心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(後)

63 傷だらけの天使の縁結び。

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 次は、お目当てのベッド。陳列したベッドを、眺めた。

『七羽さんと並んで眠れるなら……大きい方がいい? あえて小さいなら、抱き締めて眠れる?』

 なんで私がベッドで寝る想定をして、物色しているんだろう、と私の右手を握っている数斗さんをチラッと見上げる。

「テーブルにソファー、それからベッド……家具をいっぱい買うんですね?」

 小首を傾げる春香ちゃんが不思議がるから、三人で顔を見合わせた。

「実は、俺の部屋が不法侵入されてね」
「え! 泥棒ですか!?」
「ううん。職場の同僚が、俺の鍵を盗んで、入り込んだんだよ。なんだっけ? 妄想型ストーカー?」

 苦笑を零して、数斗さんの方から答えてくれる。
 それから、なんちゃって犯罪プロファイルした私に、冗談で笑いかけた。

「数斗さんが望んでるって思い込んで、寝室のベッドの上で待ち構えてたの。気持ち悪いでしょ? だから、家具はなるべく総替えするんだって」
「え、ええぇっ……! そ、そうなんですね……大変でしたね」

 数斗さんに私も苦笑いで頷いて見せてから、春香ちゃんに答える。
 顔色をやや悪くする春香ちゃん。

「しかも、遭遇したのは七羽ちゃん」
「ええっ!?」
「さっきのもあるし……修羅場に遭いすぎな七羽ちゃんは、やっぱりお祓いを受けた方がいいんじゃない?」
「お祓いなら、わたしの家の近くに、いい神社がありますよ!!」

 真樹さんがげんなり顔で明かすと、私に気の毒げな眼差しを向けてきた。
 春香ちゃんに、お祓い場所を勧められてしまう。


「確かに、ちょっと厄年って感じますが……。ほら、幸せと不幸って平等に来るだとか言いますよね。数斗さん達や春香ちゃんに出会えたし、帳消しにする幸せで楽しいこともいっぱいですから」


 修羅場な災難に遭ってはいるけど、幸せは多く味わっている。
 そう笑って言えば。

「……そういうところが、天使なんだよなぁ」
「ホント、マジ天使、って感じですね……!」
『わたしまで含んでもらった……! 嬉しいっ!』
「そう、マジ天使」
『純真無垢……癒しの天使』

 真樹さんと春香ちゃんが、一緒になって感動した。

『七羽ちゃんっ、可愛い。俺も出会えて、最高に幸せ』
「そう言ってくれるのは、嬉しいけれど……幸せだけがいいよね」
『七羽ちゃんの今までの不幸は十分だ。これからは、もう幸せだけでいいよ』

 数斗さんは私の肩を抱き寄せて、頭の横に願いを込めて口付けをする。

「それはまぁ、そうですよね」と、同意しておいた。不幸が来ることを、願う人はいないだろう。

「ベッドって、収納必要ですか? 下に引き出しとか」
「んー。要らないかな。クローゼットや棚があれば、それで十分だし」

 下の引き出しがあるタイプは必要ないとのことで、黒のヘッドベッドに小物が置けるデザインの物を選ぶ。
「広い方がいい」と、大人二人が余裕で横たわれる大きさのベッドに確定。

「家具店は、もういいの?」
「他の家具店で、食器棚とか、ダイニングテーブルとか、もう注文したから、明日届くんだ」

 数斗さんは、もう明日からあのセレブ感溢れる新居に入れる。もう家具や電気製品を並べつつ、まとめておいた荷物を運び込むことを始めるそうだ。
 私も半日シフトを終えたら、荷解きを手伝うために行く予定。

「そっかー……」
『家具店はもう見回ったし、春香ちゃんも落ち着いたみたいだし……これから電車まで送るのかな。ううっ。全然、仲良くなってないのにぃ』

 真樹さんが、内心で焦っている。春香ちゃんともっと時間をかけて、親しくなって連絡先を得たいらしい。

「次は、雑貨店に行きません? 春香ちゃんも、どうかな? あっち、可愛い物いっぱいありそう。よかったら、買い物でも。いいですか?」

 家具店の向かい側にある雑貨店を指差してから、三人の顔を窺って尋ねた。

 春香ちゃんも行きたいようで、数斗さんと真樹さんの顔色を窺う。
 真樹さんも期待で、数斗さんの答えを待つ。

『んー。あっ。もしや……七羽ちゃんが、すんなり気に入る物を言うのでは?』

 少しだけ悩んだ数斗さんは、春香ちゃんと話している間に、好みの物を口にすることを期待。

「いいんじゃないかな」と、快く承諾。

 真樹さんも、喜んで頷いて見せた。

「お願いします!」と、笑みを零して、春香ちゃんもついてくる。


 そういうことで、広々した雑貨店に入った。
 春香ちゃんと並んで、好みの物を教え合って、商品を手にする。
 それを見て、真樹さんと数斗さんは同意しつつ、欲しいと判断したものは買い物かごへ入れていく。

 春香ちゃんはきゃぴきゃぴと、すっかりリラックスして楽しんでいる。
 真樹さんはそれを可愛いと観賞し、ひっそりと喜びを噛み締めた。
 ちょこちょこと話してはいるけれど、真樹さんにしては控えめ。石橋を叩くみたいに、慎重。

「七羽ちゃん。こっち、見て」

 数斗さんがフラッと離れていったと思えば、手招きで呼ばれた。

 春香ちゃんは、マグカップを持って吟味中。
「行ってくるね」と声をかけてから、春香ちゃんを一人にしないようにと、真樹さんに目配せして、数斗さんの元に向かう。

「このクッション、どうかな?」
「クッションですか? さっきのソファーに、付属しているじゃないですか」
「それとは、違う物もいいでしょ? これ、可愛いし。七羽ちゃんも、好きそう。当たりでしょ?」
「……はい。めちゃ可愛いです」

 数斗さんが見付けてくれたのは、黒いクッションなんだけど、猫の足の裏みたいな、ピンク色の肉球の模様がある。抱えるのにちょうど良さそうな大きさ。触り心地も、最高。
 数斗さんは、ニコッと自信満々に言い当てた。
 それから、買い物かごに入れる。もうパンパンだ。

「……七羽ちゃん。俺も構って?」
「!」

 肩を抱き寄せてきたかと思えば、頭に頬を押し付けて、数斗さんはそう囁いた。

「拗ねちゃいました?」
「そうだよ?」
「ふふっ。ごめんなさい。でも、数斗さん。ちょっとだけ、お願いします。真樹さんのために」

 すりすりと頬擦りをして、甘える数斗さんは半分冗談を言う。

「真樹? くっつけたいの?」
『それは、どうだろうか……。昨日は合コンに惨敗で傷心中だし、あの子も異性に騙されたばかりだし……』

 好ましくないタイミングだと、数斗さんは乗り気にはならないらしい
 まぁ、そう考えるのは、当然だと思う。

「真樹さんは、いい人ですし、悪いようにはしないでしょう? 真樹さんも気があって、そわそわしてますよ? 慎重になって、春香ちゃんと仲良くなりたがってます」
「……気付かなかったな。ちょっといつもより静かだとは思ったけど」
『真樹も、気を遣っているのかと思ったけど……慎重になりすぎてる? ……俺みたいに、本命童貞状態?』

 ちらり、とだけ、数斗さんは真樹さんと春香ちゃんの方へ、目をやる。

「まぁ、七羽ちゃんが連れて来るのを見た時も、天使って言ってたからね……。気になるのは、間違いないだろうけど」
「様子見をお願いします」
「七羽ちゃんがお膳立てするくらい、春香ちゃんはいい子って言うなら……まぁ、様子見だね」

 ポンポン、と頭を撫でくる数斗さん。

「でも、俺のことも考えて?」

 また私の頭に頬を押し付けると、数斗さんは甘えるようなことを言う。

「ごめんなさい。埋め合わせは、何がいいですか?」

 そう尋ねている間に、真樹さんが春香ちゃんに話しかけている最中。

「なんでもしてくれるの?」と、覗き込んだ数斗さんは甘く笑いかける。

「ええっと……内容によりますけど」
「ん~」

 身構えていれば、数斗さんは楽しげに何かを考えた。

「あのさ。よかったら、連絡先を教えてくれないかな?」
「えっ……わ、わたしの?」
「うん……だめ、かな?」

 そうこうしているうちに、真樹さんは勇気を出して、春香ちゃんの連絡先を尋ねる。

『ど、どうしよう……わたしの、連絡先なんて……い、いいのかな……』
「あー、だめなら、いいんだ……。ほら、怖い目に、遭ったばっかだし。ね?」
『だめかっ……!』
『あっ、ちがっ……! 怖いわけじゃないのにっ。誤解させちゃってるっ』

 苦々しい顔で、身を引く真樹さん。
 でも、春香ちゃんは、異性慣れしていないから、戸惑ってるだけ。

 私も同じく引き腰だったから、よくわかる。いきなりは、怖じ気づくよね。

「考えてくださいね。ちょっと、アシストしてきます」

 サッと、二人の元に向かう。

「ねぇ、春香ちゃん。連絡先交換するの、忘れちゃった。いいかな?」

 にっこりと笑顔で、携帯電話を取り出す。

「あ、は、はいっ! 喜んで!」
『七羽さんから! えっと、でも、どうしよう! 真樹さんも!』

 オロッとする春香ちゃんは、私と真樹さんを交互に見る。

『七羽ちゃんのついでに……って言うのは、ずるすぎるよね』

 真樹さんの方は、気まずげに俯いていて、すっかり落ち込んで諦め気味。
 春香ちゃんの視線も、連絡先の交換を断った直後だから、気まずいと思っているようだ。

 私は春香ちゃんと目を合わせたあと、真樹さんを視線で示す。

『えっ……! 七羽さん? 聞いてたのかなっ? う、うんっ! 誤解させたままじゃ、だめだよね!』
「あっ、あのっ! 戸田さんも!」
「! う、うんっ!」

 目配せを正しく理解した春香ちゃんも、勇気を出した。
 ぱぁあっと、真樹さんは希望を得たみたいに明るい顔に戻る。

「じゃあ、俺も。交換しておこうか」
『七羽ちゃんの友だちになったし、真樹のカノジョ候補だもんね』

 数斗さんも私の首に腕を回して、笑いかけて便乗。

「春香ちゃん。おれのことは、名前で呼んでいいよ。おれも名前で呼んじゃってるしね」
「わ、わかりましたっ…………真樹さん」
「……ん」

 ポッと頬をほんのり赤くしながら、真樹さんと春香ちゃんはやり取りした。

 ……微笑ましい。
 数斗さんと、一緒にそう思ってしまった。

 そのあとも、なんやかんやで雑貨を購入。荷物が多すぎたので、一度数斗さんの車に運んだ。

「春香ちゃんも、免許まだなんだ?」
「はい。今年には取ろうかと……。車は買う気はないんですけど、友だちと旅行とか行く時に、わたしも運転出来ればなぁ、と思って。一応」
『おれと一緒に取りに行くって、誘っていいかな? いや、それはやりすぎ!?』

 真樹さんも二の足を踏むように、私もどこまでアシストすればいいか、わからない。
 押しすぎても、春香ちゃんも逃げそうだ。

 ……私を見てるみたいだな。

「七羽さんは?」
「私は免許を取る気ないんだ。事故りそうで怖くて」
「七羽ちゃんは、俺が運転する隣に座るのが決まってるから」

 へらりと笑えば、数斗さんはそう堂々と言い退けた。

『わあー。竜ヶ崎さんって、本当に七羽さんが好きだって伝わるなぁ』と、春香ちゃんは目を丸くする。

 絶対に離れない感を、ヒシヒシと感じたもよう。

「もうランチ、食べる? キリがいいし」

 一旦、休憩をかねての食事をしようと、腕時計を確認した数斗さんが提案。

「あ、あのっ。わたしは、そろそろ……」
『帰った方がいいよね』
「何か用事あるの?」
「へ? い、いえ」
「だったら、一緒に食べよう? いっぱい飲食店あるから、よりどりみどりだよ」

