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一目惚れの出会い編
09 腹黒女子だけはダメ。
しおりを挟むそういうことで、遊園地に到着。
絶叫系マシンが中心の遊園地なので、入る前から、すでに悲鳴が中の方から聞こえてきた。
興奮で期待は最高潮。
『はしゃいでるはしゃいでる。よかった、元気になった』
『目、輝いてるなぁ。数斗が体調不良を気にしてたけど、大丈夫じゃん』
『うお~! 楽しそう! どれから乗る!?』
『はぁー。真樹もあの子も、ガキね』
生温かく見る数斗さんと新一さん。
真樹さんも、興奮でソワソワしてる。
毒づくマナさんの心の声だけは、聞き流そう。
平日でも人気な遊園地。だから、他の客は多い。
少し列に並んで、ジェットコースターに乗る。
お目当ての最新作。
最高に激しく走り、大きな一回転では声が詰まり、そして右や左に傾きながらも駆け抜ける風の中、絶叫。
きゃーっと悲鳴を上げて、高揚感を抱えたまま、次のアトラクションへ向かう。
風を突き抜けて、激しい浮遊感を味わい、揺さぶられる。
「今のもっかい乗らない!? ほら、列も少ないし!」
「あ、いいですね!」
真樹さんが声を弾ませて、提案した。
すぐに賛成。
「ごめん、わたしはパス。ちょっと酔ってきたよ~ははっ」
『はしゃぎすぎでしょ、子どもっぽすぎ。とっくに成人したんだから、落ち着きなさいよ。ちょっと休憩を挟むべきでしょ。こんな揺れるだけのアトラクションの何がいいの』
申し訳なさそうに手を合わせて笑うマナさん。
心の中では、はしゃぎすぎている私と真樹さんに怒っている。
ジェットコースターは、得意ではないようだ。心底呆れている心の声。
いや、何しに来たの。
他四名が絶叫系マシンが好きだって知らなかったの? ここの遊園地は、ほぼ絶叫系マシンなのに……。
『あー、じゃあどうしよ。新一は、女の子とはあんまりいたくないだろうし、そうするとマナちゃんも気まずいだろうなー。でも、数斗は七羽ちゃんの隣にいたいだろうしぃ、マナちゃんを一人にするとかありえないしぃ……撤回する?』
お、おおう……。
真樹さんの戸惑う心の声で気付く。
連れの女の子を一人で置いていくわけにもいかないけれど、かと言って、新一さんを残しても、それほど親しくないので気まずい。
新一さんも、二人きりになりたくないだろう。
数斗さんは私についてくると予想が出来て、真樹さんが気を遣って撤回をすれば、私も諦めなくちゃいけなくなる。
『ふふーん。どうするかな』
マナさんは、動きを止めた私達の次の行動を待つ。
タチが悪い。
これで、この中の自分の優位さを、確かめようとしているんだ。
酷いな……、と拳をきつく握り締める。
『嫌がる新一に任せられないよな……でも、七羽ちゃんといたいのに……』
数斗さんも、新一さんを配慮して、迷う。
『面倒だけど、おれが残っていよう』
「三人で行ってきなよ。沢田、あのベンチで休もう」
新一さんが軽く手を振って促す。
『え!? 田中が嫌々残るの!? 嘘でしょ!?』
『……ありがと、新一』
驚いているマナさんを横目に、お礼を込めて数斗さんが、新一さんに笑みを向ける。
「じゃあ行こう」
「あ、うん」
「いってきます」
「ん」
意外そうに目をパチクリさせる真樹さんと私の背中を押して、数斗さんはもう一度アトラクションの入口へ歩き出す。
「新一が、女子と二人きりになるとか、初めて見た気がすんだけど」
「大袈裟だな」
真樹さんはかなり深刻そうに尋ねるから、数斗さんが苦笑を零した。
「新一さんは、そんなに異性が苦手なんですか?」
「まぁ、無駄に甘い顔はしないよね」
『元カノが酷かったからな……軽いトラウマで嫌なんだよ』
「理由がなければ、冷たくはしないよ。七羽ちゃんだって、ちゃんとメッセージのやり取りしてくれてるでしょ?」
『もう真樹と一緒に、七羽ちゃんを妹枠で可愛がるって言ってるからね。好かれてるよ』
くすっと、数斗さんは笑って、私の軽く頭を撫でてくる。
『数斗、スキンシップ、グイグイいくね~。おれも七羽ちゃんの頭を撫でたら、怒られるだろうなぁ~。撫でたい、可愛い~。てか、七羽ちゃんも拒否しないの、めっちゃいい兆候じゃん』
ニコニコする真樹さんは、ポケットに手を突っ込んで、手を伸ばさないようにした。
完全に、妹枠に収まってしまったそうだ。宣言されたのか……恥ずかしい。
「マナちゃんもバテてるみたいだし、なんか休憩しておく?」
「えっと……この先に、アイスとか売ってますけど、食べながら休憩しましょうか?」
真樹さんの提案に、私は遊園地内の案内地図を携帯電話で確認してから、店の場所を教えた。
もう一度、楽しいジェットコースターを味わったあと、アイスの店に行く。
私は、マンゴー味のソフトクリームを購入。
真っ先に選んだものだから「好きなの? 俺も、同じにしよう」と数斗さんに笑われる。
対抗して、マナさんも「じゃあ、わたしも!」と選んだ。
「なら、おれも!」と真樹さんまで便乗したけれど。
「おれは普通の」としれっと新一さんだけ、違うものを選んだ。
「乗れよ!」と真樹さんのツッコミで、一緒にどっと笑い声を上げた。
『はぁ~? さっきは、わたしといても、仏頂面で二言くらいしか喋んなかったくせに、今笑うの? 田中って、ほんっと嫌な奴』
毒づくマナさんが、新一さんを悪く言い出す。
……マナさんを一人にしないためにも、そばにいてくれたのに……。
愛想はよくないかもしれないけれど、冷たいわけでもないのに……。
『……口、ちっちゃい。舌、猫みたい。可愛い』
ベンチで並んで座っていると、右隣の数斗さんの視線が突き刺さった。
ペロペロとマンゴー味のソフトクリームを舐めているだけの私は、異様なプレッシャーを感じてしまう。
み、見すぎです……数斗さん。
ちなみに、ベンチにはわざと左端に座った。
必然と数斗さんが隣に来てくれるので、そうすれば、マナさんが私の隣に来れない。勝手ながら、数斗さんを壁にさせてもらう。
『数斗、ずっと見てる? あぁ~ムカつく! そんなちんちくりんの何がいいの!? ロリコン? ロリコンなの? 絶対に貧相な胸でしょ。下半身デブだけでさ。数斗が勃つわけないじゃん』
またマナさんが毒づいているなぁーと思っていれば。
たつ? 立つって、何?
