て直す。
 でも、どんどんと、顔色が悪くなっている気がする。
 やがて、ガクリと膝から崩れ落ちた。

「……終わったっ……!」

 絶望したように嘆く。

「えっと……どうなさったのですか?」
「……聞いて、いないのかい?」

 一体、何を……?
 わからず、首を傾げると、スチュアート様は目に涙を浮かべた。

「り、リディー嬢!!」

 手を伸ばして、私の手を取ろうとしたけれど、モーリスが阻んだ。

「申し訳ありませんが……断りもなく、手を触れることはおやめください」

 ゴゴゴ、という効果音がぴったりなほど、威圧的な背中に感じた。
 どうしたの? モーリス……なんだか、怖いわ。

「えっと、それは、すみません……」

 涙も引っ込んだ様子のスチュアート様は、謝罪を口にする。

「リディー嬢! 虫のいい話だということはわかっている……重々承知しているが……どうか! 私を助けていただけないでしょうか!?」

 背の高いモーリスの横からスチュアート様を見るために顔を出せば、そう頼まれた。
 一瞬、勇者レベルの冒険者を頼るほどの事件が王都で起きてしまったのか。そう心配したのだけれど、スチュアート様は自分自身を助けてほしいと言った。
 婚約破棄を言い渡した相手に、助けを求める。

「……本当に、虫のいい話ですわね」
「っ!」

 思ったよりも、冷たい声を出してしまった。
 ビクッと、スチュアート様が肩を跳ねる。

「いいでしょう、とりあえず話を聞きますわ」

 私はスチュアート様の話を聞くことを承諾した。

「ジャックさん、この部屋を少しの間、借りてもいいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」

 快く許可してくれたジャックさんが先に部屋をあとにする。

「モーリス、ラム、悪いけど外で待ってくれないかしら?」
「リディー様……わかりました」
「はーい……」

 モーリスもラムもスチュアート様を怪訝な表情で見たけれど、私に従ってくれた。
 家に帰ろうと決心がついた途端に、元婚約者の登場か。
 私の家出の元凶と向き合うことになるとは。
 さて。
 そんなスチュアート様は、何から助けを求めているのかしら。
 向かい合って座ってから、話を聞いた。
 その内容に、私は驚いてしまう。
 要約すると、私の家族が婚約破棄のことを激怒し、そして陛下達はスチュアート様を見限り、怒りを全て受けろと命じた。

「つまり、私の家族から、助けてほしいと?」
「そう、です……」

 基本的に私に敬語を使ってこなかったスチュアート様が、力なく頷く。

「……それは、虫がよすぎるにもほどがあります」
「うっ……はい、わかっています」
「自業自得です」
「うぐっ……」
「自分の決断に、責任を持ってください。私との婚約を破棄した結果が、それなのですよ。自業自得ですわ」
「二回も言わないでください……」
「他にも言葉がありますが、自業自得だけで済ませているのです。まさか、先のことを何も考えずに私に婚約破棄を言い渡したのですか?」

 返事がなかったから、呆れて息を吐く。

「恋は盲目とは、このことですか? はぁー……」

 額を押さえて、また息を吐いた。
 私と婚約破棄し、それからは何の妨げもなく、結婚が出来る。そう思っていたのか。
 こんな人に婚約破棄を言い渡されたなんて。
 ショックを受けていた私が、バカみたい。
 いえ、バカは私ではないか。彼だ。
 言ってやりたいのは、この言葉。バカ。
 王子だというのに、認識が甘すぎる。
 こんな人の元に嫁がなくてよかった。
 私は、またもや幸運だったのかしら。

「正直、私が庇うのもおかしな話ではないでしょうか?」
「っ……」
「そもそも、それでなんで勇者レベルの冒険者を求めてきたのですか?」
「そ、それは……」

 尋ねてから、答えてもらう間もなく、理解してしまった。

「……私に、私の家族を止めさせようとしたのですか?」

 勇者レベルの冒険者を、ライアクア家に差し向けようとしたのだ。

「浅はかすぎます。本当にもう……」

 このバカ王子。
 救いようがないと思うのは、私だけでしょうか。
 スチュアート様は何も言葉がないようで、沈黙をする。
 私は、頭を抱えた。


 
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