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一目惚れの出会い編
16 天使のツブヤキは癒し。(後半)
しおりを挟む「た、ただの、日常的な、つまらないツブヤキでして!」
「なら、問題ないな」
「ああぁっ!」
新一さんは短気なようで、無情にも私のアカウント画面に飛ぶためにタップした。
「「…………」」
『は? 天使か?』『天使かな?』
「も、もうっ! やめてくださいっ!」
無言で見つめながら、新一さんと真樹さんが、変な感想を心の声で零す。
恥ずかしすぎて、赤面を両手で隠すのが精一杯だ。
「何が書いてあるの?」
『見たい。七羽ちゃんが恥ずかしがっているのは、何故だ。見たい。見えない』
私が間にいるし、車の外に立っている数斗さんは、ソワソワとしている。
「今日のこと。【最近友だちになった方々と遊園地に来ました。超楽しい。この人達といるの、ホント楽しくてしょうがない! 最高!】って、はしゃいだ感じの顔文字入り……アトラクションの写真付き」
『バリクソ天使。愚痴一切なしで、楽しいって書いてるだけ……この子、純真無垢な天使? いや、天使だ、絶対』
真樹さんが、読み上げてしまう。
「【新しい友だちは、親切で素敵なお兄さんって感じで、妹みたいに可愛がってくれて、照れるけど嬉しいなっ】って……あの裏アカのあとに見ると、浄化されるな? 天と地だな? 天国と地獄?」
『クソ可愛がる。絶対に甘やかして可愛がる』
新一さんまで読み上げては、心の中で変な決意を固めた。
「も、もうっ! ご勘弁くださぃ……!」
悲鳴のように零しては、手を伸ばす。
あっさり取り返せて、ホッとした。
「俺も見たい。アカウント名は? IDは?」
『見たい見たい見たい』
落ち着いて、数斗さん。
私は見せることを拒むように、胸に抱き締めた。
シュン、と悲しげな表情で私を見つめてくるから、うっ、と呻きたくなる。
「アカウントIDは、ローマ字でNANAとHANEとアンダースコアとcat」
「ひえ!?」
新一さんが、さらりと私のアカウントIDを口にした。新一さんも真樹さんも、自分のアプリから検索している最中で、私にフォローされたという通知がピコンと届く。
シュババッと無言で検索しては、迷いなくフォローした数斗さん。
今日のツブヤキに、いいね、を連打する。
落ち着いて! 数斗さん!
「えっ! ちょっと待って! アイコンのイラスト! 自分で描いたの!? 可愛いね!?」
「へぇ、先月変えたのか」
「翼を生やした猫……可愛い……。このイラスト、保存してい?」
『絵を描くとは、知らなかったな……保存。七羽ちゃんのイラスト用フォルダーも作ろう』
どこまで遡って、私のツブヤキを三人で見てるんですかッ!?
「大したものじゃないですよ……中学でイラストデザイン部だった名残りといいますか……息抜きにたまに、タブレットでラクガキを」
「これがラクガキなの!? あ、野良猫の写真だぁー。わぁ、癒される~。浄化される~。天国行けそ~」
真樹さん。今、私のアカウントのメディアを漁ってますね? 私のラクガキを発掘してますね?
って! 数斗さんのいいね通知が鳴り止まない!
ん?
今度は、いいねじゃなくて、シェアされたツブヤキがある……?
確認してみれば……。
【最近、仕事の帰り道が楽しいな。ついつい、ゆっくり歩いちゃう】
……数斗さんと電話して思ったことを、書き込んだツブヤキ。
頭に突き刺さる視線。顔が上げられない。
耳まで熱くなった。
「も、もぅ、そんな、見ないでくださいっ……! 今後、何もツブヤキが出来ませんッ」
「いいんだぞ。お兄ちゃん達と一緒にいて楽しかったって、正直に書いても」
「うんうん。いっぱい書いて」
「意地悪すぎますっ!」
なんて意地悪なお兄ちゃん達なんだ!
一方は、意地悪にニヤついてるし、もう一方は、生温かい目で見てくる。
パタン。
急に真横のドアが閉まったので、びく、とする。
速やかに真樹さんと新一さんが車を降りると、数斗さんが代わりに座った。
ううっ。
顔、見れない……!
