4 / 18
○4 悪魔の熱い想い。
しおりを挟む「……」
「……」
少し沈黙すると、ゼノヴィスはそっと頬を撫でてきた。
「どうして? ディナ」
優しく尋ねるから、ポツリポツリと吐露する。
「ゼノヴィスと、またやり直すのが怖かったの……虚しいだろうから……。それが繰り返されるなら、余計……私は心をすぐに壊してしまうと思って……ごめんなさい」
「ディナ」
ポロリと涙も落ちた。
「ごめんなさい、自分のことばっかりで。ゼノヴィスは100年もここに閉じ込められたのに……私が出さなきゃもっと閉じ込められる……本当にごめん。せめて、出してあげに来ればよかったね。前回、いっぱい助けてもらったのに」
「違う。違うよ、ディナ。そうじゃない」
私の目元を拭うゼノヴィスは、首を振った。
「オレと言うイレギュラーをみすみす手放しちゃだめでしょ、また死ぬことになったかも。そしたら、オレは前回を覚えていないオレだったかもしれない。だから……ごめん、怖かった。初めは準備で遅いだけかと思ったけれど、前回オレが助けられなかったから、他の手段を選ぶのかと思って、焦って呼び続けたんだ。魂の形を覚えていたから、なんとか届いてよかった」
「……頭、痛かった」
「えっ、それはごめんっ」
頭を、なでなで。痛かったよ、ホント。何日も。
「オレは、前回と同じオレだよ。ディナが好きで、婚約解消が成立したら、ディナにちゅーしたかった悪魔だよ」
「んっ」
すりすりと頬擦りしてくるから、くすぐったい。
「ディナ……本当にこの中は酷い孤独なんだ。時間の経過もわからないくらい、真っ暗で、やることなんて魔力を練り上げて貯め込む以外、なかったんだ。あと何年、閉じ込められるかもわからない気が遠くなる恐怖。悪魔だから、気が狂うなんてそう簡単でもなかったから、余計苦痛で。だから、オレは……本当に本当に、感謝しているんだよ? ディナ」
ゼノヴィスの両腕が、ギュッと私を抱き締めてくれた。
それは今まで聞いていなかったゼノヴィスの苦しみ。
「あの暗闇から救い出してくれた君への恩は、絶対に死に戻りの運命から救うことだって決めてたのに……ごめん。あんな……あんな油断で、ごめんっ……。今回は、絶対に死なせない。もう殺させない。守る。守るよ、ディナ」
私の首元に顔を埋めて、顔ずりして、ギュッと締め付けるゼノヴィス。
「君を救うから、対価に君をちょうだい」
「ゼノヴィス……」
「君の全部をちょうだい、ディナ。君が好きなんだ。大好き。愛しているんだ」
甘く告げるゼノヴィスは、うっとり熱く見つめると、唇を重ねてきた。
だめだと頭ではわかっていたのに、身体は強張るだけで抵抗らしい抵抗もせず、唇が重なることを許す。
優しく包み込む両手は、私を放してはくれない。
「ディナの全部が欲しい。それだけなんだ……ちょうだい、ディナ」
ほう、と吐息を零して、また口付けをするゼノヴィス。
「ゼノヴィス、だめっ。わた、私……まだ、婚約が……」
「ん。やだ。またディナを殺した奴なんか、裏切っていいんだよ。悪魔が許してあげる」
「ぜ、ゼノッ」
身を引こうとする私を許さず、腰をグッと抱き寄せるゼノヴィスは、また口付けをしてきた。
真っ赤になってゼノヴィスの肩を押すけれど、びくともしない。
立ち上がりたいのに、初めてのキスにすっかり腰が抜けて、ゼノヴィスの膝から降りれなかった。
「ああ、やっとちゅー出来た……ディナの唇、柔らかい。美味しいな」
「んっ!」
ぬるっと舌がねじ込まれてしまい、私はびくりと震える。
舌が私の歯並びを確認するように口の中を撫でて、口の上もなぞるから、ゾクッとした。
フッと苦しく息を吐いても、ゼノヴィスはやけに長く感じる舌を絡めてきては、じゅるっと音を立てて私の舌を吸ってきたのだ。
「ゼノぉ……」
「んぅー、ディナ……」
深い口付けの行為中に、口の端から零れた唾液を、ゼノヴィスは唇を這わせて舐めとった。
恍惚して瞳を細めたゼノヴィスは、とろける微笑みを零す。
こてん、と私の肩に頭を乗せる形で、私を見つめた。
「ゼノっていいね。いい響き」
そう愛称と受け入れて、気に入った様子。
「もう、ゼノ……。まだ婚約関係なんだって……あっちもまだ出会ってないし」
「浮気しちゃったね。でも先にしてもいいじゃん。ディナに”裏切り者”って言って短剣を突き刺したの、意味わからないんだけど」
「私も意味わからないけど、追い込みすぎたんじゃないかな。ネズミも追い込まれれば猫を噛むでしょ」
「猫を噛むどころじゃないでしょ……」
のぼせそうな私は、一応苦言を呈した。
悪魔はなんのそのな態度。確かに噛むという反撃とは、言い難い。
「その婚約は、今どういう状態?」
「私が解消を願い出たところ。傷心しているのを見て、家族もそっとしてくれてはいるけれど、いつまで持つかはわからないな……マズかった?」
追い込んだネズミの逆襲を考えたら、婚約解消を願い出たのはマズい行動だったのかな、と不安になった。
「ううん。色々考えてはいるけど、まぁ、それは帰ってから詳しく話すよ。今日はどうやって来たの?」
「頭痛の原因がゼノヴィスが呼んでいるからだと気付いて、そのまま散策のためのおともを撒いて来た」
「撒いたんだ。……傷心してたの?」
気遣う眼差しで私の頭を撫でるゼノヴィスに、また涙が込み上がる。
それを見て、すぐにゼノヴィスは抱き締めてくれた。
私も抱き締め返す。
「ゼノ。私も油断してごめんね。覚えているなら、つらかったでしょ」
「ッ……ディナ……」
ゼノヴィスの背を撫でると、彼は軽く肩を震わせた。
「でも、一緒に過ごした時間を覚えててくれて嬉しい……」
ぐすん、と鼻を啜り合っては、抱き締め合う。
「私も好きよ、ゼノ」
「……うん」
「好き……」
「オレもだよ、ディナ。好き」
ちゅっと、頬にキスをして、まだギュッと密着。
ぐりぐりと頬擦りして、髪に顔を埋めて匂いを吸い込むゼノヴィス。
ぎゅうぎゅうと抱き締めて、すりすりするのは、ゼノヴィスの愛情表現なのかな。
私は、ポンポンと頭を撫でた。
「でも、浮気はやめよう」
「……」
「……ゼノ? お返事は?」
「……」
じっと見つめてくるのに返事をしないゼノヴィスは、やがてにっこりと笑みを作る。
それから、ちゅっとまた唇を重ねてきた。
逃げようとしたのに、しっかり両手で固定したゼノヴィスは、許してくれない。
「ん~~~~っ!」
私を想う悪魔は、なかなか放してくれなかった。
163
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる