婚約破棄された悪役令嬢は自由に生きようかと。~気分転換に冒険者になったら指導担当が最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~

三月べに

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二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。

83 決闘と新学期の始まり。




 ルクトさんの想いは、認めてもらったらしい。
 優しい笑みで抱き留めてくれたルクトさんは、嬉しさのあまりなのか、ちょっと強い力だった。

 義母様(おかあさま)と義父様(おとうさま)と呼ぶほどに、許されたらしい。

 流石、ルクトさん。見事にやり遂げてくれた。信じていたわ。

 そんなルクトさんが、サロンについて早々に切り出したのは、私の愛称についてだ。

 そう言えば、昔は”リガティ”と両親に呼ばれていたと思い出した。ごくたまに、だったけど。

 他にも愛称があるだなんて言われて、困惑した。
 あったかしら……?
 でも、思い出した。

 幼い子どもらしく、変な一人称を使っていたのは、いつからだっただろうか。

 名前から”ティー”と取って、一人称にしていた。名前が、一人称。
 黒歴史だというのに、しっかり【記録玉】に収められていた。
 しかも、ルクトさんにわざわざ見せる始末。

 顔から火が出そうだ。恥ずかしすぎる。

「じゃあ、オレは」
「嫌です! だめです!」
「むぐ、まだ、言って、むうっ」

 何を言おうが、何も言わないでほしい。
 ルクトさんの口を、両手で塞いだ。

「大丈夫よ。ティーと呼ぶのは、伴侶だけにしてあげなさい」
「お母様っ」
「何? 問題ある?」
「呼ばれる度に、恥ずかしい子ども時代を思い出します!」

 しれっとした態度で紅茶を啜るお母様に、問題があると訴える。

「可愛いのに……」とスゥヨンは余計なことを呟くし、ネテイトなんて顔を隠しているけれど、肩を震わせてるから、笑ってるってバレバレよ!?
 キッと恨めしいと睨みつけていれば、両方の手首を掴まれて、ルクトさんの口元から手を剥がされてしまった。

「わかったわかった。ちゃんと許可をもらってから、呼ぶよ。出来れば、恥ずかしい子ども時代を思い出さなくなるくらい、呼びまくって上書きしたいけど」
「っ!」
「リガティって呼んでもい?」
「……それなら……はい……いいです」

 上書きだなんて、どれだけ呼ぶつもりなんだ。
 とりあえず、無難な”リガティ”呼びを許す。

「リガティ」

 ルクトさんは嬉しげに笑って、愛称で呼んだ。
 呼び慣れていたわけではないけれど、違和感を覚えない愛称。

「はい……。ルクトさんの愛称は、ご両親と同じく、時々に呼びます」
「わかった。楽しみー」

 ルクトさんの愛称は、ルー。
 ティーと、ルーか……。やはり恥ずかしい。

「そうでした。そんなルクトさんのご両親への挨拶をしたためた手紙、送ってもらっていいでしょうか?」
「あ、うん。書くって言ってたね」
「ええ。私の両親にも認めてもらったので、手紙で申し訳ないのですが……。近いうちに、時間を作って、挨拶しに行くべきですか?」

 【収納】から取り出した手紙を手渡す前に、私は小首を傾げた。

「んー。いや、リガティが忙しいのに、それはちょっとなぁ~。どうせオレの両親は、まったり引退生活を送ってるんだし、テキトーに会いに来る時に会ってくれればいいよ」

 けらりとルクトさんは軽く笑うと、私から手紙を受け取る。
 ご両親に挨拶するなら、時間を作って自分から会いに行くべきだと思うのだけれど……。

「わたくし達と会うタイミングも計りたいわね……お二人のご都合を聞いて、会う場を設けましょうか」

 お母様も、そう言った。まぁ、この邸宅に招くことには変わりないのだろう。身分的に招いて、来てもらう側だもの。

「昼食はこちらでとるのかしら?」
「せっかくなので、こちらでとらせてもらう予定です」
「なら、みんなでいただきましょう?」
「いいんですか? ありがとうございます!」

 母の誘いもあって、一緒に食べることになった。我が家のダイニングルームへご招待だ。
 ルクトさん、すんなり我が家になじむわね。

「じゃあ、ランチの時間まで、新しい執務室を見ませんか?」
「そうだったね、リガッティー達の執務室を作るんだってね。見たいな」

 母は、一足先にサロンを出た。
 私達も、サロンを出て、新しい執務室に向かう前に、軽い案内をしようと少し廊下を歩く。
 すると、昨日から出掛けていたシンの姿がこちらにやってきた。
 彼は何故かルクトを見てギョッとした顔を見せたが、慌てたようにスンと表情を取り繕う。

