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お試しの居場所編(前)
39 罪悪感を晴らす幸福の居場所。(前半)
しおりを挟む高校時代は、モテ期だったのか……。
祥子と先輩の酷い思い込みに続いて、衝撃的な事実を知ることになった。
中学までは、恋に恋していたくせに、高校では興味を小説や音楽に集中させて、周りの男子を気にもしなかった。そんな時に、モテ期か。
同級生がメイクの話で盛り上がる中、せめてもの同調のために、グロスを唇に塗っていただけで、化粧っ気がなかった私に、モテ期。
自分でも、顔立ちは悪いとは思ってはいなかったし、あの頃は背が低いことだけを気にしていた。
童顔だって、あまり気にしなかった時期。
……モテ期。
…………私にアタックしていたらしい、あのクラスメイトの男子の名前……全然思い出せない。だめだこりゃ。
「ナナハネ。お前、自分の悪い噂とか、聞いたことないか?」
「悪い噂、ですか?」
ひとしきり笑ったあと、会話が途切れたけれど、新一さんが再開させた。
「いや、普通に、お前のモテっぷりにやっかみを持ってたんだろ? あの悪友。親しい友だちだと思われてたなら、その悪友の方から紹介してくれとか仲を取り持ってくれとか、頼むこともあったんじゃないか? それを断ってたこともあり得るだろ。他校の奴とは一時期だけで、そのあとフリーになったと思われてもおかしくないのに、アプローチなしって、何か変なこと言われてたんじゃないのか?」
「…………ぃやぁ……聞いたこと、ないっす」
「めちゃくちゃ動揺してるじゃないか。思い当たるのか?」
声が素っ頓狂にひっくり返ってしまう。嫌な冷や汗が出そうだ。出てるかも。
え? そこまでする? されてた?
「それなら葵だって言ってくれるし! 他の女子の友だちだって、そこそこ仲いい子が何人もいますし! フツーですが!? 流石に高校で悪い噂は流されてません!」
『『動揺してる』』
『ちょっと不安なのかな……』
『まぁ……他の女子に避けられてないなら、心配しすぎか』
う、うん。心配しすぎである……。
「本当になんであんなのと友だち付き合いが続いてたんだ?」
『腹黒ヘドロみたいに、利益のある交友関係を築いていたってわけじゃなさそうなのに。互いに付き合い長すぎて、悪縁を切るタイミングを見失ってた?』
新一さん。腹黒ヘドロって、とんでもない呼び名ですね。
「嫌いな人には、流石に何度も遊びに誘ったり誘われたりしないでしょ? 嫌いってほどではなくても、こういうところが欠点で嫌だなって思っていても、友だちだからって受け入れて、それで付き合いを続けていたってことかと」
「七羽ちゃんが可愛すぎるってやっかみが酷いと同時に、可愛すぎる七羽ちゃんのこと好きだったんだろうね」
『七羽ちゃんに甘え切っておいて、羨ましがって激しい思い込みで、仲間内で酷いことを言ってたのか……。断ち切れてよかった』
「なるほど~。めっちゃそう思える!」
「で? あの悪友の嫌だなって欠点っていくつだ? ナナハネはどこまで寛容になって受け入れていたんだ?」
新一お兄ちゃんが手厳しいよぉ……。
私の方が譲歩して付き合ってきたみたいな言い方。……多分、若干そうだと、認めるべきかも。
「さっき、目の前で言いましたよ。あっ。ニコチン中毒者って言い忘れました」
祥子の欠点なら、全部直すべきだって言ってやった。
でも、一点。ヘビースモーカーのニコチン中毒をやめるべきだ。早死にするって、絶対。
はぁ、と肩を落とす。
携帯電話を出して、少し悩んだけれど、祥子以外に聞こえないように言い放った言葉について。
言いすぎた言葉に、罪悪感が湧くから、私はそれだけの謝罪をしようとメッセージアプリを開く。
「それだけど、毎回カラオケでタバコの煙を我慢していたの?」
『七羽ちゃんの肺が、どれほど汚されたの?』
「あー、それもマジ理解出来ない。喫煙者にはわからないのか? 非喫煙者に、タバコは有害で臭いだけってんのに、密室で吸わない友だちの前で吸うか? 自己中心的にもほどがあるだろ。ナナハネ、お前、甘やかしすぎ」
「私!? なんですか、私はあの子の母親か何かですか!?」
『『『姉じゃなくて母親に飛んだ』』』
「いや、お前……普通に母親並みに世話焼いてたって、無自覚にあるんじゃないのか。おい、コラ。ごめんって文字打ってるの見えてんぞ」
「ひえ!?」
「何絶交したばかりで謝ろうとしてんだ。復縁か? スピード復縁か?」
思わず、携帯電話を抱き締めて隠す。振り返れば、新一さんが厳しい眼差しを向けてきた。
『断ち切らせたかった悪縁を、ちゃんと向き合って断ち切ったのに……』
「どうして? 七羽ちゃん。七羽ちゃんが謝ること、あるの?」
「言いすぎたとか、そんな謝罪か? 非なんてないだろ、ナナハネ」
「七羽ちゃん、なんでも謝るの、よくないって。七羽ちゃんは悪くないってば」
”謝るなー”と三人が言ってくるけれど、これっばかりは謝りたい気持ちがあるのだ。
「皆さんの前で言ったことは謝るつもりはありません。ただ……彼女だけに言ったことが……流石に酷すぎたかなって…………気が重くて」
「七羽ちゃんを叩こうとした原因?」
「壁ドンして何か話してたね?」
「あんなに怒らせることが出来るんだな。なんて言ったんだ?」
「めちゃくちゃ訊いてきますね……。こればっかりは……言えません」
『『『?』』』
祥子が手を上げてきたくらいの話は、他人に言っていいようなことではない。
俯いて、ごめんの文字を一度ポチポチと消す。それから、アレは言いすぎた、ごめん、と打つ。
「七羽ちゃん。暗い顔してるよ。その罪悪感、吐き出すべきじゃない?」
信号待ちで車が停まったところで、数斗さんが顔を向けては手を伸ばして頭を撫でてきた。
微笑んで、罪悪感を打ち明けるように促す。
『七羽ちゃんが、言いすぎるってどんなこと? あの子よりは落ち着いた感じに口論してたけれど、悪いのはあの子だし、自業自得としか……』
『また何か自分の非を探って見付けて、大袈裟に罪悪感を抱いているんじゃないのか?』
真樹さんも新一さんも、私の方は全く悪くなくて、私の罪悪感なんて意味のないものみたいに考えている。
ムキになってしまった。
本当に私は罪悪感を覚えて言いすぎたと反省した謝るべきなんだと、わかってもらえるために。
「私の他校の男友だち! 彼が恋人を作って、会わなくなる直前ぐらいに! ……あの子が……」
『そういえば、その男友だちだって、七羽ちゃんが好きで会いに来たんじゃないの? 全然異性として見てもらえなくて、諦めて他の恋人を作ったとか……』『その男友だちも、七羽ちゃん狙いだったんじゃないかなぁ。それが目に見えて、思い込みの誤解を招いたとか』『その男友だちも、ナナハネを好きだったんだろうな……』
なんであの男友だちが私を好きだった説が、浮上するの!?
三人同時に! いつも息ぴったりですよね!?
思わず、言葉に詰まった。言いかけたものも、すんなり言えるようなものじゃない。
「何? 何かあったの?」と、車を動かす数斗さんが、優しく促す。
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