心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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一目惚れの出会い編

18 大切にしてくれるお兄ちゃん。(前半)

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 パリッとした皮と、肉汁がじゅわっとするから揚げ。もぐもぐ。

「で? あの腹黒に、何言われてたんだ?」

 新一さんが、もうおかわりのハイボールを持った。
 早すぎません……?

「いや……ええっとー」
「ちゃんと吐けよ? 溜め込むの禁止」

 そう注意すると、パクッと一口でから揚げを食べてしまった。

「いえ、それが……聞き流しすぎて、覚えてないんですよね……」
「ぷっ!」
「ああ。結構、生返事で携帯電話をいじってたの、多かったね」
「マジで!? おれ、マナちゃ、じゃなくて、あの腹黒とキャンプの話とか飲み会の話とか、思い出話するの夢中で、全然気付かなかった!」
「んー……それは多分、沢田さんの遠回しの牽制、いえ、マウント、ですね」
「マウント!? つまり? あっ! 七羽ちゃんは会ったばかりだから知らないだろっていう意味!? 酷いな! おれ加担しちゃったじゃん! もう嫌だ!」

 わあっと真樹さんは嘆き、一杯飲み干すとおかわりと頼んだ。

「よく気付いたなぁー。普通に前にあった出来事をぺちゃくちゃ喋って、古川に教えてると思ってた」
「俺もだよ。外面がよすぎるにもほどがあるよね……」

 気付かなかったことを悔やむように、顔をしかめる新一さんと数斗さん。

 私は悪意に敏感だとは言ったけれど、全部心の声が聞こえただけだ。
 正直、心の声が聞こえなければ、私だって騙されていただろう。
 どんなに周囲の感情に敏感だとしても、悪意を向けられている確証なんて、露骨でなければわからない。

「それなりに自己防衛してたわけか」
「んっ! でも、私だって、ちょっと意趣返しはしようとしたんです!」
「例えば?」
「ほら、ソフトクリームを」
『『『ソフトクリーム! あれか!!』』』
「ゴホッ! きょ、拒否、しましたし?」

 私だってそれなりに頑張ったのだと言おうとしたら、とんでもないことをみんな揃って思い出してしまった。

 私が数斗さんのソフトクリームを一口かぶりついたという積極的な行動をしたこと。
 私もすっかり忘れていた、と目元を片手で押さえてしまう。声が若干裏返った。

「あ、あと! あれです! そのぉ、ランチのチキン! 私も食べたかっただけなんですけど、沢田さんが嫌がったので、推しました!」
「ん? ああ! そういえば、レストランがいいって言ってたっけ」
「それで古川が多数決を言い出したのか。やるじゃん」
「物凄く、イライラした様子で食べにくそうにしてましたねぇ……。まぁ、こんな意趣返しするなんて、性格悪いなぁって、ちょっと自己嫌悪に陥りましたが……」
「そこんとこだな。もう、敵は敵だって攻撃しろよ。敵に容赦するな」
「過激ですねぇ。でも、敵だって確かな証拠がなかったんですよ?」
「ワガママになればよかったじゃねーか。数斗に引っ付くとかさ」
「数斗さんを利用するなんて余計ダメじゃないですかぁ!」
「そこだよなぁ。もう。いい子は損するんだ。器用に生きろよ」

 これが新一さんの説教なのか。
 言い返せず、唇を尖らせる。

『可愛い。全然利用してくれていいのに……。引っ付いてもらえたら、役得しかなかったのにな』

 数斗さんが残念がりながら、サラダをむしゃむしゃ食べていた私が、サラダをおかわりしようとしたら、先に追加をお皿に盛ってくれた。

「いや、待って? おれ、そのチキン、押し付けられてよ? 食べにくいからって理由で、チョロ男チョロ男って貶していたおれにゴミ押し付けたわけ? はぁあ~! おれ……ヘドロに、汚された」
「「「ぷっ!」」」

 ぐすん、と鼻を啜る真樹さんは落ち込んでいるけれど、”ヘドロに汚された”とは、なかなかのパワーワードに噴き出して笑わずにはいられない。

「んー。古川は、いつも我慢してるのか?」
「いい子として我慢してるのか、って話ですか?」
「そうだな。我慢の限界だって言ったろ? 悪意を感じてんのに、空気悪くしたくないって周り気遣ってた。限界まで耐え続けてきたのか? ほら、おれ達の出会いのきっかけ、友だちの悪口も聞いて逃げたじゃん? そのあと、有耶無耶にした?」

 しぶしぶながら、私はコクリと頷く。
 だって、全部、心の声で知る悪意と悪口だ。
 聞き流したり、耐えたり、そうするしかない。

「いや、でも、”悪口言っただろ、謝れ”って、そんなやり取り、七羽ちゃんにはつらくない? 無理っしょ?」

 真樹さんが、新一さんに言った。
 実際、悪口は口に出されたわけではないから、そんなやり取りは出来ない。そもそも、そんな勇気はないのだ。

「でもさ。それだと、ずっと、なんでもかんでも、古川が我慢して溜まりに溜まって爆発して、ヒステリックな子って認識されるだけじゃん。損しかない。だから、もっとこう、上手くやっていける方法を身に付けるべきだろって話」
「あーね。なるほど。……具体的に何かあんの?」
「今考えようとしてる」

 説教をすると決めていたけど、新一さんはいい方法を考えてくれると言い出す。

「喧嘩とかはしたことあんの?」
「ありますよ! たいていは、ことなかれ主義ですけども、高校の時、彼女、つまり出会いのきっかけになった友だちを毎日起こすついでに一緒に登校してたんです。あの子、朝に弱いですし、時間にルーズだし、そうやって学校に連れて行ってました」
「待て。いい人すぎないか、おい。世話焼き好きなのか?」
「長女だからじゃない? 気配り上手な世話焼きさん」
『今はめっちゃ数斗に世話焼かれて、なんかいっぱい食べさせられてるけど』

 喧嘩経験エピソードを出したら、世話焼きのいい子となってしまった。

 が、ただいま、絶賛、隣の数斗さんに世話を焼かれてしまっている。

 次何飲む? とメニューを見せてくれては、おかわりを注文してくれた。そして、食べさせるために盛り皿を空けない。

「転校生だったので、世話焼きがクセになったのかもしれません。でもある日、それは当たり前に世話しすぎて変だな、と思って、迎えに行くのをやめたんです。遅れて来た彼女は怒ったんですけど、私は別に約束してないじゃん、って言い放ってそっぽを向いたんです」
「おー、意外とやる時はやるよな。古川って」
「でも、まだ付き合いがあるから、仲直りしたんでしょ?」

 おかしそうに、けらりと軽く笑う新一さんのあとに、数斗さんは小首を傾げて確認する。

「はい。でも、険悪だったのは、朝だけでして……すぐに彼女から謝られたんですよね」
「え? なんか腑に落ちない感じ? なんで?」

 眉を下げてなんとも言えない顔をすれば、真樹さんもたこ焼き一つをハフハフと食べた。

「いえ……習慣化してたのに、連絡もなしに迎えに行かなったので、私も悪くないですか? でも、私の方は謝らないまま、朝迎えに行く習慣は消えました。彼女の方が大人になって謝り、私が子どもなので、宥められたように穏便解決した感じ……」
「なんか敗北してるな……。そこはもう正当化すればいいじゃないか。なんか自分の方も何か悪いとか、思ってんじゃねーの? それ。ほら、いじめられる方も悪い、とか。そんな理解不能の例えみたいな感じのを、自分にも当てはめてないか?」
『過去に何かあったのか? さっき遮っちゃったが、家庭環境がどーのって……今、聞いてもいいのか?』
「おれとしては、普通に加害者が全部悪いだろ。なんで被害者に非があるってことで悪いだなんて言うんだって。チッ。おれの元カノが、あんの腹黒とおんなじで、おれの知らないところで嫉妬で過剰攻撃して、無実の子を追い込んだ悪い奴だったんだ。だから、あんの腹黒もおれは大嫌いだし、無実の子が被害を受けたままになるって許せなかったんだよ。そんな過去があるわけ。古川は? なんか過去、あんの?」

 新一さんは自分の過去を先に明かすと、私の過去を聞き出そうとする。
 ちょっとほろ酔い気味で、頬がほんのりと赤い。


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