「ただいま戻りました、リガッティーお嬢様」
「お帰りなさい。早かったわね。もう潜入して情報を掴んできたの?」

 ビクンと肩を張るシンは、オロッとルクトさんに視線をやる。彼に目配せをしているというより、彼から逃げたがっている気がする。
 ルクトさんも不可解そうに首を傾げた。

「シン?」と、報告を促すと、顔色がままに。

「支障のある情報は掴まれておりませんでした。……ただ、その、、とのことです」

 と、報告した。

 それにいち早く理解したのはスゥヨンらしく、ヒュッと喉を鳴らして、彼までルクトさんを気にするように強張る。
 あとから、イーレイとネテイトも気付いたらしく、心なしか、ルクトさんから距離を取った。

 シンの冷や汗をダラダラとする様子からして、ようやく私は察した。

「口説くとは……冒険者としての勧誘とかではなく?」
「……そうです。本気の様子でした」

 ルクトさんの前だから、報告を避けていた理由。
 クランのリーダーが、ルクトさんの恋敵になる気だからだ。
 メラメラと嫉妬を燃え上がらせたルクトさん。雰囲気だけでも、シン達は気圧された。

「オレ、ちょっと……クラン、一個潰してくる」
「落ち着いて、ルクトさん」

 笑顔で乗り込みに行こうとするルクトさんを止められるのは、多分私だけ。

「なんで!? リガティが優しくするから! 施しなんてあげるから!」
「そんな、解毒薬を親切であげただけなのに……新人さんのためでしたし」
「止めるな、潰してくる!」
「落ち着きましょうって。現実的に、対策を立てましょう。今後付きまとわれて、支障をきたす情報を得られないように」
「対策ならあるよ……。決闘で、リガティ接近禁止を突きつけてやる! オレはご両親公認の恋人! 正当な権利がある!!」

 武力行使なルクトさんの腕をギュッと抱き締めて引き留める。

「私の家族と食事することより大事なんですか!?」
「っ!? っ……! そ、それはっ……! リガティと家族と食事することが大事!!」

 動転したルクトさんは、恋敵を潰すことと天秤にかけて、すぐに頬を赤らめて私達との食事を大事だと言ってくれた。
 母にも直接誘われたのだし、すっぽかしてもらっては困る。
 黙って見守っていただけなのに、シン達がどっと疲れたように胸を撫で下した。

「じゃあ、シンに詳細を報告してもらうためにも、執務室に行きましょう」
「では、自分達は神殿へ調べものしてきます。昼食の時間には戻りますので、また」
「あ、わかった。またね、ネテイトくん」
「はい。……そ、その、またあとで。義兄上(あにうえ)」
「……!」

 緊張した様子で、照れくさそうにルクトさんを義理の兄と呼んだネテイトは、ルクトさんの反応を待たずに、肩を震わせたスゥヨンを連れて行ってしまう。
 ぱぁー、と目を輝かせるルクトさんが離れるネテイトの背中を指差して、口をパクパクさせた。

「可愛い義弟でしょう?」
「うん!」

 我がツンデレ義弟、可愛い。義理の兄になるルクトさんも、虜だろう。
 すっかり毒気が抜けた様子だけど、これからシンの報告を聞いて、また嫉妬を再熱させるのかもしれない。

 私達の書類仕事場兼会議室となる執務室。
 元々、適当な休憩室の一つだったそこは、机を運び入れたところ。あとの家具は、私達が明日登校している間に、注文したものを運び入れると、イーレイはキビキビと説明してくれた。

 今後の活動のために用意してくれた資料の山に、ルクトさんが手を伸ばす前に、シンの報告を聞いてもらうことにする。

 シンも、ルクトさんを刺激したくなくて「書面で報告します」とか言って逃げ腰なので、早く済ませましょう。

「調査対象、冒険者クラン『冠の宝石』。メンバーは48人が所属し、束ねているリーダーはAランク冒険者のハヴィス・フーランです。クランの根城の屋敷には使用人として潜入して、昨夜のうちに容易く情報を取れました。なんせ、リガッティーお嬢様を話題にしてお酒を飲んで盛り上がっていたので。リガッティーお嬢様は褒め称えて、恋煩いのため息を吐き、口説くと決意を固めていました」

 自棄を起こしていないかな、シン。
 ルクトさんの雰囲気が怖くなっているわよ。

「お酒の場の冗談と言う可能性もあり、他の情報がないかと潜伏していましたが、先程もリガッティーお嬢様を、冒険者ギルドで待ち伏せると張り切っていました」
「…………」

 げんなり気味のシンの向かいで、ルクトさんが拳をわなわなと震わせて握り締めていた。

「では、冒険者ギルドで待ち伏せするしかないくらい、こちらの情報は得ていないということね?」
「はい。せいぜい冒険者内で噂されていることを知っている程度しか、リガッティーお嬢様を把握しておりませんでした。あのクランの情報収集能力を考えると、リガッティーお嬢様の素性を掴むことはまだないと言えます」

 私を口説く云々は置いといて、私の素性を掴むかどうか。

「そうだ。義父様(おとうさま)が、髪色を変えることなく冒険者活動していいって言ってたよ?」
「本当ですか?」

 そんな許可が出たとは。ビックリ。
 シンの方は、早速の”義父様”呼びにギョッとしていた。

「なら、冒険者活動を隠さなくていいということですね。ただ、やはり問題は隣国の王太子と直結してしまいかねない下級ドラゴンの件が、発覚しないように立ち回るべきですか」

 結婚は許されたも同然なので、交際も冒険者活動も、公言だけは避ければいいということ。
 ただ、一番の問題は、下級ドラゴンだ。
 下級ドラゴン討伐の件は、公にした場合、隣国の王太子が食らいつく危険が大いにある。
 そこだけ気を付ければいいとも言えるだろうか。

「うん。王太子は潰せないけど、クランリーダーの一人なら潰せる」

 物騒です。ルクトさん。
 潰すことから頭が離れられないらしいルクトさんは、笑顔で拳をギシッと握り締めた。

「落ち着いて、ルクトさん」
「落ち着けないよ! ご両親から認められた矢先にハエが集ろうとしてるんだ! 許さない!」
「コバエを追い回してもしょうがないじゃないですか。来たらその時また一蹴しましょう。しつこいようでしたら、ルクトさんが決闘してもいいですよ。まぁ、正直、Aランク冒険者同士の決闘って興味あります」
「言質取った! 絶対に勝つよ!」

 目を爛々と輝かせたルクトさんは、そのまま握った拳でガッツポーズ。

「失礼。冒険者同士の決闘って特別なのですか?」

 イーレイが挙手して質問した。

「ギルド職員の立会いの下やれば、勝者の要求は守らないといけないんですよ。それを破れば、冒険者の資格は最悪剝奪されます」
「なるほど。冒険者には重い罰ですね……」

 ケロッと答えるルクトさんから聞いて、イーレイは感心して頷く。
 そう。応えにくい要求を突き付けられた決闘なら、相当の覚悟を持って挑まないといけない。
 冒険者にとって、冒険者の資格を剝奪されるのは重たすぎる罰だ。
 決闘で近付くなと要求するなら、きっとルクトさんは勝算があるのだろう。どんな風に勝つか、興味津々だ。

「手配しますか?」
「イーレイ?」

 キリッとした眼差しで、至極真面目そうに尋ねるイーレイ。

「決闘はしつこかったら、って言ったでしょう?」
「リガッティー様……コバエは増えるものです」

 真顔で言い放つイーレイ。ルクトさんの不安を煽らないでほしい。

「見せしめに、早く叩き潰すことを推奨します」
「うん、物騒ね」

 やめなさいって。
 乗り気なルクトさんも、一回落ち着きましょう。

 そのあと、ルクトさんも交えて、家族と一緒に昼食。
 和気あいあいと昔話で盛り上がって穏やかに過ごしたあと、今後の流れと注意点をおさらい。
 明日は学園の新学期のため、長居をせずに、ルクトさんは帰宅。

「では、ルクトさん。学園で会いましょう」
「うん。また明日」

 家族揃って、ルクトさんを見送った。



 衝撃的な婚約破棄劇場があった進学祝いパーティーから、間にあった春休みが終わり、新学期が始まり、入学式が行われる日。
 
 久しぶりに制服を着るけれど、学園自体には何度も足を運ばせていたので、久しぶり感は薄れている。

 第一王子から婚約破棄を言い渡された私は、当然のことで、注目を浴びた。
 でも、私もネテイトも、気にしていませんという風に平然と馬車から降りては登校する。

 そして、婚約破棄を突き付けた第一王子とその側近の不在に、ざわざわ。人伝から広がった噂は本当だったのか、とざわめく。

 第一王子が断罪しようとしたが、私の方が普通に登校している。
 つまり、有責は第一王子にあって、成立したという婚約解消は事実。


 正直、その視線とざわめきには、憂鬱で仕方ないが、入学式の会場でルクトさんの制服姿を見付けて、微笑み合う。
 ブレザー姿のルクトさん。新鮮だ。憂鬱だったのに、心が浮き立つ。


 入学式ではやはり注目されるのは、第二王子のテオ殿下だ。
 兄の件もあるから、余計だろう。でも物怖じせずに新入生代表のスピーチをこなした。
 立派だと微笑みを零して、拍手をした。


 入学式が終わり、再会で談笑し合うクラスメイト達は、やはり、孤立気味の私を窺っている。

 ルクトさんに会いたい。

 ここにいるよりも、ルクトさんの元に行ってみようと、思い立つ。
 始業式の日は、再会を喜んで談笑して教室に残りがち。
 きっとルクトさんもいる。だからこそ、行くのだ。ルクトさんのクラスメイトを拝見させてもらおう。

 どこに行くのか、と私のクラスメイトに問われるから、令嬢モードで優雅に微笑んで見せる。

「今日、デートをする方へ、お会いしに行くの」

 爆弾発言投下で、騒然とする教室をあとにした。


 

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