と、小首を傾げてしまった。
でも、すぐになんのことかわかり、驚きのあまりで力加減を誤り、バキッとソフトクリームのコーンを握り潰してしまう。
「えっ、大丈夫? 七羽ちゃん」
「あ、あははっ、壊しちゃいましたっ!」
「わたしのハンカチ」
「いえいえ! 大丈夫ですよ! あっちのゴミに捨ててきます! 大丈夫ですから!」
マナさんのハンカチを拒んで、数斗さんがついてくるのも、完全に拒否してから、トトトッとゴミ箱に駆け寄る。
な、なんてことを言うんだっ! 数斗さんと顔を合わせられなくなるじゃないか!
大人だから、そういう心の声だって、聞いちゃうけどさぁー!
三人といる時は、その話は全くと言っていいほどなかったよ!? 健全! 男性陣より、先に女子が言うな!
言ってやりたいっ!!
だいたいっ、私は着痩せするだけで、そこそこ胸はあるし、太ももは肉付きがちょっといいだけで……!
別に! 別に、気にしませんけど!?
べったりとした無残なソフトクリームを泣く泣くゴミ箱に捨てて、鞄からウェットティッシュで拭いて、戻ろうと歩く。
はた、と気付く。
このウェットティッシュも、捨てておかないと。
クルッと、ゴミ箱に引き返す。
「何あれ、可愛い」
「七羽ちゃん、小動物みたいでホント可愛いよね!」
『ちっちゃな珍獣!』
ことあるごとに貶してくるなぁーと、マナさんの黒い声にほとほと呆れてみんなの前に戻ると、淡いオレンジ色のソフトクリームが差し出された。
顔を上げて見れば、にこりと微笑む数斗さん。
「好きなんでしょ? マンゴー味」
「あっ、え、えっと……でも」
「ん?」
『間接キスで、 意識して?』
あざといっ!
間接キスで意識することを狙ってのシェア!?
か、数斗さんっ……恥ずかしいですっ!
「も~! 数斗くん、七羽ちゃんが困ってるじゃない。わたしとシェアしよう? 七羽ちゃん」
『初心ぶって、気を引いてんじゃないわよ!』
私が固まっている間に、マナさんが割って入った。
初心な私に助け船を出したみたいに装うけど、それをまたもや貶してくる。
平気で嘘を吐くし、笑顔で心の中で貶しまくる腹黒女子。
ライバル視している私だけじゃなく、いい人達を悪く言い続ける……。
そんな人と、食べ物をシェア?
私はあなたと違うんですけど。
「大丈夫ですよ、マナさん」
にこっと笑って見せて、やんわりと差し出されたマナさんの手を押し戻す。
その手で、数斗さんが差し出してくれた手を掴んで、自分の方に引き寄せて、もう片方の手で髪を耳にかけてから、ソフトクリームの上の方をパクリとくわえた。
『『『『えっ……!!』』』』
私のその行動に、全員が絶句したようだ。
「一口でいいです。ありがとうございます、数斗さん」
はにかんでお礼を言ってから、隣に座り直す。
『えっ……かわ、かわい? え? 何今の? 可愛い?』
『ひょえぇ……! 七羽ちゃん、やる! 後ろから見てても、今のズキュンってきたんだけど!? ベタ惚れの数斗さんには、特大のときめき来たんじゃない!?』
『意外すぎる…………数斗、固まってるけど、大丈夫か?』
荒ぶる男性陣の声。
恥ずかしいけれど、俯いて、携帯電話を見るフリをする。
『可愛すぎる……えっ……間接キス……七羽ちゃんの方から、きてくれたってこと? 可愛すぎる……いや、ホント。今の動画に残したいレベルで、心臓を貫いた衝撃…………髪を耳にかけての仕草……え、何? 可愛すぎるな? 天然テクで俺、オトされた? いや、とっくに、俺は一目惚れしてるんだけども可愛い』
……やめて、数斗さん。可愛い言いすぎですって……!
数斗さんが私の顔を覗き込もうとするから、顔を背ける。
じぃーっと見てくるから、顔が火照った。
「……なんですか」
「……もう一口、どうかなって」
「大丈夫です……」
『……すごい照れてる……可愛い……ヤバい。もっとこんなやり取り出来るかな? ……俺の心臓、持つかな?』
ぷいっと顔を背ければ、バレてしまい、余計恥ずかしくなる。
『……はぁああ? なんなのよ! このあざといちんちくりん! 数斗といい雰囲気なんて……絶対に許さない!』
静かだと思えば、怒りを燃え上がらせたマナさん。
……私だって。
あなただけは、数斗さんといい雰囲気にはなってもらいたくないですよ。
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