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一章 家出編。
20 家出終了。
しおりを挟むライアクア伯爵家は、勇者一行の一人だった最強の水魔法使いアクア様の弟子が爵位をいただいた由緒のある家柄だ。
城に近い丘のそばにどーんと建っているお屋敷。それが我が家だ。
黒の柵で覆われたお屋敷を、荷馬車の中から見上げた。
前庭に入ってから、すっかり空は夜色に染まっていて、屋敷の窓から灯りが漏れている。そんな我が家は、ものものしく感じた。
緊張のあまり、心臓が喉から込み上がるような気分だ。何言っているか、正直自分でもわからないけれど、心臓を吐きそうなそんな気分。
『リディー様、大丈夫?』
「大丈夫よ」
抱き締めすぎたのか、スライムのラムが問う。
私は、気丈に振る舞った。
令嬢スマイルを保つけれど、ラム達の目の前で勘当を言い渡されたらどうしよう。かなり激昂しているみたいだから、スチュアート様と一緒に怒鳴られてしまうかもしれない。
もしも勘当されたら、スチュアート様に婚約破棄された時のように、堪え切って退場しよう。しっかり育ててもらったお礼を告げて。
勘当なんて、されたくないけれども。
悪い想像は振り払えない。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
執事のアバーを筆頭に使用人が整列してお出迎えをしてくれた。
開かれた玄関から、家族の姿を目にする。
親子だとよくわかる容姿のお父様とお兄様が、並んで立っていた。
オールバックにセットされた髪が白銀色のお父様の名前はラディアック。キリッとした眼差しが威厳を醸し出している。
前髪を下ろした髪型で水色かかった白銀色のお兄様の名前は、リディアック。年々似てきて、キリッとした目付きになっている。
自然と俯いてしまいそうになるけれど、私は背筋を伸ばして歩み寄った。
「「リディー!!!」」
二人して声を上げるものだから、ビクッと僅かに肩を震わせてしまう。
でもそれは、罵声によるものではなかった。
両腕を広げて私を抱き締めようとしてくれたのだ。
でもその前に、後ろにいたお母様に押し飛ばされてしまう二人。
「おかえりなさい! リディー!」
毛先だけカールした長い髪が水色に艶めく白銀の髪と藍色の瞳を持つお母様の名前は、リリィー。私に細身に似合わない豊満な胸を押し付けては、両腕で抱き締めてくれた。
「心配したのよ! もう!!」
「あっ、ごめん、なさい……」
そう身長が変わらなくなったお母様に、ぼうっとしてしまう私は謝罪の言葉を絞り出す。
「怪我もないようで嬉しいわ」
一度離してくれたお母様は温かな微笑みを寄越し、私の頬を両手で包み持ち上げた。
「王都の中の友人の家にいるとばかり思っていたから、最初は探さなくても大丈夫だって思っていたけれど、ラディアックとリディアックが血眼になって探し回ってもいないから、すごく心配していたのよ」
「あ、申し訳ありーー……」
「リディー!? 本当に大丈夫か!?」
「リディー!!」
横からガバッと抱き締められる。慣れた落ち着くコロンの香りと、強い締め付けを感じた。お父様とお兄様だ。
「本当におかえり!!」
「おかえり!! リディー!」
お父様とお兄様の力強い抱擁と言葉で、じわっと目に涙が浮かぶ。
「おかえりなさい、リディー」
かろうじて見えたお母様も、また言ってくれる。
温かい「おかえり」って言葉が沁みた。
「た……ただいま帰りました……」
巻き付く腕をギュッと握り締めて声を出す。
「お父様、お兄様、お母様……ご心配をおかけして、ごめんなさい」
涙はぐっと堪えて、私は笑みを溢した。
この家族の元に転生が出来て、心からそう喜んだ。
本当に、令嬢に転生してよかった。
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