一方的にフォローされるわけにはいかないので、三人のものであろうアカウントをフォロー。
ついでに、チラリと彼らのツブヤキを覗く。
真樹さんの最新のツブヤキは、ランチのチキンと新作アトラクションの写真で【遊園地で楽しんでるぜ、イエーイ♪】と書かれていた。
新一さんの方には、【惚気】の一言を添えたスクショ。
数斗さんのツブヤキだ。
私のシェアしたツブヤキの上に、書かれていたのは【可愛すぎる】の一言。
隣を見れない。呻きたくなった。
熱で魘されたみたいに、クラクラしそうだ。
「んで? どこで飲む?」
「えっ! 本当に飲みに行くのですかっ? でも、そうなると、お酒を飲まない人が……」
「いいよ。飲まないで俺が、ちゃんと送るから」
『俺のことは気にしなくて大丈夫』
数斗さんの車だし、必然的に数斗さんがお酒を我慢することになるのではないか。
それでつい、顔を見れば、優しく微笑まれた。
「それにちょうど夕食時だしね」
「あ、おれが七羽ちゃんの分、おごる。せめてのお詫び。おれがまた、悪女と引き合わせちゃったし……てか、今日の遊園地代も、おれに持たせて!?」
「そ、そこまでしなくても」
「遠慮すんな、古川。あの悪女に、いい子ぶって仲良しアピールのために、引っ付かれてたじゃん。ストレス半端ないだろ。おれ達のお詫び、受け取れ」
ひらりと片手をひと振り、新一さんは車を動かす。
「そうだった! あんなボロクソ書いといて、七羽ちゃんにくっ付いてたとか! もう人間不信になる……人間怖い……。もう地上に七羽ちゃんみたいな天使だけが居ればいいのに……」
「真樹さん。それは最早、天国では?」
「そうだ、天国に行こう」
「早まらないでください」
真樹さん。天国に行くのは早すぎます。
「天使天使って……そんなに、私はいい子ですか?」
「えっ? 逆に、悪い子だと思ってんのっ?」
「それはないとは、自負してますけども……」
『自己評価低すぎるな……説教だ』
真樹さんに答えれば、新一さんに改めて説教コースを確定された。
な、何故っ!? 説教!?
「浄化されるとか……大袈裟ですよ。あの裏アカが酷すぎただけで、私のは普通ですよ?」
『『『その普通がありのままだから、天使なんだよなぁ』』』
…………何故。解せぬ。
「俺のツブヤキを見て、比べてみなよ」
なんて、数斗さんが持ちかけた。
『『七羽ちゃんへの惚気ツブヤキを本人に見ろ、と?』』
真樹さんと新一さんの心の声を聞いて、数斗さんのツブヤキを見ることに、躊躇を覚える。
何をツブヤキましたか……数斗さん。
ハッ、とする。
「あ、あのっ……つかぬことを伺います」
「改まって……何かな?」
「ツブヤキ……誰と繋がってます?」
「ん? リアルで仲良い人達だけだよ?」
「…………そ、ソウデスカ……」
にこり、と笑みで答える数斗さん。
『クッ! もう数斗の親しい友だちに、可愛いと認識されてる子だって、知られるな』
新一さん。あなたも共犯じゃないですか……。惚気って、スクショ付きでツブヤキましたよね……。
頭を抱えたい。
「あ。古川、一応、カギかけとけよ。知らないだけで、また数斗狙いのヤバい女が繋がってるかもしれないから」
『あ! 考えてなかった!』
新一さんが、フォローを任意にして、ツブヤキを見る人を限定するためのカギをかけろと忠告。
それで無防備にも、私のツブヤキをシェアしてしまった数斗さんが焦る。
じゃあ、さっきのは、取り消してくれるのかな、とじっと見た。
『……取り消さない。守るから』
私の視線に気付いた数斗さんは、笑みで淡い希望を跳ね除けた。
「いやいや! 流石にもうないでしょ!? マナちゃん、いやっ、沢田はともかく、もう悪女はいない! はず! ……だめだ、人間怖い」
「自己防衛しとけよー。なんか絡まれたら、ソッコーでお兄ちゃん達に報告すること」
「新一が、ものすっごいお兄ちゃんになった……」
数斗さんは、自分のフォロワーを確認し始める。私に害を及ばすかもしれない相手を洗い流しているもよう。
助言に従って、私もカギかけておこうか。
「あ。これ、美咲ちゃんの悪口じゃん! これまたボロクソにッ! これもスクショして、美咲ちゃんに教えておく?」
また腹黒の裏アカを遡ってツブヤキを確認していた真樹さんが、ギョッとしては証拠残しでスクショ保存をする。
「は? 一番の親友だって言い合って、いつもベタベタしてたじゃねーか……。はぁ……喜べ、真樹。アイツは人間じゃない。――――ヘドロだ」
「「「ぷはっ!」」」
新一さんが真剣な声音で言い放つものだから、衝撃なヘドロ呼びも手伝って、三人で盛大に噴き出して、大笑いした。
新一さんも、肩を震わせて笑っているとわかる。
意外にも帰りの車の中では、みんなで、和気あいあいな雰囲気となれた。
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