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二章 冒険編。
23 旅の出発。
しおりを挟む魔法も駆使して仕上げてくれたドレスを、全て収納の魔法で収納した。
私はオフショルダーのブラウスに黒のハーフタイプのコルセットに着替える。前開きのフリルスカートと長く透けたレースでお洒落に決めた。履き慣れたロングブーツを、きっちりと履いた。
水色に艶めく白銀の髪は、お母様の手で三つ編みにしてもらう。しばしの別れを惜しむような触れ合い。
ラムにも、同じく三つ編みにしてあげると喜んでくれた。
「まるで、姉妹みたいね」
お母様は、微笑ましそうだ。
「では、いってまいります。お母様、お父様、お兄様」
用意された屋根付き荷馬車に乗り込む前に、最後の挨拶をする。
お父様とお兄様は、涙ぐんでいたけれど、笑って見送ってくれた。
「立派な勇者として、振舞いなさい。帰りを待っているわ」
お母様は、そう明るく見送ってくれる。
一先ずの目的地は、シゲルの街だ。すぐに到着するだろう。
一晩宿に泊まったら、ルーシ達の故郷である村に行く予定だ。
シゲルの街の冒険者ギルドで、私達に仕事の依頼が来ていないかを確認するつもり。
ラムは何かないかと期待している。今のところ、ラムは冒険者としての活躍していないからだ。
レベル6の仕事を引き受けて、活躍させてあげようかしら。
実家からお金は一切もらっていない。自立して旅をしたいと決めたからだ。
お金を稼ぐことは必要だから、仕事をすることも考えないといけないか。
早速、馬車に揺られつつ、私はその話をしてみた。
「そこは成り行き任せでもいいんじゃね? オレは別にいいぜ」
そう向かいに座るルーシが答える。
「一応我々の村に寄ってから、最果てで活躍するという目標があるのですから、私もそれでいいと思います」
「同じく」
「……」
隣のモーリスが物腰柔らかく言うと、さらに隣のソーイが賛同して、私の右隣のガーラドは頷く。
「やったぁ! ボク、頑張るね!」
やる気満々で拳を固めるラムは、私の左隣に座っている。
「当分、ラムはレベル8が目標な」
「うん! ルーシ達は?」
「オレ達ももちろん、今のレベルで満足するつもりはないぜ。勇者レベル、レベル9を目指す」
ラムと会話していたルーシが、こちらに目を向けた。
好戦的な眼差し。ギラギラしている。
レベルが並んだら、また決闘を申し込みそうだ。
私も日々精進しなくては……!
「じゃあ、リディー様はレベル10を目指すの?」
くるっとルーシから私に振り向くラムが問う。
レベル9の次は、誰もなったことのないレベル10。
賢者レベルと呼ばれているそれに届くだろうか。
「そうね、目指すつもりよ。でも正直難しいわ……何年もかかると思うの。きっと魔法レベル全てをレベル10にでもしない限り、なれないと思うわ」
私は真剣に顎に手を添えて、考えながら答えた。
私が勇者レベルになれたのは、十中八九、竜王のラグズフィアンマ様の加護で魔法の火属性レベルが一気に10へ上がったことが大きいだろう。
普通、反対属性の魔法同士が、レベル10になるのは無理。加護が可能にしたから、私は火属性レベルと水属性レベルがマックスのレベル10となり、他の属性もレベル5以上と頑張っていたので、勇者レベルになれたのだろう。
賢者レベルこと冒険者レベル10。
きっと、すぐに手に出来るレベルではないはずだ。
「ほげー、ボクには無理だなぁ全部レベル10なんて。リディー様なら、どのくらいかかるかな?」
「んー……私の残りの人生で足りるかしら……」
「主なら、いけるだろ。二十年ぐらいで」
ルーシが、ニヤッとして言う。
何を根拠に……。
「意外と十年足らずでレベル10に達するかもしれませんよ」
ハハハッと、モーリスが笑い声を上げた。
「リディー様のお人柄や強さで、全属性の精霊から加護をもらって、すぐに賢者レベルになるのではないでしょうか?」
真顔のソーイが口を開いて、とんでもない予想を口にする。
シーンと馬車の中が静まり返った。
「それだ、主ならあり得る」
「十分あり得ますね」
「……あり得る」
どっと笑い声が溢れる。
ラムなんて、お腹を抱えて笑っていた。
私は苦笑を洩らす。
「他の精霊に会えるかすらわからないのに、それはないと思うわ。ソーイ」
「そうですかね」
ソーイは、真顔だ。本気で思っていそうである。
そこで、馬車が急停止したものだから、ガーラドの肩に頭をぶつけてしまった。
硬い。痛いわ。
「大丈夫ですか? リディー様」
「ええ、大丈夫よ」
ガーラドが顔を覗き込むから、頭を押さえて笑って見せる。
そうすれば、御者が大声を上げた。
「魔獣だ!!」
魔獣に襲われたみたいだ。
「おやおや、王都から離れただけで、もう魔獣ですか」
「早速出番じゃね? ラム」
「ボクやる! いい? リディー様!」
ルーシ達がぞろぞろと下りていく中、ラムがぴょんっと飛び、振り返った。
ラムに出番を回してあげるとは、偉い。ルーシ。
そんなルーシに手を借りて、荷馬車を降りる。周囲を警戒しながら、確認すれば。
馬ほどの大きさの一体の魔獣が、鹿のようなツノを一頭の馬に突き刺していた。
刺さった馬は、苦しがってもがいている。
「夕食にしましょうか」
「え? どっちを?」
「馬は借りてるから食べちゃだめだろ」
言い出すモーリスに、きょとんとするラム。ルーシがツッコミを入れた。
「ガーラド、馬から引き離してあげて」
「はい」
とりあえず、馬を助けようと私は指示を出す。
ガーラドは息を荒くしている魔獣を掴むと、勢いよく引き剥がして離した。
当然、暴れ出す魔獣。鹿のツノを持っているけれど、暴れる姿は牛のよう。
ガーラドが離れると、ラムが右手を振り上げた。
「”ーー晴天の雷ーー”!」
青く晴れた空から、バチンッと雷が落ちる。
直撃を受けた魔獣は、丸焦げ。
「なんで詠唱魔法を使ったんだ? 無詠唱でもいいじゃん」
「だって、無詠唱の雷だと、食べるところなくなるよ? 真っ黒焦げになる」
ルーシと同じ疑問を抱いたけれど、すぐに解消する。なるほど。
ちゃんと考えていたのか、と感心する。
「では少し早すぎますが、夕食にしましょうか?」
モーリスが治癒魔法で馬を治してあげたあと、そう提案した。
空はまだ青空だけれど、明るいうちに食べてしまった方がいいだろう。
シゲルの街まではそう遠くないから、もう御者には引き返してもらった。
馬車道からずれて、草原で食べようと魔獣を運ぶ。
そのまま食べるわけではなく、少し調理するようだ。
ガーラドが、かまどのような塊を土属性の魔法で作る。その中にソーイが拾ってきた木の枝を放ると、ルーシの火属性の魔法で火をつけた。上の方が開いているから、天然の七輪みたい。
「何か手伝える?」
「いいえ、リディー様は座ってお待ちください」
モーリスが何やら魔獣を切り刻んでいるから、手伝おうと思ったけれど、手慣れた彼らに任せた方がいいみたいだ。
ガーラドが作ってくれた土の椅子に腰をかけて、ラム達と待っていれば、モーリスが串につけた肉を火が当たるように天然七輪の縁に刺し始めた。どうやら、内臓も串に刺したみたいだ。白いのは小腸かしら。お肉の焼ける美味しい香りが漂う。
「本当に手際がいいわね、皆。私も見習いたいわ」
「いいんだよ、出来るオレ達がやるから、主は見てるだけでいい」
それでいいのかしら。
従者達を見てみれば、何も手伝わなかった主を、特になんとも思っていない様子。
「リディー様、我々に任せてくださればいいのですよ。焼けました」
「……ありがとう」
従者達に任せる、という考えか。
モーリスから、焼き上がった肉汁が滴るお肉を受け取る。串に突き刺さったそれに、かじり付いた。
塩コショウで味付けただけだけど、だからこそ肉本来の味がよくわかる。美味しい。
ちょっと硬さを感じるけれど、牛肉とあまり変わらないわね。
「んぅ! 美味しい美味しい!」
横でラムも、上機嫌にかぶり付く。
鬼族のルーシ達は、豪快にかじり付き咀嚼している。
私より美味しそうに食べているわ。
「リディー様、こちら魔獣の小腸となります。カリカリに焼き上げたので食感を楽しめるかと」
「ありがとう」
ひと串食べ終えると、モーリスがまた渡してきた。
確かに、カリカリしていて面白い食感だ。
「こちらはタンになります、塩でさっぱり、弾力ある食感が楽しめると思いますよ」
「あ、ありがとう」
カリカリの小腸を食べ終えたら、次は魔獣の舌をぶつ切りにして焼いたものを渡された。
さっぱり塩味で、噛み応えある弾力を味わう。
「こちらはハツになります、レバーに似ていますが、臭みも少なく栄養がありますよ」
「ありがとう。でもそんなにどんどん進めなくても大丈夫よ」
「いえ、こうでもしなくては、全部食べられてしまいますよ?」
誰に、と問わなくてもわかる。
食べ盛りな鬼族と胃袋の大きさが未知数なスライム。
焼けた串はどんどん天然七輪の上から消えて、がぶりがぶりと食らいつく。
私が苦笑を洩らしていると、モーリスが肉の塊にチーズを乗せた串を差し出した。
「味を変えて、チーズもどうですか?」
「いただくわ」
初めて会った日。魔獣を初めて食べさせてもらった時のチーズの味は格別だった。
だから、すぐに食べると言ってしまう。
モーリスの手作りチーズ。とろりと溶かしたチーズを伸ばして、肉と一緒に頬張る。
相性は抜群、美味しい!
「ボクもチーズ欲しい!」
「たくさんありますから、焦らなくて大丈夫ですよ」
ラムの要求に応えてあげて、モーリスはチーズを添えてあげた。
そんな調子で馬並みに大きかった牛型魔獣を、皆でほぼ平らげたあとは、食後の運動がてらシゲルの街まで歩く。
空が夜色になった頃に、シゲルの街に到着。
宿をとって、私はベッドに身体を沈めた。
翌日は、別のドレスに着替えて、食堂で朝食をすませる。
朝の支度を終えたから、冒険者ギルドに足を運ばせた。
「おい、勇者レベルの冒険者が来たぞ!」
「美少女勇者……」
その場にいた冒険者達の注目を浴びる。
すっかり顔を覚えられたみたい。これも慣れなくていけないか。
「ギルドマスターに挨拶しましょう」
私は威風堂々とした歩みで、カウンターまで向かった。
「おはようございます、ギルドマスター」
「おはようございます、皆様」
勇ましい体格をしたギルドマスターのジャックさんは出てきて、にこやかに挨拶をする。
「念のため、私達に依頼がないかと寄ったのですが、何かありますか?」
「いえ、今はありませんね。先日の件も、もう片付いたのですか?」
「ええ、まぁ」
「流石ですね、仕事が早い」
先日の件とは、私の元婚約者の依頼だろう。片付いたと言えば、片付いた。
微妙な笑みになることは堪えて「また何かあれば、声をかけてください」と私はお辞儀をする。
勇者レベルの冒険者宛の依頼はないようだし、普通の依頼を受けよう。
壁際に張り出してある依頼書を確認しようとモーリスに先導してもらうと、すでにソーイが立って見ていた。
じっと一つの依頼書を見つめているから、私は彼の隣に移動して問う。
「何を見ているの? ソーイ」
「……この依頼を受けませんか? リディー様」
ソーイが指差した依頼書を読んでみる。
風の悪戯。と書かれている。
それは風の精霊が出没すると噂の草原の名前だった。
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