【R18】死に戻り悪役令嬢は悪魔と遊ぶ

三月べに

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○3 四回目。

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 結局、四回目か。
 三回も殺されてしまったわ。はぁ。

 だいたい、何? ”裏切り者”だぁ? 出会うなり浮気始めた野郎に言われたくはないわ。
 何度死に戻っても、婚約してから積み上げた時間はそのまま。築き上げた信頼は、確かにあった。
 それを裏切ったのは、そっちだろう。それなのに。それなのにっ。


 私だけが悪いのかぁああ!!


 ボコスコ、枕を袋叩きにして鬱憤を晴らす。


 どうせあれだろ? 自分は悪くないって言うクズ思考なんでしょ!?
 自分はよくて私はだめってやつでしょ!? ふざんけんなぁああクズがぁああ!!


 ボフボフ、と枕をベッドに叩きつけまくっている間に、中身が散乱して悲惨な寝室となった。

「しかし、直接刺し殺しに来るって……よほど追い詰められたか。やりすぎ? ……もうゼノヴィスの言う通り、ヒロインを葬るべきだったな……」

 ヒロインと対話して穏便解決、も一瞬だけ考えたことはある。
 一回目の時にね。だって、原作通りの噂が広がっているのだから、転生者だと思ったのだ。
 邪魔しないからやめてとお願いしようとしたら、彼女の護衛にバッサリと切られた。
 もうそれだけで近付かない理由にもなるでしょ。絶対悪役として私を葬らずにはいられないんだよ。ヒロイン怖い。
 三回目もヒロインが唆したのかな。自分の自作自演が通用しないってことで、殺させるか……?
 案内した使用人も、衛兵も買収はしたようだけど、その後はどうするつもりだったんだろうか。

 はぁ……。失敗したな。ちゃんとゼノヴィスの言う通り、何かもっと別のイレギュラーで、原作強制終了させるべきだった。
 そうすれば、ゼノヴィスが目の前で私を殺されるという経験をせずに済んだのに。
 私を失って泣くこともなかったのに。

 不幸中の幸いは、

「……」

 羽毛が散るベッドの上でぼーとしてしまったが、風の魔法を使って、そよ風にその羽毛を集めさせた。
 枕カバーの中に詰め込んだあと、ムギュッと抱き締める。

 ゼノヴィスというイレギュラーを登場させるのは……やめよう。
 二回目の『初めまして』は、億劫だ。
 下手したら、短剣を胸を突き立てられるより、痛いかもしれないのだから。

 二回目の『初めまして』も。前回を辿るような時間を過ごすのも、また虚しいと思うから。
 これが繰り返されるとなれば……と、考えるだけでも、私はすぐに心を壊すだろう。

 ゼノヴィスが好きだから。
 それは、つらいんだ……。

 不格好な枕に顔を埋めて、深く息を吐いた。

 ……ごめんね、ゼノヴィス……――――。



 私はまた、婚約解消を願い出た。
 今回の方法は考えていないけれど、とりあえず、私の意思表明。
 アレキサンドとは結婚出来ないの一点張りで、会うことも拒絶して、部屋にこもったり、おともを連れて街と練り歩いたり。
 傷心中なのだ。好きにしてくれ。
 家族も物言いたげだけど、家にいる私の意気消沈ぶりに、言葉を詰まらせてそっとしてくれている。アレキサンドにも、時間をあげてくれと言ったらしい。毎日のように届く花や手紙は総無視している。

 じわじわと頭が痛くなってきたのは、死に戻りから目覚めて、一週間後。
 ズキズキと次第に痛みの大きくなり、重たくなる。医者に診てもらったが、ストレスからくる頭痛と診断された。
 ええー。今更? 四回目の死に戻りだし、ゼノヴィスを失ったストレスが、実はかなり強かったのかな……。
 鎮痛剤を処方してもらい、ストレス軽減になるように散策も心掛けた。

 が、しかし。三週間目にもなると、頭がガンガンする痛みに……。
 な、なんなんだ、この痛み……。こめかみを揉みながら、馬車に揺られることを堪えた。でも、少しすると、和らいだ気がした。
 ん……? なんだろう。鎮痛剤が効いたのかな。
 顔を上げて、気付く。馬車の窓から見えるのは、ゼノヴィスが封印されているいわくつきの館がある方角だった。
 その館に近付くにつれて、痛みが徐々に小さくなってきた気がする。