 遠慮しようとする春香ちゃんを、腕に腕を絡めて確保。

「俺のカノジョが取られているから、真樹、どうにかして」
「えっ!? どうにかって何っ?」

 先を歩きながら、春香ちゃんにそばにある飲食店を携帯電話に表示させていれば、後ろを歩いてついてくる数斗さんと真樹さんが話した。

「とぼけるの? 間宮ちゃんに、気があるでしょ?」
「い、いや……否定は出来ないけど」
「……俺が七羽ちゃんに一目惚れした時を覚えてる?」
「……めっちゃグイグイ行ってたけど、春香ちゃんは騙されて男に呼び出されて怖い目に遭ったし、異性に慣れてないみたいだし……」
「七羽ちゃんも似たようなものだったでしょ。七羽ちゃんがリラックスさせたし、ランチをして仲良くなって、次に会う約束したら?」
「数斗……経験者ならわかるだろ? 多分、おれも本命童貞状態」
「ははっ、わかるけど……七羽ちゃん経由で会うとかやめて? 俺との七羽ちゃんの時間を奪わないで?」
「独占欲強すぎか! 心狭い!」

 うん。狭いですよ、数斗さん。
 確かに、私が誘う感じに会うとなると、ダブルデート状態で、数斗さんは二人でいる時間が減ってしまって、面白くないだろう。

「頼むよ。俺も、七羽ちゃんとのお試し期間の期限が迫ってるからさ」
「あっ……そ、そっか……ごめん。今日も、おれがデートに割り込んじゃったしね……マジごめん」

 ちゃんと理由があるのだと、数斗さんは苦笑いで言う。
 心が狭いと言ってしまったことも含めて、真樹さんは謝ると、肩を落とした。

「いいよ。ドラックストアとかでも、一緒に行ってくれるなら許す」
「ん? ドラックストアって?」
「七羽ちゃんの使っているシャンプーとか、色々把握したいから、聞き出して」
「直接訊こうよ!? それこそストーカーっぽいよ! だからヤンデレって新一に言われちゃうんだよ!?」

 ドラックストアでも、数斗さんが私が使っている物を知ろうと目論んでいる。

 いつの間にか、新一さんは、数斗さんをヤンデレ認定していたらしい。……庇えない。

『ピザ……美味しそう』
「あ、ピザ。美味しそう。春香ちゃんは、好き?」
「は、はい! 好きです」
「じゃあ、食べる?」

 そういうことで、ピザ中心のイタリアレストランへ。

 お喋りをしながら、ピザを堪能。
 ドリンクバーに行った真樹さんを、数斗さんに話してくると指を差して伝えれば、小さく頷いてくれたので、グラスを片手に向かった。

「真樹さん。頑張ってますか?」
「がんば……えっ!? おれバレバレ!?」

 何を言われているのか、一瞬わからなそうだったけれど、ギョッとして理解する真樹さん。

「ううっ、まぁ……七羽ちゃんだもんねっ!」
「なんか、私の察しのよさを過大評価していますよね……まぁ、いいですけど。勝手ながら、相性は悪くないかと……」

 感情に敏感故に、バレたとか思われているけれど、うん。過大評価しすぎるのは、やめてほしいな。

「う、うーん……どうかなぁ。春香ちゃんの方は……数斗みたいに穏やかで優しいタイプが好きそうじゃない? ほら見て、楽しそう……」

 ドリンクを注ぎながら、真樹さんは数斗さんと話す春香ちゃんを見た。

「ハッ! いやっ、数斗の方は、十中八九、七羽ちゃんの惚気話してるだろうからっ」
「……わかってます」

 数斗さんが私の可愛さを語り、春香ちゃんが激しく同意しているところなんだけど……。

 真樹さんも、慌てなくていいのに。

「真樹さんだって、優しい人ですし、楽しい人なんですから、安心させてくれて笑顔にしてくれる人ですよ。自信持ってください」
「……七羽ちゃん。マジ天使」
『今日は癒しをもらいに来たのに……背中を押してくれるなんて…………んん? これ、フツーに、恋のキューピッドでは? あれ? キューピッドって天使だっけ?』

 ……キューピッドは、確か、天使とは違ったはずですよ。

 胸を押さえて、感激している真樹さんに。

「春香ちゃんは、真樹さんの天使になるのでは? なんて」

 そう冗談めいて笑ってから、一足先にテーブルへ戻る。


『傷だらけの天使が、おれの天使を連れてくるとか…………え? 本当に、天使では? 七羽ちゃんに羽があるかも……あ、名前の字に入ってた』


 真樹さんの心の中が、天使でいっぱいだ。

 私は人間ですって。あと、お迎えを連想するので、天使を連れてくると言うのは、やめておきましょ。


 結局、数斗さんが望んだ通り、日用品を買いたいという口実で、ドラックストアへ。

 あれ使っている、これよさそう、それは気になる、これはオススメ。
 私と春香ちゃんを中心に、そんな話をしながら、買い込んでいけば、春香ちゃんも荷物が多くなってしまった。

 だから、もう帰るべきだという話になったので、みんなで駅のホームで電車に乗るところまで送る。

「あのっ。本当にありがとうございました。楽しかったですっ」

 ペコッと、春香ちゃんは頭を下げた。今日は、何度目だろう。

「私も楽しかったよ」
「どういたしまして」
「おれも楽しかった!」

 駅のホームで、電車待ち。そろそろ来るところ。

 真樹さんは、ずっとグルグルと次会う約束をどう取り付けようかと考え込んでいる。切り出し方、誘い方、どこで遊ぶかとか何して遊ぶかと。
 こっちまでグルグルした思考になって、私は酔いそうだ。
 真樹さん、パニクってる。

「間宮ちゃん。買い物袋、重そうだね。真樹が駅の改札口まで、持ってあげたらどうかな?」

 数斗さんが、そう提案。

「えっ」
「俺は七羽ちゃんを送らないと」

 私の肩を抱き寄せた数斗さんは、真樹さんしかいないと、微笑んでやんわりと推す。

 目を見開く真樹さんに『ほら、行って』と、小さく顎を動かして合図。

「どうかな? 春香ちゃん」

 私も、春香ちゃんの反応を窺う。
 流石に、真樹さんとくっつけようとしていると察した春香ちゃんは、ポッと頬を赤らめて動揺。

『えっ……で、でもっ……わたしっ? わたしなんかっ……!? ま、真樹さんは、優しいけどっ……わたしなんかっ』

 自信のさで、怖じ気づく。

「重いでしょ? 大丈夫。ねっ?」

 買い物袋を持つ春香ちゃんの手を、両手で包む。
 ちょっと持ち手が食い込んでいる。

「嫌なら言って。真樹さんはいい人だし……春香ちゃんは、超可愛い」

 食い込んでいる持ち手を直しながら、そっと囁く。

『そ、それって……! 七羽さんは、応援してるってこと!? わ、わたしでも、いいの……?』

 瞠目している春香ちゃんの心の声を、肯定するように手の甲を撫でた。

「持つよ。……春香ちゃんが、よければ」

 真樹さんが、春香ちゃんに手を差し出す。
 緊張気味に強張っている表情ながらも、真剣な眼差しで春香ちゃんの返答を待つ。

「…………お、お願い、します……真樹さん」

 勇気を振り絞って、持ち上げた買い物袋を持ち上げて、真樹さんへ。
 受け取って持った真樹さんも、キュッと唇を強く閉じて、口元を緩ませないように堪えた。大喜びを隠している。

 電車が来た。
 開いたので、二人はすぐに乗った。空いていた座席に、真樹さんは春香ちゃんを座らせて、吊り革を握って前に立つ。

 乗客は混んでて、ちょっと心の声も混雑している。二人の姿も、吊り革を握る人達で見えなくなった。


「――――おれの天使になってくださいっ!」


 電車のドアが閉じる前に、真樹さんの声が耳に届く。

「……聞き違いでしょうか?」
「あ~……”おれの天使になってください”って、真樹の声が、俺には聞こえたけど……七羽ちゃんは?」
「……真樹さんの声でした」

 きっと聞き違いじゃない。

 強い心の声も、響いたのだから。


 
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