「……」

 呆然とその方角を見つめていたら、道に沿って近付いた時。


 ――――ディナ。

 ゼノヴィスに呼ばれた気がした。


 馬車は道に沿って、館から離れていく。そうすれば、痛みが戻ってきた。離れれば離れるほど、痛みは悪化する。
 私は馬車を降りたあと、今日の予定を大いに崩して、おともを撒いた。おともを撒くなんて、前回で磨きをかけたので、楽勝だ。あとは冒険者業で経験した移動手段で、館に到着した。
 その頃には、痛みがすっかり和らいだ。
 ただ違和感が、頭に響く感じだった。

 それは、ゼノヴィスが呼ぶ声だと思うと、なんだかしっくり来た。

 懐かしい場所だ。

 100年も前。ここはとある侯爵家の別邸だった。
 ゼノヴィスは当時の侯爵と契約関係にあって、悪いことも加担していたと話してくれた。
 結局、欲に眩んだその侯爵は、悪魔の力を手に入れようと、ゼノヴィスを監禁、つまりは封印をしたのだ。
 未来永劫、自分と侯爵家に仕えると言うなら出してやると言われたが、ゼノヴィスが答えを出すより前に、悪事は暴かれてそのまま処刑されてしまったらしい。その家は、途絶えた。
 悪魔が封印されていることは知られていたが、封印を解くような悪は許されないために、埃が積もった。

 そんな埋もれてしまった封じられた悪魔を発掘したのが、この私である。

 しかも、比較的善良なこの私に、ゼノヴィスの感謝と感動は大きかった。
 きっと封印を解くのは、悪にまみれた願いを乞う者だろうと思ったからだ。
 悪魔に願いだなんて、忌避される行為。当然の予想だろう。

 忌避されるからこそ、悪魔が封印されている事実は隠され、100年を経てせいぜい怖い噂程度になってしまったのだ。

 ゼノヴィスが封印されているのは、執務室の奥の隠し扉の部屋の中。
 さらに奥にある黒い扉。
 前回はここで、悪魔召喚の儀式をした。封印されていている悪魔は、それで出てこれるものだったからだ。
 まぁ、半信半疑だったけれどね。

 その黒に染まった扉に手を当てた。


 ――――ディナ。ディナ。
 ――――ディナ。


 ハッキリ声が聞こえるわけではないけれど、確かに頭に響く。

 掌を当てて、私は呼び返す。


「――――ゼノヴィス?」


 封印されている状態で、返事をしてくれるだろうか。
 そう思ったが、ガチャッと扉が押し開かれたので、驚いた。

 二重の黒の瞳孔と金色の瞳を潤ませて、黒い扉から出てきたゼノヴィスが。
 私を抱き締めた。

「ディナ!! ディナッ!!!」

 力いっぱいに抱き締めてくるゼノヴィスと一緒に倒れかけたけれど、なんとか私が踏み留まったから、ゼノヴィスも支えてくれる。

「ごめんっ! ディナ! ごめん!! 守れなくてごめんっ! ディナ!」

 ぐりぐりと頭をこすり付けて、ギュッと両腕で閉じ込めるように締め付けるゼノヴィス。

「ゼノヴィスっ……」

 必死な謝罪に、理解した。

「覚えているの? ゼノヴィス……」

 前回を覚えている。だから、ゼノヴィスは封印されている中で、呼び続けたんだ。
 ヨロッとゼノヴィスが私を抱き締めたまま、傾いたかと思えば、とさっとその場に座り込む。

「うん。覚えているよ、ディナ。……ディナが息を引き取る前に、魂にしがみついたんだ。そしたら、一緒に戻ってきたみたいだ。ディナも覚えているよね? 四回目だよね?」

 し、しがみついた? 魂に? よくわからないけれど、魂を取引材料に出来る悪魔が成せる業だったのだろうか。
 す、すごいな。死に戻りに乗って来るとは……。
 ポッカーンしてしまう私の頬を両手で押さえたゼノヴィスは、咎めるように私の赤い瞳を覗き込んだ。

「え? う、うん。四回目、だけど……?」
「……なんですぐにオレのところに来てくれなかったの? ずっと待ってたんだよ?」

 うっ。……それでずっと頭痛が……。
 すいっと視線を逸らすと、むぎゅっと頬を潰されてしまった。

「会わない気だった!? 酷いじゃないか! オレのせい!? 守れなかったから!?」
「ちっ、ちがっ! そ、そのっ…………知らなくて……ごめんなさい」

 切羽詰まった様子で私に問い詰めるゼノヴィスに、胸が苦しくなった。


 
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